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JR西日本の立ち往生、何が問題だったか(追記あり)

2022年1月24日の夜から翌朝にかけて発生した、JR京都線と湖西線における大規模・長時間の立ち往生では、Twitterを中心に乗客な悲惨な状況や、乗客の救助のために会社に掛け合う車掌・運転士の苦境が実況され、大きな話題となりました。
25日に行われたJR西日本の記者会見を踏まえつつ、少し書いてみます。
くわしい時系列とか、電車が何だったかとかは書かないので、調べてください、スミマセン


立ち往生の発生

 記者会見によると、立ち往生の原因は線路の分岐を切り替えるポイント(転轍機)が雪により目詰まり・凍結し、切り替えられなくなったことが原因でした。
 ポイントが切り替えられないと、同じ線路を走る電車が分岐できないため、駅で追い越したりもできなくなるため、停止せざるを得なくなります。それが京都駅にある91台のうち、19台が不能になってしまったそうです。

 ポイントには融雪器を設けることで、こういうトラブルを防ぎます。
京都駅にある多数のポイントでは「カンテラ」と呼ばれる灯油式コンロのようなものが使われていました。これは作業員が手作業で設置するため、電車が走っていない前夜に作業する必要がありました。
 この融雪器を使用する基準として、JR西日本では降雪量10cmという目安がありましたが、23日夜に入手した降雪予測データが8cmだったことから、カンテラの設置が行われませんでした。「10年に一度の最強寒波」により実際には15cmの積雪が観測されたそうです。
 融雪器は雪がない時に設置しても問題はなく、積雪量は気象現象なので予測データを厳密にあてはめて判断するルールになっていたわけではない ということです。

また、計画運休については融雪器のパワーを越えるような大雪の予想の際に行うものと想定されていて、融雪器が不要と判断されていた今回は検討もされていなかったとか、そもそも大雪による運休の基準について「手元にない」と回答できないなど、どうも怪しい発言もありました。

 この事案では「異常な大雪によって電車が進めなくなった」のではなくJRの判断の甘さで融雪器が使用されず、本来なら運行できたであろう天候で立ち往生が発生したと言えます
簡単にいうと「天気予報では雪少ないって言ってたのでノーマルタイヤで出かけたら立ち往生しました!」みたいな話

遅れに遅れた降車判断

 19時前に発生したポイント不能により、電車が次々と停車を余儀なくされ、駅間停車した電車だけで15本、約6,980名の乗客が閉じ込められました。JR西日本は全ての車両を駅のホームに入構させるべく、乗客の避難ではなくポイントの復旧を優先させました。
 結果として13本の列車はホームに入構できましたが、2本の列車は深夜まで状況が進展せず、停車から4時間以上、やっと線路への脱出が始まりました。特に1400人という満員状態で立ち往生した新快速では、体調不良者が相次ぎ、救急隊によるトリアージが実施される、最後の一人は翌朝の5時半に脱出など、乗客が大きな負担を受けました。
Twitter上でも「高齢者が倒れた」「トイレ待機列が2両を越えた」「1両に女性だけで集まってそこで女性は簡易トイレで用を足した」など、惨状が報告されています。
 車内では「車掌と運転士は線路への避難で意見が一致して要請しているが、輸送指令に却下されている」「これ以上、会社に背くと処分されるので強く言えない」という放送がありました。

 会見で明らかにされたのは、JR西日本には運行再開を目指すあまり乗客対応が先延ばしにならないよう駅間停車してから1時間を目処に、降車を判断するという規定があったそうです。しかし、実際には5時間にわたって、乗客の救出より運行再開が優先され、このルールが活かされることはありませんでした。

なぜJRは降車させなかったのか?
会見では次のようなリスクや理由が挙げられました
・夜間で暗いこと
・線路の上は足場も悪く、積雪もあること
・応援に駆けつけた駅員と乗務員の数名では誘導が難しいこと
・もうすぐポイントが復旧するのではないかという期待があったこと

しかし、実際にそのリスクの中を、5時間以上飲まず食わずで立ち続けた乗客に、天候が悪化した後で歩かせるという結末となりました。

(ちなみに、Twitterで被害者の話を見てる限り「もっと早く降ろしてほしかった」って意見が多数。というか「足元が悪い線路に降ろされた!」って意見は目にしてないです)

 Twitterでは鉄オタを中心に「線路は他の電車が走ってきて轢かれる危険もある」「危険をなくすために抑止をかけると全線ストップしてしまう」という事がもっともらしく流布されていますが、前述の通りとっくに全線ストップしてしまい、動けない状況でした。記者会見でもそういった心配については一切言及はなく、そもそも早い段階で救急搬送された乗客もいたため、こういう話は見当違いです。

