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雨の日には冷えたスプーンを

アゼルバイジャンからこんにちは

「先輩、一緒にアゼルバイジャン行きませんか?」
  小柄で、八重歯の可愛い彼女は、唐突に私に話を持ちかけた。
大きめの唐揚げを頬張っていたわたしは危うく落としかける。
「ん?なんて?」
「アゼルバイジャンでビジネスを一緒にしましょう!」
 やや乱雑に箸をトレーに置くと、前のめりになって、目をキラキラさせていた。やや引くぐらいに。

彼女の生い立ちは、複雑だった。父親が働かず、ずっと貧乏だった。小学校6年生の時、彼女は、夢で父親をトイレに流したそうだ。流石にこれには不覚にも笑ってしまった。 
そりゃあ、大変だったね、と声をかけると、彼女はいつも笑ってこう言うのだ。

「苦労は買ってでもしろ、って言いますから。」

ポジティブな言葉や考え方は、誰かの助けになる。最悪な状況でも、ジョークを飛ばせる人みたいに。それは、目を背けたい状況から、逃げるためなのか、それとも、一旦落ち着きたいためなのか、はたまた打開策を考えるためなのか。

辛い経験を糧だと思える彼女は、今ごろ本当にアゼルバイジャンでバリバリ仕事をしているかもしれない。数年後、億万長者で報道されるかもしれない。

たまに考える。わたしの人生は、映画にしたら何分くらいになるのだろうか、と。誰かが素晴らしいと拍手をくれる生き方をしているのか、と。彼女の生き様を映画にしたら、きっとカンヌ国際映画祭の最優秀賞作品だろう。

辛くなった時は彼女の言葉を思い出す。
彼女の言葉に恥じぬよう、わたしもまた誰かの明日を楽しくさせる言葉を紡ぎ続けられるように。

きっと、ありがとうと伝えたら、彼女は、こう言うだろう。

「いえいえ、まだまだ苦労不足です。」と。

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