うたうたいのものがたり #6

♬With you 行けるとこまで行くだけさ そう迷いながらで良い

お気に入りのTシャツにシンプルなパンツ、スニーカーにリュック、好きな音楽を聴きながらひたすら歩いています。

歩く速度はその時々。気になるものがたくさんある道なら少しゆっくり。あまり見るものもなくてつい考え事をしてしまうような道は少し早足に。お気に入りのお店や景色がある道では立ち止まることもあります。

リュックの中身は大切なものです。暑い時期は冷たい水、寒くなったら白湯。お気に入りのタンブラーに入れて持ち歩きます。本。電子書籍は偉大ですね。本棚と移動しているかのようにたくさんの本を持ち歩けます。これから読む本も、これまで読んできたお気に入りの本も。その他にもいろいろです。少し古い型ですが、お気に入りのiPod。お守り。手紙。年賀状。写真。論文。水族館のメモ帳。お気に入りのキャラクターのマグネット。赤いボールペン。グレーの小さなトートバッグ。缶ジュースの形をしたグラス。いちごチョコレート。腕時計。

大切なものを選ぶ時に、ないと困るものではなく、なくなると困るものを選びました。ないと困るものは新しいものを用意することができるものです。なくなると困るものは、代わりになるものがないものたちです。

こういう言い方をすると、なんだか陳腐なのですが、いわゆる思い出の品というものですね。

こうして歩いていると、思い出の品の大切さが身に沁みます。思い出そのものも色褪せることはなく大切な宝物なのですが、段々と自分の夢だったのではないかと不安になることがあります。そういう時に、手紙やマグネットやお守りをそうっと手に取ると、ああちゃんと私の大切なものは存在していたんだという実感が湧いてホッとします。

立ち止まっていても良かったのですが、歩いてみると意外に気持ちがいいものですね。大切なものは持ち歩いていれば無くしてしまうこともありません。途中で少し良いものに出会えるのも嬉しいです。このずっと聴いている音楽もそうです。素敵な音楽を聴くと、思い出のものを撫でなくても、私の中にある思い出がものすごい存在感を持って浮かび上がってくるときがあるんです。まるで、その場にあるかのように。思わず手を伸ばしてしまうほどです。

どこに行くって明確な目的があるわけではありません。大切なものを持って、お気に入りの音楽を聴きながら、ただ歩く。声をかけて頂いて、本当に嬉しかったです。でも、私は自分のペースで行けるところまでこのまま歩いていこうと思うので、気にせず先に進んでください。

どれくらいこうして歩いてきたのでしょう。まだほんの数時間しか歩いていない気も、もう何年も歩いている気もします。大切なものでリュックは一杯。転びそうになる時があるので、両手もあけておかねばなりません。なので、自分で持つ大切なものを増やすことはできませんが、音楽や物語ならいくらでも増やしていくことができます。こんなに大切なもので手一杯の私にも、こんなに素敵な楽しみがあったなんて、歩き出してみた甲斐がありました。

さあ、少し話しすぎました。私は、水を飲んで一息ついてからまた歩こうと思います。どこに行くためではなく、歩くことで出会える素敵な音楽と物語を求めて。

♬その先へ あの空へ どこまで行こうか?

Hello / 松尾太陽

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