「体と頭とプレーの質」 〜その②〜

以前の記事でプレーの質を上げるための要素として体を自由に操ることについて説明しました。今回はその続きとして明確な意図(ビジョン)を持つことについて話したいと思います。

 まず考えて欲しいのは、体を自由に操る力(身体能力)でスポーツにおける勝敗の優劣は全て決まるのか?ということです。

 陸上競技や、水泳などの記録や着順を競う競技では身体能力は勝敗を決する要素として大きな割合を占めます。しかし、野球やサッカーやバスケなどの対人競技では身体能力だけでなく、明確な意図(ビジョン)も必要となってきます。

ではそもそも明確な意図(ビジョン)とは何なのか?

 分かりやすく言うなら「試合の流れを読む力」です。戦術眼やインテリジェンスといえば具体的で分かりやすい人もいるでしょう。そしてこの戦術眼やインテリジェンスこそが日本サッカー界に最も不足していると言われている力です。

 神戸のイニエスタ選手は何が凄いのか?それを問うと多くの人が足元のテクニックが上手いと言います。実際、スクールの子どもたちからも同じ答えが返ってきました。100点満点なら50点の回答です。これは非常に大きな問題で、大人も子どもも、多くの人がサッカーを表面的な部分でしか見ていないのです。なぜドリブルで相手をかわせるのか?どうして体格差があっても取られないのか?全てをテクニックの一言で片付けてしまい、分析をしていないのです。

イニエスタ選手の凄さとは?

 ではイニエスタ選手の凄さとは何でしょうか?その答えは正確で高い技術と、状況に合わせて常にベストなプレーを導き出す戦術眼を併せ持った選手であること。自分の能力を理解したうえで相手にどうやったらボールを奪われないか?どうしたら相手よりも一歩先に行けるのか?味方をどう生かすのか?どうしたらゴールが生まれるのか。それを瞬時に判断して正確に実行できるのです。

宝の持ち腐れにならないために

 ここ数年ドリブル偏重のサッカーチームやスクールが激増して影響もあり、ドリブルが上手な選手が増えました。それと同時にドリブルが上手くてサッカーが下手な選手も増えました。十分なテクニックがあるはずなのに長所を生かしきれず、チームのリズムを悪くしてしまう。その理由は明確な意図(ビジョン)を持ってプレーしていないことが原因です。どれだけ高い能力を持っていても、それを活かせる場面で発揮しないとただの宝の持ち腐れになってしまうのです。

 そうならないためにも、技術練習はもちろんですが、戦術も小学生のうちからしっかりと理解して両立していくことが大事なのです。

余談

 いつの時代も世界と比べて体格が劣る日本人と言われますが、非常に近い体格のスペイン人は世界のビッククラブで多く活躍ています。そうなると体格や人種は言い訳にならないですよね。では日本人とスペイン人の差はどこにあるのでしょう?

 あくまで私の推測ですが、それはサッカーが文化として確立しているスペインと、まだまだ文化として根付かない日本の差なのかも知れません。野球が戦後日本の娯楽の象徴として根付き、baseballから野球へと独自の文化として発展したように、日本サッカーがもう一段階上のレベルにステップアップするためにはまずはそこからなのかも知れません。