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人の声の魅力はAIには絶対に再現できない

 ここ数ヶ月くらい、AIを使った音楽制作を行ってきた。様々なアーティストのスタイルを模倣した曲をまず作り、歌詞を書き、それを歌い、最後に歌声をRVCという声変換ツールで変えるのである。僕はもともとメタル系のバンド出身なのだけれど、ポップスロックヒップホップなど一通りのジャンルをこれまで扱ってきた。
 当初はAIを使っておらず、"How To Series"と称して色々なアーティストのスタイルを真似した曲を作っていた。「勝手に〇〇の新曲作ってみた」というコンセプトで制作過程を紹介し、各パートの作り方を説明したり個人的な解釈を述べたりする動画をYouTubeに投稿してきた。AIを使うようになったのは最初に引用したYOASOBIからである。どれだけ楽曲自体を似せたところで、さすがに男の声で歌ってしまえば別物になってしまうと考えたのが切っ掛けだった。

 倫理的な葛藤は常にあった。他人の声をAIに取り込んで学習させ、自分の声を変換して音楽に流用することの是非についてはずっと自問自答してきた。お笑い芸人のモノマネやヒップホップにおけるサンプリングのようなものだという気もする一方、知的財産を侵害しているような後ろめたさもあった。僕は価値判断を保留したまま「知ってもらう切っ掛けになれば」という動機で続けてきた。全ては自分のオリジナルの楽曲を聴いてもらうための伏線だった。
 勿論、賛否両論があるのは容易に想像できたので、リスク・デメリットについては事前に考えた。アーティスト本人やファンなど、一部の人は気分を害するかもしれない。また、自身の名義で楽曲を発表する際に「どうせこれもAIだろ?」なんて揶揄される可能性もあるだろう(実際に歌詞についてはいくつかそのようなコメントが既にあった)。それらを踏まえた上で、僕は自分なりに最大限のリスペクトと覚悟をもって臨んだ。歌詞や楽曲自体はオリジナルで歌も自ら歌っていること、そしてAIを用いて声を変換していることを常にオープンにしてきた。

「AIカバー」と呼ばれる音楽のほとんどは、有名な歌手の声を使って別の有名な歌手の曲を歌わせたものである。オリジナルの楽曲制作ではなく組み合わせの妙なので、工場的な短時間での大量生産が可能となる。また歌詞やメロディ、歌や楽曲そのものを何もないところから生成するAIも存在する。ジャンルや曲調、テンポやキーなどを指定すればある程度趣向に沿った曲があっという間に出来上がるみたいだ。
 僕はそれらのようなAIや使い方に対して懐疑的である。自分のやってきたことを鑑みれば倫理的な是非を問える立場ではないのは百も承知なので、単に興味がないと言った方が良いかもしれない。そこに創作という過程がないからである。僕にとってギターを弾いたり歌ったり曲を作ったり歌詞を書いたりする作業は純粋に楽しいので、それをAIに任せたらもったいないというだけの話だ。
 だが、勿論この辺りの線引きは個人的なものだと充分に承知している。AIを音楽制作に使っている人間は皆一緒くたに見られても仕方ないし、法的な整備がまだ追いついていないグレーな現状においては色々な意見があるだろう。音楽制作だけに限らず、あらゆる創作においてAIをどのように活用するべきかについては様々な議論がある。僕の考え方もあくまで現状の暫定的なものなので今後意見が変わるかもしれない。

 ゴチャゴチャ屁理屈を捏ねて精一杯自己防衛してみたが「AIなんかで遊んでないでさっさとオリジナルの曲を作れよボケ」と内心ではずっと思っている。人の声の魅力はAIには絶対に再現できない。初める前から分かってはいたのだけれど、これまで声変換ツールでありとあらゆる試行錯誤を繰り返してきた結論である。


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