見出し画像

透過


静かな場所で、外部の情報の一切を遮断して、沈み込んで考える。

時計の針の音、
鳥のさえずり、
遠くで聴こえる車の音。
誰かもわからない通りすがりの小さな話し声。

真夜中の車の中。
明け方の青い窓辺。
寝乱れたベッドの上。
真昼の閉め切った部屋。


あちらこちらで痕跡が残っていく。
私が貴方が誰かが其処に居たという痕跡が。
目に見える形で、目に見えない形で。

望もうと望むまいと。

息が始まって、その心臓が動き出して。
もうその瞬間から誰も逃れられないはしない。
それでも隠れて泣きながら幸福を望む。
その様子を愛おしいなんて唱える。
どいつもこいつも可愛らしい振りをして、
またどこかで聞いたような話が延々と。


そっとでいいんだ。
見えなくてもいいんだ。
溶け込んでしまえばいいの風景みたいに。
大きく重くなんてそんなのこわいわ、
くっきり浮き彫りなんてそんなのこわいわ。

多くを望まない、多くを望まない。

一人で横たわって、寝落ちる寸前の、眠りと現実の間のような場所で。ハッと気付けば、呼ばれれば、きちんと表の自分に戻れるように。

だって気付いてないなんて、なかったなんて、そんなわけないでしょう。

確かに、そこ に、な に か 。


ほら 今 だって 貴方 の 後ろ で




“ だ れ か 、 。 ”



沈み込んで考える。
じっと息を潜めて違和感に意識を集中させる。

なにか見えもしないのに、
聞こえやしないのに、
逢えるわけもないのに、
すくえもしないのに。

こんな不完全な想像力を働かせて何になるの。
なにかになれることを願いながら。

答えも出ないことを繰り返し繰り返し繰り返し。




口なんて閉じたまま。




#テキスト #随筆 #散文 #エッセイ #アート #智乃

綴られた言葉が気に入った貴方様、思い当たる気持ちがあった貴方様。もしよろしければ、サポートして頂けますと今後の励みになります。いただいたサポートは、引き続きアーティストとしての活動費に使わせていただきます。