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伏線回収だけじゃない どんでん返し『あの人が消えた』

『あの人が消えた』を観ました。
最近私の中で話題の高橋文哉さんが主演のこちらの映画、館内予告で「面白そうだな~」と思ったのがきっかけで観ました。
監督・脚本はドラマ『ブラッシュアップライフ』で演出を手掛けた1人、水野格さん。映画の宣伝文句として「あの有名な〇〇を作った!」みたいなのはあまり好きではないんですが、「ああ、あの作品の」となるのもまた事実。そんな人が作ったミステリーホラーっぽい雰囲気の作品はどんな感じかな~と、鑑賞当日を迎えました。

あらすじはこんな感じ。

「次々と人が消える」と噂されるいわくつきのマンションの担当になった配達員・丸子(高橋文哉)。日々マンションに出入りして荷物を届ける彼は、その住人のひとり・小宮(北香耶)は自身が愛読しているWEB小説の作者ではないか? と察して、密かに憧れを抱いていく。しかしその一方で、挙動不審な住人の島崎(染谷将太)に小宮のストーカー疑惑が持ち上がり、丸子は運送会社の先輩で小説家志望の荒川(田中圭)の協力を仰ぎ、他の住人たちに聞き込みを開始。引っ越し先を探しているという沼田(袴田吉彦)や、詮索好きのおしゃべりな女性・長谷部(坂井真紀)から「島崎の部屋に血だらけの女がいた」「血痕が付いた服を着た姿を見た」というとんでもない目撃情報を聞き、彼を危険人物と断定する丸子。小宮を守りたい一心で部屋に単身侵入を試みるが、運悪く帰宅した島崎と鉢合わせてしまう!
時を同じくして、世間を揺るがす大事件を追っていた警視庁がマンションに接近! ? 一触即発の緊張感が流れ始めるなか、事態は思わぬ方向へと突き進んでいく──。

映画『あの人が消えた』公式サイト (ano-hito.com)

全体的な感想

おっっっっっっっっっっもしろ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い!!!!!!!!!!
途中まではよくあるミステリーっぽいんですが、途中からの畳みかけがすっっっごい。どんでん返しってこういうことを言うんだな……
主人公の配達員 丸子くんが「このマンションの住人について1番よく知っているのは自分だろう」と語るのは、配送の需要が増えたコロナ渦に水野監督自身が感じたことなのだそう。
たしかに、家という個人の空間に同じ人が何度も足を運ぶ仕事というのはなかなか無さそうだし、マンション・アパートに住んでいても隣に住んでいるのがどんな人か知らない、なんてのも結構ある。同じ場所に住んでいる人たちよりも、外部の人の方がそこの住人をよく知っているかもしれない、というのは面白くて怖い気づきです。共同住宅がちょっとどころでなく怖くなりました。

もしまだ本編を観ていないのであれば、ぜひともネタバレ部分は読まずに観に行ってください! あの感覚は初見でしか味わえませんし、知らない方が絶対に面白いし楽しいので……!!!

※以下、本編のネタバレあり

どんでん返しの気持ちよさ

ミステリーホラー、と思いきやギャグ、と思いきややっぱりミステリーホラー。このテンポが良かったです。どんでん返しとはまさにこのこと。
丸子くんが集めた伏線はそうやって回収されるのか~~~!! すげ~~~~!!!! と思いきや、一気にミステリーホラーへ逆戻り。手のひらの上で何度踊らされたことか。

丸子くんが机をたたいた時の3人の反応や、わざと落としたマスキングテープを拾おうとしたときの丸子くんの顔の向きなど、いくつかの「なんで?」と気になる点が“実は丸子くんが殺されていた”とわかることで納得がいきます。そりゃあ突然の物音には驚くし、明らかに島崎の手元を見ててもバレないわけです。だって皆には見えていないから。ひえ~~~~~~~~~~~~。


タイトル回収

“誰かに求められる(感謝される)存在になりたかった”丸子くんが小宮さんに感謝の言葉を述べられ、成仏したそこに“あの人が消えた”の文字。
いや~~~~~~~~~~~~~~~~~~~気持ち良いタイトル回収だな!?!?!?!?!?!?
消えたのは丸子くんだったんだね……!!


エンドロール

めっちゃ良くないですか???????
『スパイ転生』の世界に本当に転生してそこでの生活をイラストとして見せてくれる……天才……?
しかもキャスト紹介もイラスト! え! やっぱり天才がいるスタッフの中に! 誰ですかあのエンドロールを提案したのは! 私が富豪だったら8億振り込むのに!


