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スイスでコロナ越冬

コロナ騒ぎ勃発以来、それまで目に見えていなかった国境が可視化されることを痛感する事例が相次いだ。パスポートなしで楽々と越えていた欧州国家間の国境が、文字どおり「閉じた」昨年三月。そしてその後のウィルス対策においてもここまで国ごとの施策が異なるか、ということを思い知らされた数ヶ月。マスク着用義務の有無、どのタイプの店を閉めるのかという判断、不要不急に含まれるもの、含まれないもの、隔離義務を課す相手国や地域のリスト、そこだけは譲れない聖域的な産業分野の違い、教育機関はどうするのか、何人までの集まりを許可するのか、罰則化するのかしないのか。こうしたことが一つ一つ、それぞれの国の公衆衛生事情や国民性、政治制度や文化的、社会的な優先順位、経済との兼ね合いなどと天秤にかけられて判断される様子は、傍観者的な視点からは大変興味深かった。

しかしこの件に関しては、誰もが当事者なので、のんきな傍観者でいられるようなものではない。身の回りでは本当に身近なところで相当数の罹患者が出ているし、「いつ、日本に行けるのか」「行けるとしたらどういう条件をクリアしなければいけないのか」※「ホームオフィスにするのかしないのか」「家族内の対コロナ感覚の温度差によるストレスをどうする」「子供の学校が休みになるスキー休暇はどうするのか」「美容院は行かないべきか」「やはり対面で会うのはやめておこう」「コロナテストはどのタイプがいくらくらいかかるのか、あるいは無料なのか」「今、病院に行くべきか」「同居する若者の行動制限をどこまでとするか」などなど、極めて具体的な疑問が山積。そしてそれへの回答は、日々刻々変化する状況に応じて、やはり日々刻々変わる。

昨秋以来、いくぶんかの時差を伴い、しかし、例外なく欧州各国を襲ったコロナ第二波への対応に関して、私が暮らす国、スイスは欧州他国に比べてかなり緩い規制のまま12月に突入(緩さの背景には中央集権的な施策が取りにくい連邦制という政治制度、お上から規制されることを嫌う国民性、ビジネス至上主義的な国のあり方などが指摘されてきた)。この間、国民10万人あたりの感染者数は欧州トップレベルのポジション(ドイツやフランスなどよりずっと多いのです)を保持し続けてきたにもかかわらず、国レベルでは飲食店も閉めず、美術館やコンサートホールやジムも開け続け、学校もずっと開いていた(州レベルでは独自の判断ですでに秋から飲食店等をしめたところもあり)。クリスマス休暇直前に「さすがにこのままではまずい」という判断になったのだろう、やっと飲食店が閉まり、文化施設も閉まった。さらには英国で広がっている新たな変異種がスイスでも爆発的に広がるのは時間の問題、という予想に背中を押され、昨日、ようやくさらに厳しい対策(18日より実施)が発表された。曰く、

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日用必需品を扱う店以外の全ての小売店閉鎖
私的集まりは最大5人まで最大2家族まで                公的な場での集まりも最大5人まで
ホームオフィスの義務化(職種上、不可能な場合を除き)
職場でのマスク着用義務
リスクグループ人口の保護の徹底

さらに細かくいえば、これまで開いていた野外のマーケットは閉まるが、春先と異なり、花屋さん、美容院、フィジオセラピー、補聴器屋さんなどはオッケー。ガーデンセンターもオープンにするが、本屋さんはクローズ。そして学校(小、中、高)は引き続き、オープン。そして議論噴出だったスキー場に関しては、一定のルールを課した上で営業は許可。あとは各州で判断して決めてください、というような内容だ。

このスキー場、周辺国の多く(フランス、ドイツ、イタリアなど)は閉めている。というわけでクリスマス休暇には英国からのスキー客がスイスに殺到。英国での変異種の広がりを受け、急遽彼らに自己隔離義務を課したところ、一晩で800人だかのスキー客が滞在先のホテル等から一斉に忽然と消える(フランスなどに陸路逃亡したたらしい)、という冗談みたいな話もあった(逃亡者の数はフェイクニュースだったという報道が後にあったそう)。

ゲレンデ自体は外だからいいとしても、すし詰めのゴンドラとか、どうなるの? クラスター、当然出るでしょうね。スキー場のレストランは当然閉まってるよね。ランチは弁当? などなど疑問は尽きない。とはいえ、二月には恒例スキー休暇で1〜2週間学校が休みになる。小さい子供を抱えた家族が「せめてスキーにでも出かけないことには子供も親もメンタルが持ちません」と悲鳴をあげる気持ちもわかる。

イタリアやスペイン、ギリシャなどにとっては夏が稼ぎどき。対するスイスは冬が稼ぎどき。お隣のドイツではクリスマスマーケットもまた稼ぎどきだったし、やはりお隣のオーストリアは音楽祭とスキーがなくなるのは非常に痛い。そしてどこの国も文化芸術、スポーツ面での規制のダメージは計り知れない。そんな中、それぞれの優先順位で苦渋の選択をし、そしてもちろん、その選択にはさまざまな批判や反論が押し寄せる。政治家からレストラン経営者、音楽家から学校の先生、若者たちからお年寄りまで、当事者でない人は一人もいない。皆が皆、公共のためだけでなく、それぞれの立場から言いたいことを言うのだから本当に大変だ。

