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渋谷に大量発生する連中

 最近になってサッカーのプレミアリーグの試合を見るようになった。おそらく2022年のワールドカップの盛り上がりから、同様に海外リーグに興味を持ち始めた人は少なくないだろう。そうでなくともブライトンの三笘薫の活躍をニュースでなんとなく知っている人は多いはずだ。

 きっかけはサッカー好きの友達だった。彼はプレミアリーグの日本時間の平日深夜にある試合でもリアルタイムで観戦するほど熱心なサッカーファンである。試合の実況は音量を下げ、サッカー系YouTuberの配信を別画面で同時に見るという徹底ぶりだ。週末は誰も知り合いがいないフットサルサークルに参加しており、終わったらすぐに帰るらしい。
 僕は彼と電話で話している時に海外ドラマの『ブレイキング・バッド』を勧め、自分のネットフリックスのアカウントを共有した。そして、それと引き換えにDAZNというスポーツチャンネルのアカウントを共有させてもらったのである。結果、彼は二ヶ月くらいで『ブレイキング・バッド』の全シーズンを見終え、スピンオフの『ベター・コール・ソウル』まで全てチェックした。かなり睡眠時間を削られたらしく「勘弁してくれ」とちょっと参っていた。一方、僕は海外に居てDAZNが見れなかった。帰国後にその友達と数年ぶりに会った時、彼はSPOTVというスポーツチャンネルのアカウントを新たに共有してくれた。プレミアリーグの放映権が移ったとのことだった。しかし色々と環境の変化に順応するのに忙しくて僕のサッカーへの熱は低く、その後も数ヶ月くらいチェックできない状況が続いた。そして年末にワールドカップがあった。僕はにわかサッカーファンとして存分に楽しませてもらったが、普段から熱心にサッカーをチェックしている友達の心境を想像すると、ちょっと冷静になった。同じ次元でサッカーを観れていない気がしたのである。勿論そんなのは気にしないでただ純粋に楽しめば良いのだけれど、渋谷に大量発生する連中みたいに向こう見ずにはなれなかった。

 そんな訳で、目下のところ僕は必死にアーセナルの選手の名前を覚えている。これも友達の影響である。彼ほどの熱がある人間が応援しているチームなのだから何かしら見所があるのだろうし、僕もかつてウイイレをやっていた時はアンリをトップに起用していたのだ。ひとまずアマゾンプライムにあったドキュメンタリーは全エピソードチェックした。監督のアルテタは選手を鼓舞したり叱責したりする際、Fワードを使いまくっていた。
 現代のサッカーは戦術がかなり高度なレベルでシステム化されているらしいが、正直そこまではよく分かっていない。僕も一応は三歳から十五歳までサッカーをやっていたのだけど、才能は全くなかった。持って生まれたものという意味ではなく、センスを磨こうとする向上心が完全に欠けていたのだ。弱小チームのレギュラーであることに満足しており、優勝できても地域の小さな大会止まりで、県大会に出ればベスト16にも入れなかった。
 今シーズン、アーセナルは惜しいところで優勝を逃した。見れなかった深夜の試合をチェックするのが楽しみだったのだけれど、YouTubeのアーセナル公式チャンネルのハイライトのサムネイルにネタバレされた。二重に落胆するのが筋なのだろうが、正直そこまでの思い入れはまだない。ユニフォームでも買って形から入った方が良いのかもしれないと考えると、渋谷の連中も案外見くびれないものだ。

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