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2020 ヒットコンテンツ分析:『バチェロレッテ』の没入設計が凄い

2020年下半期のコンテンツ消費動向で、個人的に特に興味深かったのが、AmazonPrimeVideo『バチェロレッテ・ジャパン』でした。

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私もこれまでバチェラーシリーズは全て鑑賞し続けてきましたが、シリーズ4作目にして、主役が男女が逆転するだけで、こうもコンテンツが面白くなるものか…。

過去のシリーズとは比較にならないほど、今作『バチェロレッテ』は良く出来過ぎていたなぁと、配信から少し経った今も染み染み感じています。

(本noteは『バチェロレッテ・ジャパン』本編の一部ネタバレを含むレビュー内容となりますので、気になる方はぜひ本編を視聴後にお読みください)

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リアリティ・ショー通じたバーチャルな体験に、自分を重ねて、イラッとしたり、誰かを応援したり、批判したり、感動したり、共感したり、ああでもないこうでもないと言い合い、それをSNS通じてシェアし消費する。

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恋愛リアリティショー自体、こうした下世話な欲求に応えながら、鑑賞者がつい「一言」言いたくなってしまう、そんな「没入設計」を持ったコンテンツフォーマットと言えますが…

とりわけ今作『バチェロレッテ』に関しては、

そんな「下世話な面白さ」に止まらず、さらに鑑賞者をコンテンツに没入させる"ドライブ要素”を、複数持ち合わせていたように思います。

これらドライブ要素によって生み出されていく物語は、一体どこまで製作陣意図したものなのか、はたまた偶然の産物なのか…

いずれにせよ『バチェロレッテ』は間違いなく、シリーズ随一の”コンテンツ力”を宿していたように思います。

今回は2020年の備忘録をかねて、この“ドライブ要素”について、特に目を引いた所を、いくつかピックアップします。

その1:ルールが生み出したドライブ

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外連味たっぷりにショウアップされた演出の中、競技的とも言える「番組ルール」に則って、虚実入り乱れた婚活サバイバルが行われる点はバチェラーに続き『バチェロレッテ 』も同様なのですが…

今作では、この「番組ルール」という、視聴者の間でもすっかりお馴染み・お約束となったコンテンツ資産を使って、さらに番組を面白く、美味しく料理していたと言えます。

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中盤戦を盛り上げた新ルール“ストールン・ローズ”にはじまり、賛否両論を呼んだ萌子様による、度重なる “ルール破り”と、世間を騒がせた大オチに到るまで。

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『バチェロレッテ 』は次回作以降、もう同じやり方では盛り上げられないであろうギリギリの臨界点まで攻めた、お約束の破壊=「ルールドライブ」によって、視聴者の期待や予想を次々と裏切りながら、物語を次々と跳ねさせ、波紋を生み出すことに成功していました。

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その2:構造逆転が生み出したドライブ

ドライブ要素として大きかったのは根本の根本、番組の企画部分。やはり今作の肝である、主人公の「男女逆転」にあったと思います。

今作最後の「掟破り」とも言える大オチは、主役が男女逆転しているからこそ、強いフェミニズムの文脈や社会性を帯びる形で、賛否両論が湧き上がりました。

初代バチェロレッテ となった、福田萌子さん(以下、萌子様)。改めて彼女のプロフィールを振り返ると。

沖縄県那覇市出身、スポーツをこよなく愛し、とくにロードバイクがお気に入りのスポーツトラベラー。

現在アディダスのグローバルアンバサダーも務め、女性のためのマルチスポーツコミュニティー「adidas MeCAMP」のキャプテンとしても活動中というスーパースペックぶり。

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人生は「経験値」であり、自身が活躍することで「ダイバーシティの証明」「女性をチアアップしたい」という高い理想を掲げるその姿は、イケメン王子様の「バチェラー」から選ばれるより、釣り合う男性を自ら選ぶ、まさに「バチェロレッテ」にピッタリな強くて逞しい現代的な女性像。

ディズニーが現代女性・ヒロイン像として描いていきそうな、新自由主義・リベラルの申し子的な価値観の女性ですね。

ご本人もその路線で、徹底したセルフプロデュースを行っていて、その振る舞いや言動は、とても「模範的」です。

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「あなたは、どう思っているの?」
「あなたは、どんな人なの?」
「あなたが、大切にしているものはなに?」

男性を見極めようとする萌子様が、相手に問い続けるその姿は、さながら外資系企業のバリキャリ女性マネージャーとの1on1。

コミュニケーションというよりは、
圧倒的な、評価面談感。

余談ですが。私自身、長らく外資系クライアントの広告企画やプロモーションに携わる立場にいて、決裁者の女性管理職の方を相手したプレゼンで、やらかしてしまった時は、

まさに萌子様のこんな目を向けられてきたので、本編がこんな場面を迎えるたび、心がキュッとしたのを覚えています(笑)。

しかし実際、番組中で次々とアプローチを受ける萌子様の受け方、かわし方、フィードバックは、まさに「模範解答」そのもの。

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「わたし」に合うか、合わないか。
相手が自分の成長に繋がるか、繋がらないか。
経験になるか、ならないか。