水際対策のリアル

さて、上記で触れた※我々、国外在住者が今、日本に行くとしたら、の件。変異種の大流行を受け、いわゆる水際対策(さすが島国なボキャブラリー、と今更にして思う)が強化された。変異種の感染が認められた国(スイスをはじめ欧州勢、ほぼ全滅)からの入国者(スイスも当然入っている)については、

・出国前72時間以内に実施したCOVID-19「陰性」証明の提出
・それができないものは検疫所長の指定する場所での3日間の待機。
・その上で、入国後3日目において改めて検査。陰性であれば、検疫所が確保する宿泊施設を退所し、入国時から14日間が経過するまでの間、引き続き、自宅等での待機義務。

となっている(外務省サイトより)。英国と南アからの入国者は上記に加え、事前検査の結果が陰性でも指定施設で3日間待機が義務だ。

ちなみに英国から所用で日本へ飛んだ知人がいるが、その人は上記二行目の「検疫所長の指定する場所」ということで、羽田空港到着後、なぜか成田のホテルに送られたそう。部屋から一歩も出られないのは仕方ないとして、部屋に届けられる毎度の食事がなかなかきつかったらしい(マメに証拠写真を送ってくれました)。確かにすっかり乾いたご飯とか謎のヌードルに干からびた唐揚げなど、今時の日本でこんな不味そうなものってあるのか、とちょっとおののくレベル(なので一時帰国を考慮中の方、何か食べ物を持参した方がいいかと)。

やっぱり大変そうだな、と想像しながら、外務省ページのさらにその続きをつらつら読んでいて、驚いた箇所がここ↓

1月14日から、当分の間、新たに、入国時に14日間の公共交通機関不使用、14日間の自宅又は宿泊施設での待機、位置情報の保存、保健所等から位置情報の提示を求められた場合には応ずること等について(別段の防疫上の措置を取ることとしている場合はそれらの事項について)誓約を求め、入国時に誓約書に誓約していただきます。誓約に違反した場合には、検疫法上の停留の対象になり得るほか、(1)日本人については、氏名や感染拡大の防止に資する情報が公表され得ます。(2)在留資格保持者については、氏名、国籍や感染拡大の防止に資する情報が公表され得ることとするとともに、出入国管理及び難民認定法の規定に基づく在留資格取消手続及び退去強制手続の対象となり得ます。

罰則ならともかく、この名前を晒すという手法、確か、ルールに違反した国内の飲食店などにも用いられていたと記憶するが、これ、中世の晒し台にも通じる「見せしめ」コンセプトの系譜じゃあありませんか、と愕然とするのは私だけだろうか。同調圧力に優れた社会ならではの最高に効果的な手法、なのだろうが、悪さした子供の名を道徳の時間に学級で発表して恥かかせることで抑止力とする、みたいな光景を想像してしまい、やはり違和感は拭えない。

スイスも第三波到来はすぐそこ、なのか

スイス連邦政府からのロックダウンのお知らせが出た翌朝。チューリッヒは久しぶりの大雪に見舞われた。こうして机に向かっている今も、雪はこんこんと振り続け、目視で早くも30センチくらいの積雪。雪が音を吸い込むせいで、怖いくらいの静寂が広がる。春にはコロナを尻目に小鳥のさえずりがかつてないほどに元気だった。夏はしっかり暑く、野菜も立派に育った。秋はやはり第二波を実感するのが難しいくらいに奇跡の晴天続きで連日これでもかっていうほど夕焼けが美しかった。人の活動が制限されたせいもあってか、とにかく自然が圧倒的に元気だったこの一年。季節は再び巡って第二の冬。コロナに閉ざされ、雪に閉ざされたこの冬はまだ当分、明けそうにない。

そんな冬景色が欧州大陸を覆っている今、何しろ陸続きなわけだから完璧な水際対策などできるはずもなく(ましてや見せしめ晒し台手法などまかり通るわけもなく)、変異株がスイスに広がるのも時間の問題だろう。スイスのベルセ保健相も自身のツイッターで「悪いニュースです。変異株は急速にスイスでも広がり、第三波到来の恐れも」と警告したばかり。戦々恐々とした「予想」の前に、ここ数ヶ月、後手後手という批判にさらされ続けてきたスイスが、今回ばかりは「遅過ぎにならないうちに」という先手手法に舵を切った。規制の強化は辛いけれど、その決断をまずは歓迎したいと思う。

春はきっとやってくるし、もしかしたら小鳥さんたちは去年よりさらにパワーアップして戻ってくるかも。心して、落ち着いて、辛抱強く、コロナ越冬、頑張りましょう!(と、まずは自分に、そして英国の大学に少なくとも4月まで戻れなくなってしまった娘にハッパをかけてみている年の初めです) 

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