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イギリスのらりくらり 火をおこそう

何度も訪れたりんご農園。そこでは暖を取るために火おこしが必須でした。
登場人物は、農園のお父さんジェレミー、お母さんクレア、あと私。


Shepard hut

りんご農園に滞在するときは、一人ずつ個室、というか小屋に滞在させてくれます。
2.0m×3.5mほどのミニマルなその小屋は、その名の通り羊飼いのための小屋。車輪が付いていて、移動できるようになっています。

中にはベッド、棚・たんす、折り畳み式の机、いす、小さなストーブ。
小屋の外には、焚火台やガスコンロも設置されています。
自分でコーヒーを入れたり、火をおこすこともできるし、書きものをしたり、本を読んだり、窓から外を眺めたり…
たとえ雨で小さな小屋に閉じ込められても、案外退屈しません。

電気は太陽光パネルから。天気が悪いと電気が使えなくなることも。

火おこしチャレンジ

初めて訪れた11月も、次に訪れた2月も、今年10月に訪れたときも、火おこしが欠かせませんでした。ところが、手のひらを広げたくらいの幅の小さなストーブに安定した火を保つのは案外難しく、初めはとても苦労したのを覚えています。

ふんわり丸めた新聞紙をストーブいっぱいに詰めて、その上に小枝を載せて着火。通気口は開けておいて、火が大きく育ってストーブ全体が温まるのを待ちます。いい感じに火が盛り上がって来たら、にんじんくらいのサイズの薪をくべていって、それにも火が回ればこっちのもの。
あとは通気口を絞って熾火の状態を目指します。

と、書いてみると簡単そうなのですが、初めの火の盛り上がりがいまいちだったり、薪をくべるのが早すぎたり、薪がしけていて火が移りにくかったり、そもそもマッチの火がうまく付かなかったり笑。

Fingers crossed

なかなかうまくいかないので、ジェレミーに聞いてみると、
「あのストーブは小さいから火おこし難しいよね。」と。
そして「新聞と小枝をつめたら、あとはFingers crossedだよ。」と、Fingers crossed&ウィンクをされました。
「これが本場のフィンガークロスとウィンクだ!」と内心盛り上がりながら、「分かった!フィンガークロスね!してみます!」と、再び小屋に戻って火と向き合いました。

多分、その時の私のやり方は、新聞と小枝の量が少なかったのと、ストーブの中を気にしすぎて何度も開けすぎだったのかな、と思います。
詰めて火を点けて扉を閉めたら(窓は開けておく)、フィンガークロスしてしばらく触らない。これがコツなのだと解釈しました。
そして実際、扉を開け閉めしない方が断然うまくいくのでした。

薪の林

りんご農園の母屋には、台所に調理&暖炉を兼ねたストーブと、リビングにも素敵な暖炉がありました。そのため薪は常にストックされていて、サイダーの仕込みが終わると、やがて薪づくりの時期がやってきます。
そしてその薪の供給元になっている林も、農園の敷地内にありました。

英語で coppice と呼ばれる林は、薪利用のために切り戻されてはひこばえが育ち、再び薪としてりようできるようになるという仕組み。エリアごとに木の種類は違うようでしたが、だいたい10~15年サイクルで計画的に利用するようでした。
彼らがりんご農園をはじめてから、約30年。
「この林もジェレミーが植えたのよ」とクレアから聞いた時、その仕事量と積み上げてきたであろう時間の長さに、息が漏れたのでした。

木の種類は分からないけれど、落葉樹。

初めて泊まった小屋はその薪の林の奥にあり、母屋からは400m位の距離がありました。夜遅く母屋から小屋へ戻る時、真っ暗な森の小道を歩きながらも不思議と恐怖を感じなかったのは、ほぼ等間隔にならんだ木々に無意識に人の営みを感じていたからかもしれません。
暗い土の小道には、紅葉した落ち葉がよく映えて、そしてそれが道しるべにもなりました(場所によって落ちてる葉っぱが変わる)。

一週間の滞在のあと、帰りの列車で暑いなと思ってニット帽を脱いだら、ふんわり焚火の匂いがしました。りんご農園の余韻を持って帰ってきたような気分になって、ひとりにんまりしたのでした。

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