登場人物

マンションって本当にいろんな人が住んでるよね~っていうのを改めて感じました。

丸子夢久郎

演じている高橋文哉さん、最近だと『ブルーピリオド』が印象的で、その時も感じましたがやっぱり彼の演技好きです。その世界に馴染んだ自然さが特に。
ただし自然な演技ゆえに、好きな作家の為ならばとストーカー(仮)の情報を集めだす丸子くんの行動力に気持ち悪さも見えてくるという。すごいけど一歩間違えれば住人との揉め事に発展しかねなくて綱渡りすぎる。よくやったな……

部屋の中で島崎と相対し「小宮さんに何をしたんだ!」のあと急に暗転したと思ったら何故か荒川先輩がいて会話が始まるから何事かと思ったら、まさかの刺されて死んでいた………
でも確かに思い返してみれば、ギャグパートになってから丸子くんとほかの3人って会話のキャッチボールしてなかったんですよね。丸子くん的にはしていたんでしょうし観る側もしていたように見えたけど、会話の最後の1球だったり、独り言ともとれたり、誰かが返事をしなくても違和感のない言葉だったり。言葉選びが上手い……!
その代わりに違和感があったのが、机を叩いた時の3人の反応や、明らかにわざと落としたのがわかるマスキングテープや、明らかな顔の向きに気づかない3人。作り込みの甘さか、と思ったら全く違って、寧ろ狙い通りだったわけです。

警察が来て小宮さんたちに事情聴取されているあたりからは、会話にも違和感が出てきます。荒川先輩の「トリックは丸子から聞いてたんで」は特に、その場に丸子くんがいないみたいに話していたのであれ? と引っかかりました。隣にいるのにそっちを見もしない。
そして警察の「島崎は連続殺人の容疑者で」に対する丸子くんの「ほかにもまだいるんですか?」という質問に答えなかったところ。まあここに関しては、仮に彼が生きていたとしても不謹慎というか、個人情報だろうし、言えなかったのではと思わなくもない。
そしてまさかのあの暗転が彼の死を表していたとは~~~~~~~~あ~~~~~~~~~~~~~………

でも最後は小宮さんから感謝の言葉をもらって成仏できてよかった………と思いきやまさかの転生っていうね!!!!!!!! S級スパイにね!!!!!! よかった!!!!! ゾンビにはなりたくないけど『スパイ転生』には転生したいって言ってたもんね!!!! まさかここまで回収されると思ってなかったからめっちゃ嬉しかったよ!!!!!!

ギャグパート
「なんか部屋の中じろじろ見てくるし……」の言葉にはわかる~~~~!!!と膝を叩きそうにありました。どの部屋に関しても部屋の中とか住人の顔じろじろ見るなこの人……って思いましたもん。そりゃあ疑われるわ。
しかもこの地区の担当になったのが2週間前だしね。タイミング良すぎたね。多分会社に言われて異動しただけだろうけど。
たしかに配送業者はいろんな家に出入りしてもおかしくない仕事だから、悪事の連絡係かもと言われれば否定はできない。


小宮千尋

丸子くんの大好きなウェブ小説『スパイ転生』の作者 小宮さん、かと思ったら須藤さん、と思いきややっぱり作者の小宮さん。
荒川先輩が来てからはずっと、浴室に丸子くんの遺体があるのをわかっていて、かつ横からナイフ突き付けられた状態でしゃべってたってことでしょ? 相当怖かったろうに………

ギャクパート
いや~~~~~~~~よく思いつくな……いくら現役の作家で自分の小説で1度使ったことがあるネタとはいえ、名前とか目撃証言に合うような理由をその場で考えて喋ってたんだろうから、すごく考えたろうな……ダメもとで荒川先輩が気づいてくれることを願って……頭文字の“すべてうそ”が分かった瞬間鳥肌立ちましたよ。最新話のトリックがここで~~~~~!?!?!?!?

