『手帳類図書室』に行ってきた

『手帳類図書室』に行ってきた。

『手帳類図書室』とは。

「参宮橋Picaresque(ピカレスク)にある「手帳類図書室」では、人が記した手帳や日記やネタ帳など、あらゆる「手帳類」を収集する志良堂正史のコレクションを読むことができます。ギャラリーの一画で、誰にも見せるつもりじゃなかった手帳類を、1時間1000円からご覧いただけます。手帳類の筆致や筆跡、手触り、音、においなどを、あなたの五感で解釈してみてください。」(公式HPより引用)

つまり「図書室で本を読むように、ギャラリーの一画で他人の記録した日記や手帳が読める」というものである。

卒業制作の調査の一環としてネットサーフィンをしていた時に偶然見つけたもので、かねてから気になっており、先日ついに足を運ぶことができた。


天気の良い日だった。

小さなドキドキを胸の端に感じながら閑静な住宅街を進んでいくと、目を惹く彫刻?なのかはわからないが何か鮮やかな色のアート作品の奥にひっそりと潜むギャラリーにたどり着くことができた。

扉を開けるとスタッフの方が温かく迎え入れてくれて、少し緊張が溶ける。


図書室はどこなんだろう…と思っているとスタッフさんがレジ横の白いカーテンをめくる。

「事務所の中にあるんです」とスタッフ2名が仕事をしているごく小さな空間に案内された。

あまりにアットホームな空間に正直一瞬驚いたが、壁にかけられている鮮やかで可愛らしいアートが目に入りすぐに綻んだ。
図書室、というより「幼い頃両親の職場に連れて行ってもらい、知らない大人たちのいるところで1人遊びをしている」ような感覚に近いな、と感じた。特別構われたりはしないけれど、時たま気にかけてくれる感じ。ちょうどいい距離感というやつだろうか。

席につくと仕事をしていた2人のスタッフさんのうちの1人が、レギュレーションを説明してくれる。以下が主な内容である。

・目録の中から1人3つまで日記を選ぶことができる
・メモをとっても構わないが個人情報が特定されるようなメモはしないこと(帰りにスタッフさんにメモを一度確認していただく)


目録にざっと目を通しながら、何個か選びそこから3つに絞った。

スタッフさんに番号を伝えると壁際に並ぶ棚からジップロックに入った重量感のある日記を取り出してくれる。

あまりの量に驚愕していたら「選ぶ日記によって冊数もそれぞれ違うんです」とのこと。私が選んだ日記のうちの一つは全部で8冊(8年分!)ぐらいあったと思う。多分。

さて、日記に続いて、メモと筆記具を受け取りいよいよジップロックを開け、1冊を取り出す。

個人情報保護のためと、これから手帳類図書室に行く人が同じ日記を選んだ時のネタバレになってはいけないので、内容の詳細を書くのは控える。


あっという間の90分だった。すっかりその人の8年間にのめり込んでしまった。


スタッフさんと談笑をし、ギャラリーを出る。


雲が増えた夕暮れが目に入った。


一緒に行った友人が「なんか体力もってかれたね」とこぼした。


そう。本当にそう感じた。

久々に文字を長時間読んだから。集中して活字に向き合ったから。

そういう類の疲れではない。誰にも見せるつもりのなかった心の内を、人生を、見た。そういう重量感。


『手帳類図書室』に行って強く思ったのは、「他人の人生を覗き見るのには覚悟がいる」ということだ。

「他人の心の内を見る」という点で、現代のSNSに似てると感じた。

SNSって便利だけど、疲れる。疲れる理由には人それぞれ色々あると思う。

ネガティブな意見に触れるとか。承認欲求とか。

あまりに多くの心の内を、こちらが受け入れる覚悟もないままに、人の人生や感情の喜怒哀楽が見えすぎてしまっているから、小さなダメージが蓄積して気づいたら疲れているんだと思う。


ひとつ印象的だったものがある。

しばらく白紙が続いたあと、ページの真ん中に赤いボールペンで寂しげに書かれた短い文章。

それ以前の空白の期間やその言葉の意味を察してしまって、心がぎゅっと締め付けられた。

あまりにも印象的だったから、メモに残そうとも思った。

けれどやめた。

その人の内の感情をメモすることさえなんだか無粋なことなような気がしたし、きっとこの言葉はその人だけのものだと思った。上手く言えないけれど、私が干渉していい領域じゃないと思った。

SNSにある発言にも、そういう、他人が口を出すべきではない事象がたくさんある。簡単に人の心とか、人生の一部に踏み込んではならないと思う。ましてや手帳類図書室で日記を一方的に読むのとは違って、SNSはリアルタイムで相手に届いてしまうものだから、良くも悪くもその人を変えてしまう。


他人の人生や心に踏み込むのなら、それ相応の覚悟をもっていなくてはならない。


あなたには覚悟はありますか?


ぜひ一度『手帳類図書室』を訪れてみてください。


「覚悟」の意味が分かる人も、いるかもしれません。



手帳類図書室公式HP:https://techorui.jp/


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