 また、停車してから最初の1~2時間であれば、他路線の電車が走っていたため、多くの乗客は帰宅したり、ホテルのあるエリアに移動できたはずですが、降車判断された頃にはそれも叶わない時間になっていました。

長時間経ち続けるリスク

 満員電車で長時間閉じ込められることは、健康上のリスクをはらみます。
・立っていて、歩かない時間が長いと血液が脚に溜まり、低血圧(貧血)の症状を起こす
・水分不足による脱水症状、血栓、脳疾患など
・酸素不足による酸欠
・感染リスクの拡大
 また、糖尿病の患者が低血糖で倒れたという情報や、赤ちゃんが体調を崩したという情報もあります。
 当然ですが、こういった急病が発生しても救急車への搬送に時間がかかりますから、何時間も缶詰にするのは非常に大きなリスクです。高速道路や国道の立ち往生ではNEXCOや国・自治体が熱心に対応していますが、あれが普通といえるでしょう。

急病人が長時間放置された事例も

衝撃的なツイートです

 車掌や運転士が活躍し称賛された車両もあったようですが、一歩間違えば死者が出るような状況も起きていました。これはしっかりと検証される必要があるでしょう。倒れた人が2時間放置されるのは、常軌を逸しています。
 
「だれも死ななかったのはJRが頑張ったから」とか言ってる方がいましたがそれが間違いだとわかりますね。JR西日本は救急搬送された方々について「これから誠心誠意、対応させていただく」と言ってましたが、どう対応されるのか注目です。

降りたら降りたで帰宅難民

 新快速から脱出した1400人の乗客は、1.2キロの雪中行軍ののち、山科駅に到着しましたが、すでに地下鉄などは終わった時間。そこに用意されていたのは既に座席が埋まった「列車ホテル」でした。乗客の中にはJR側から「列車ではないホテルを手配している」と聞かされ、それを信じて駅に向かった人もいたようです。列車に入れなかった多くの乗客は駅構内や、急遽解放された民間施設などで夜を明かしました。
 野洲市や守山市では市役所により避難所が解放されたようですが、本来であれば、JRがそういった要請を早期に行い、乗客を誘導する必要がありました。
山科駅では「降車するなら自己責任」京都駅では「不要不急のなか外出したあなた方にも責任がある」など、JR職員の発言も物議を醸しました。

ことごとく想定不足、準備不足

融雪器の判断ミスに始まり、いつ終わるか自分たちでもわからないポイント復旧に賭ける姿勢、
1400人の乗客を下ろすのに6時間かかったが訓練などをしていなかったので具体的な時間の想定はできていなかった、
19時には停車が始まったのに21時10分に立ち往生した電車が出た、
避難所の手配が遅れた、救援物資の配布がほとんど行われなかった、など、「想定外」が連発していました。

行われなかった自治体への情報共有

 帰宅困難者を多数発生させておきながら、地元自治体には全くと言っていいほど情報共有していなかったことが明らかになってきました。

 野洲駅では約500人の帰宅困難者が発生。野洲市は午後8時20分頃、同駅で足止めされた利用客の家族から「子どもが帰宅できない」と連絡があり、事態を把握した。JR西日本に問い合わせたところ、対応を依頼されたため、午後9時45分、近くの野洲文化小劇場を開放。利用した約200人に市職員が毛布やパンを配った

 守山市が守山駅近くの「あまが池プラザ」を開放したのは、宮本和宏市長の元に入った1本の電話がきっかけだった。
 「駅前のタクシー乗り場に30人以上が並んでいるが、雪で配車できない。このままだと誰か倒れるかもしれないので助けてほしい」
 タクシー会社からの連絡で、市長自ら駅へ向かい、改札に30~40人、タクシー乗り場に10人ほどいることを確認。「大変なことになる」と感じ、一時避難所の開設を即決した。

 一方、大津市は特段の対応をしなかった。JRから、大津、膳所両駅でそれぞれ500人が電車内にとどまり、堅田、大津京の両駅にも約20人ずついると随時、情報提供があったが、開設の依頼はなかったという。
市の担当者は「要請があれば対応を考えたと思う」と説明。「そうした事態も想定し、自発的に動くなど改善を図りたい」とし、今後、対策を検討するという。

 JR草津駅前にも深夜まで行き場を失った利用者がとどまっていた。草津市は避難所を開設しなかったが、近くの学習塾が施設を開放すると十数人が利用した。市の担当者は「市民の問い合わせやJRからの情報提供がなく、帰宅困難者がいること自体を把握していなかった」と説明した。

