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【出産】男の十月十日①~つわりの時に男は「残飯処理マシーン」であるべし~

「ちょっと話がある」と切り出されたのは沖縄での新婚旅行から帰ってきた日だった。おもむろに奥さんは妊娠検査薬を持ち出し、妊娠したらしいことを教えてくれた。

「おお…」「うおお…」などと意味のない言葉をつぶやきながら意味もなく奥さんの腹をさする。
自分の撒いた種なのにいくばくか動揺しているのは極めて間抜けである。調べると赤ちゃんはまだゴマ粒くらいの大きさで、ちゃんと育つかどうかもわからないらしい。油断大敵だ。

女性のほうはどうかわからないのだが、男性からすると奥さんが妊娠してもこれといった自覚はない。「いろいろ気を使うようにしないと、奥さんと旦那はそのうちすれ違うんだろうな」と思うくらいである。

だれもが噂に聞く「つわり」とは、妊娠が発覚して「イェーイ」などと騒いだ直後にやってくる。大体妊娠発覚から1週間くらいすると徐々に奥さんの体調が悪くなっていく。
最初のうちはまあまあ元気にふるまっていた奥さんだったが、次第に顔色も悪くなっていく。気持ちが悪いと訴えることが増えて、普段はパワーとパッションで押すタイプである奥さんがすっかりおとなしい。

食べものについては当初「オレンジジュースと梅干しとトマトはいい感じ」だったそうで、症状がひどくなってしばらく、オレンジジュースを狂ったように買い続けた。
しかししばらくするとイカの塩辛と白米をただ食べたり、かと思ったらフレッシュネスバーガーを頼んでみたり、はたまた梅キュウリを食べたり、ポテトチップスを食べたり、芋ようかんを食べたり、はたまたミックスナッツを食べたり、バナナを食べたりとめまぐるしく食べられるものが変わる。

つわりのときのお母さんは「食べたいときに、食べたいものを、食べたいだけ食べることが大事」とよく言われる。確かに食べたいときに食べたいものを食べていたのだが、唯一「食べたいだけ」というのは食べ過ぎると気持ち悪くなってしまうこともありかなわなかった。
それでも食欲が勝り、食べ過ぎて悪心を感じていたこともあったようである。空腹のときほどひもじいものもないし、これはなかなか苦しいはずである。

それだけに、奥さんがつわりの時期の男性は「残飯処理マシーン」と化すのが良いと思う。事実、私も奥さんが急に食べなくなったイカの塩辛を、じゃがいものうえに衝撃的な量をのっけて消費した。
奥さんが食べたいものを食べたいときに食べられるだけ食べたあと、その余りを必要に応じて食べるのが良い。
この時期の奥さんは自分自身のためではなくおなかの中の赤ちゃんのペースにあわせて、少しずつ、限られたものだけを、ゆっくり食べている状態にあるのだと認識しておいたらよいと思う。事実かどうかはともかくそう捉えておけば理解しやすいはずだ。

そういえば、小さいころ親から「出されたものは黙って食え、ロクなものを作れないくせに文句ばかり言うな」という教育をされてきたのだが、今思えば大変合理的であった。食事に対してわがままだと、奥さんにも気を遣わせるし、要はすげえ面倒臭いのである。アレルギーやトラウマ(小さなときに食べて嘔吐したとか)などがない限り、黙ってスキキライせず食べるのが身ごもった嫁を持つ旦那としては吉だと思う。(つづく)

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