進むべき方向に対して、一貫してPDCAを回して行くような、その振る舞いや言動に、そこはかとなく漂ってくるビジネスの香り…そんな「香ばしさ」も含めて“カンペキ” を演じる萌子様に対して、視聴者の側は、

「その考え方ってどうなの??」
「一人で生きて行く分にはいいんだろうけど…」
「結婚したいなら、それじゃあ上手くやれないよ…」


等と、外野からついつい物申したくなる、うまいバランス。

そして、“カンペキ”な萌子様も、自身の矛盾(不完全性)をつかれると「私の決断、私の人生は私が決める」≒(Shut up)と、議論の余地を塞ぐ、とりつくしまがない態度を、思わず取ってしまいます。

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「結婚したい」という彼女のKPIに対して、彼女自身が、他人と意見をまじわせ、譲り合ったり、相手のために自分を変えたり、他者との中間地点やを見つけたり、愛を育んでいくということを選ぶことができず…

それに彼女自身も苦しんだり葛藤する点は、まさに恋愛リアリティショーの「リアル」の部分として、批判と賞賛が渾然一体となって、多くの人の心を打ったのではないでしょうか。

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そして、この『“カンペキ”キャラクターの不完全性』という点は、コンテンツ視点で極めてキャッチーで、魅力的です。

萌子様は、まさに"2020年現代の恋愛リアリティショー”における「主人公」足り得るキャラクターでした。

男性が主人公となるバチェラーでは、きっとこの「強く鋭い聡明な主人公」像は描けなかったのではないでしょうか。

もっと言えば、男性の現代性を、恋愛を通じて「主人公視点」から描き、共大きな共感を創出すること自体が、そもそも難しくなってきているように感じられます。

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一つだけ。男性描写という点では、この男女逆転の副産物的な面白さとして、男性が1人の女性を奪い合うという構図の中で、男性同士のホモソーシャルで楽しげな、いわゆる男子校的な一体感や雰囲気を演出していました。

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多くの視聴者が、回を追うごとに深まる男性出演者間のやり取りや友情やに、ほっこりし、時に目頭を熱くしたのではないでしょうか。これも、過去のバチェラーシリーズにはなかった、コンテンツの新しい魅力でした。

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男女逆転という今回の企画は、恋愛を描く上で、時代としての必然的だったのかもしれません。それにしても、構造逆転によってここまでコンテンツを面白く、フレッシュにドライブさせるとは、番組開始時点で思いもしませんでした…。

その3:キャスティングが生み出したドライブ

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最後の振り返りは、主役の萌子様をはじめとした、出演者達のキャラクター力・タレント力の高さです。

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今作『バチェロレッテ 』の魅力は、一癖も二癖もある、このキャスト達の奇跡的なアンサンブルに寄るところが、とても大きかったと言えます。まさに製作陣の神キャスティングの賜物です。

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萌子さんを含め、それぞれが適度にツッコミどころをもち、次々とキャラクターを開花させ、出演者同士で物語を生み出していく。

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特に「今作のヒロイン」にして、もう一人の主人公といっても過言でないスギちゃんと、少しヒールの要素を持った黄さん。相対する魅力を持つ二人が最終的に勝ち上がり、一騎打ちに至るストーリー。

回を追うごとに回収されていく、最終回までに散りばめられたスギちゃんの「愛」の伏線とメッセージ。

原則としてプロットがない中で、それぞれのキャラクターから物語が生まれ、それが自走していくというのは、コンテンツとして理想的でありながら、決して狙ってできるものではありません。

これが恋愛リアリティショーの面白さの局地か…

2020年様々なヒットコンテンツが生まれましたが、とりわけコンテンツとしての「面白い」と感じさせるレイヤーが、こと『バチェロレッテ』は幾重にも重なり合っていて、その出来の「仕上がり方」には、本当に感服しながら、大変勉強になるコンテンツでした。

制作陣はこれをどう意図して、あるいは意図せず作っているのか…

一方で、行くところまで行ってしまったのが、今作『バチェロレッテ』。現在『バチェラー』『バチェロレッテ』いずれの新作も、参加者が募集されています。

マジックがかかった今作以上のコンテンツを、
果たして続編で生み出せるのか…

2021年以降、新作のローンチがもっとも楽しみなシリーズの一つです。

写真:(C)2020 Warner Bros. International Television Production Limited

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