京都新聞 https://www.yomiuri.co.jp/local/shiga/news/20230127-OYTNT50067/

京都市の防災危機管理室は、午後10時ごろ、SNSに投稿された画像などから駅に多くの人が滞留している状況を把握
急きょ、山科駅に職員を派遣しました。
そして、JRに連絡をとり、市が管理している山科駅近くの施設や、市営地下鉄との駅をつなぐ地下連絡通路を開放し、防寒用のアルミ製のブランケットを配布したということです。

NHK https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230127/k10013962781000.html

 さらに、消防筋によると、現場に駆けつけた救急隊と消防隊から「傷病者多数」の報告があり、多数の消防車・救急車とマイクロバスを応援派遣し、救助・誘導のほか、ピストン輸送に当たったそうです。
 京都市・野洲市・守山市のように、ほとんど情報がない中で、しかも深夜に対応できた自治体は素晴らしいですが、もっと早い段階で情報提供や要請があれば、帰宅困難となった乗客たちは凍えたり飢えることなく夜を明かせたはずです。
 国はもちろん、メディアもこの点は厳しく指摘するべきだと思います。

繰り返される「立ち往生」「缶詰」

 似たような事例は全国で何度も繰り返されています。2018年にはJR信越線で430名の乗客を乗せた列車が立ち往生し、15時間半にわたり乗客が缶詰にされました。この間、多くの乗客家族が列車周辺に集まって身柄の解放を要求する事態になりました。また、警察や消防、自治体までが救助を提案したものの、JR側が断っていたことが明らかになり、厳しく批判されました。
 
 2021年6月にはJR山手線で電気トラブルによる立ち往生が発生し、4千人の乗客がエアコンも電気も消えた列車に3時間閉じ込められ、結局、線路から脱出しています。

なぜこうなってしまうのか?

 JR西日本はかねてから大きな事故・重大インシデントを繰り返しており、その度に「安全軽視、スピード・利益至上主義」という傾向を指摘されています。今回も、運行再開に異常なまでに執着し、乗客の生命や都合といったものはほとんど重要視されていないことがわかります。
 そもそもの融雪器の設置見送りは、手間とコスト削減と言われても仕方ありません。予報データを自分たちに都合よく受け取って、作業をしなかったことは非常に問題です。
 降車判断についても、線路を歩くリスクについては一見もっともらしいのですが、「満員電車で何時間も閉じ込められるリスク」は無視されていますし、安全に誘導するための人員を用意していないため、決断できないというのが実際のところでしょう。
 結果として降車せざるを得なくなり、多くの乗客が長時間閉じ込められた上に線路も歩くという、両方のリスクに晒されました。13両は結果的に駅のホームに到着できましたが、そこでも多くの人が4時間〜9時間も閉じ込められています。
 JR西日本の指令にとっては運行再開することが至上課題であり、乗客の都合や安全については重要課題ではない、もっと言えば乗客の存在は記号や数字としてしか認識されていないのではないでしょうか。もしかしたら、乗客を駅間で下ろすことを「負け」「恥」と考えるような考えもあるかもしれません。
 
 前述の通り、警察や消防、自治体との連携も非常に遅れました。山科駅近くには救急隊が多数集まりましたが、JRではなく乗客が呼んだものだと言われています。安全確保のための人員や、避難場所が必要ならば然るべき要請を(早期に。みんな準備があるんだから)行うべきでした。なんとかして身内だけでコトを収めようとしていた閉鎖性は、隠蔽体質と同質のものに感じられます
 また、食料や毛布などの配布も、ほとんど行われなかったようで、公共交通事業者としての最低限のレベルに達していないと感じます。

今後、必要なこと

 「念のために」「早め早めに」「無駄かもしれないが」というような価値観を根付かせていく必要があると感じました。
(ごくごく基本的な安全管理論ですが)
 また、過去の事例にのみ教訓を得ているフシがあるので、他の事業者で発生した事例を検証し業務に反映させられるような仕組みが必要でしょう。(いや、やってるはずですが・・・)
 また、沿線自治体や関係機関との連携や、多数の乗客を降ろしたり誘導する訓練も絶対に必要です。
 しかしながら、すでに未曾有の大事故を発生させ、この数年も大小様々な事故・トラブルを起こしては厳しく批判されてきたはずで、それでもこういった始末ですから、乗客の側が「そういうもん」だと思ってサバイバルセットを背負って乗る必要があるのかもしれません。

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