ものがたり、というアルバムについて。

松尾太陽さんのアルバム、ものがたりが本当に素敵。ものがたりというタイトルにぴったりな「物語」を感じるアルバムになっていて、1曲1曲感想を述べたり、イメージからちょっとした物語を作って書いてみたいと思っているのだが、今回はまずその曲順について。最初に聴いた時、1曲に惚れ惚れした余韻も束の間、え!次はこんな曲が来るのか!と驚かされた箇所が何箇所かある。しかし、いや、だからこそ、この並びがものがたりなんだ、と思った話。

このアルバムの曲順のポイントは最後の1曲だと思っている。そのタイトルは、起承転々。タイトルのイメージ通り、起承転結とは違う「続いていく物語」を感じることができるこの1曲がラストに来ることで、聴き終わる、という感じがあまりしない。自然ともう一度1曲目のMagicに戻りたくなる感じ。さらに、その「転々」に表されているのか、曲順通りに聴くとガラッとテイストが変わる部分も多く、次の曲が流れた瞬間にドキッとさせられることも多い。リリース前は、ものがたりというタイトルなのだから、物語らしく1本の流れを意識してスムーズに繋がっていくようなアルバムを想像していたので、最初はかなりびっくりした。しかし、2周目に入るとすぐにすとんと腑に落ちた。私が出会ったこのアルバムは、私を含めた誰かの続いていく物語を、歌を通して語っているのだ。

シンプルに物語というものについて考えてみる。ふつう、物語というものには、メインのテーマがあって主人公は誰から見ても主人公で、ひとつのエピソードは始まりがあって終わりがある。続いていく物語でも、何かが終わってから新しいものが始まる。でも、実際に自分の物語を考えると中々そうはいかない。楽しいことと辛いこと。悲しいことと幸せなこと。何かの途中で他の何かに躓き、転んだり立ち上がったり。どこかに向かって徐々に展開していくのではなく、色んなことが偶発的に起こって、起こして、ぐねぐねと進んでいく。私の物語だけで展開することなんかなくて、誰かの物語とぶつかったり合流したりしながら、色んな方向に広がっていく。

自分の物語に起こる、色々なこと。そのひとつひとつを大切に扱いながら、たとえどんな展開を迎えたとしても、手を伸ばすならば明るい方へ。

松尾太陽さんの色彩豊かな歌声で語られるものがたりを聴きながら、そう思った。

ものがたり / 松尾太陽

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