隣で自分に刃物向けてきてる島崎をポンコツの先輩として描いたの、なかなか強い。


荒川渉

憎めない先輩。でも転生してゾンビは辞めたほうがいい。
直前まで電話してたから心配になってマンションまで来た、というのはまあ不自然とは言わないけど自然かと言われるとうーん……どうなんだろう……
でも先輩が暗号に気づいてくれてよかった……最初に「面白かったです」って言ってたから読者であることは伝わってたもんね……よかった……
作家目指してファンタジーな作品書いてるわりに小宮さんの「ここに丸子さんいますかね」に対しては「いやぁ……どうっすかね……?」って返事で笑っちゃった。夢見させてくれ。


島崎

流川翼さんのふりをしていたわけですが、電話越しの声だけだとわからないもんですね……!? もっと染谷将太さんの声を聞き込んでいればわかったのかな……
電話で聞こえる音声は本人の声そのものではなく、一番近い音で聞こえるって前に聞いたことがあるんですが、今もそうなんでしょうか。

ギャグパート
ポンコツ刑事別府~~~~~!!!!!! うざいくらい英単語をそれっぽく発音しようとする本当にMI6にいたのかよってツッコミたくなる別府~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!! 本当に別府だったらよかったのに~~~~~~~~~!!!!!!!!!


寺田

好みのしごでき爆イケ上司が表れたと思ったら天才作家 小宮さんが作り上げた登場人物でした。泣いていい?
そういえば夫婦出演でしたね。共演シーンはないけど。


梅沢富美男

「う」から始まる名前の人をどう話の中に組み込んでいくか悩んだ結果、梅沢富美男本人を登場させるなんて誰が思ったよ。そのためだけに梅沢富美男がキャスティングされたの面白すぎる。
スクリーン内が少しざわめきましたもんね。(梅沢富美男……?)って。


気になったところ

とはいえ全部が全部最高~!! となったわけではなくて。
モヤッとしたままなところもいくつか。

・巻坂さんがみた、意識の無い小宮さんを介抱しているように見えた島崎の姿はなんだったのか。
→なんらかの手を使って気絶させたってこと?

・丸子くんが駆け込み、島崎と話しに行ってくれた交番の警察官はなんだったのか。
→ギャグパートの話だと潜入捜査中と聞いたので適当にあしらった、と納得がいきますが、あれは嘘なので、じゃあなんで? 本当にただ面倒だっただけ? あと「今回“も”警察の出る幕じゃないかな」と言っていたはずなんですが、“も”ってなに? 以前あった、人が消えた騒動の時の話?

・亡くなった流川翼は何処で殺されたのか
→数秒しか流れなかったので部屋の家具までは覚えていませんが、流川翼はてっきり彼女自身の部屋で殺されたものと。でも沼田さんの「血で真っ赤に染まった女(の死体)をみた」や長谷部さんの「血まみれでベランダでタバコを吸ってた」という証言を踏まえると島崎は自分の部屋に彼女を監禁し、殺害もそこで行った。だから血まみれで煙草を吸っていた。ということに。殺した後に彼女の部屋に移動させたのか、私の見間違いで彼女の遺体が見つかったのは島崎の部屋だったのか。

・203号室宛の荷物は誰が頼んだものだったのか。
→流川翼が拉致監禁されたのは何ヶ月か前。交番の警察官曰く消えた、と騒動になった後連絡が取れたと言っていたが、それはおそらく島崎が騒動を落ち着かせるために彼女に電話をさせた、と推測。
1つ前の疑問にも通じるが、仮に彼女が自分の部屋で足を鎖でつながれて監禁されていたとして、連絡手段は奪われていただろうから物を注文することもできないはず。だいぶ前に予約した商品ってこと?
「部屋にいた例がない」という丸子くんの話を踏まえると、これまでも何度か荷物は届けに来ているはずで、それらはどうしていたんだろう。ポストに入るサイズだったのかな……? 再配達の電話は今回が初ってこと……?
島崎が頼んだものではなさそう。再配達の電話の時も「明日とか? わからないですけど」「早い時間がいいですかね? わからないですけど」とよくわからない受け答え。ただ再配達の時の電話では「この時間でしたっけ?」などと言っていたので受け取る気はあったのかも。でもそれだと、後々誰かに島崎として会ってしまった時に面倒なことになるだろうから、その時点で流川翼が生きていたのなら、その時だけ鎖を取って彼女自身に受け取りをさせる予定だったとか?


心地の良い鳥肌

とかなんとか言いつつも、久々に邦画ミステリーで鳥肌が立ちました。マンションや運送といった身近な場所や人が舞台になっていると、自分も他人事ではない感じがしてより一層のめり込んでみてしまいます。
途中から丸子くんが死んでいたというのを踏まえてもう1度見るのも面白そうです。

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