緊張を“うまく使う”ための緊張対処マニュアル

僕は初対面の人と話すときに緊張する人間です。電話は嫌いだし、服屋とか電器屋とかで話しかけられたくないタイプ。その一方、英語講師なので、毎年たくさんの知らない人の前で話をしています。まあまあ大きな試練です。でも今は問題なく授業できる。
緊張しなくなったわけではありません。次年度体験授業とか、大失敗して誰も受講してくれないと、精神的にも経済的にも大打撃。当然かなり緊張します。僕がうまく授業ができるようになったのは、緊張しなくなったのではなく、緊張を“うまく使う”ことができるようになったからです。

そもそも緊張とは何でしょうか。緊張するとアドレナリンが分泌され、交感神経がはたらき、心拍数が上がって汗をかいたり鳥肌が立ったりします。というより、こういう身体の状態を「緊張」と呼んでいる、といったほうが適切でしょう。

イヌやネコも似たような状態になります。「緊張」するのは人間に限った話ではありません。人間やその他の動物のこういった状態をひっくるめて
闘争/逃走反応(fight-or-flight response)」と呼んだりします。つまり外敵に出会ったときには、戦うか逃げるか、どちらにしろ素早く判断して行動しなければいけない。言ってみれば「緊張」というのはそのための準備をしている状態です。だから本来「緊張」状態にあるとき、脳の反応スピードや運動能力は、普段より高くなっているわけです。

ところが我々人間はしばしば緊張によって頭が真っ白になってしまい、考えたり行動したりすること自体ができなくなってしまうことがありますよね。「闘争/逃走」とは真逆の状態になってしまう。

「闘争/逃走(fight or flight)」は外敵に出会ったときの選択肢ですね。敵が自分より弱そうなら戦って、自分より強そうなら逃げる。実はもう一つ選択肢があります。敵があまりに強過ぎて戦うことも逃げることもできないとき、最後の手段、死んだふりに賭ける。これが「硬直(freeze)」です。つまり「緊張」とは、
闘争/逃走/硬直反応(fight-flight-freeze response)」と表現できます。

外敵に出会う→緊張
[敵が自分より弱そう]→闘争
[敵が自分より強そう]→逃走
[敵があまりに強そう]→硬直

緊張によって頭が真っ白になってしまい、考えたり行動したりすること自体ができなくなってしまう。これは敵が強過ぎると感じているために「硬直」モードに入ってしまったということです。

敵が肉食獣などであれば、闘争/逃走/硬直という3つの選択肢は有効でした。しかし現代人の敵は肉食獣ではなく、試験や面接などのたぐいです。逃走という選択肢はなくなってしまった。するともう選択肢は闘争か硬直かしかありません。敵が自分より強そうと感じたら、もはや硬直以外無いというわけです。


外敵に出会う→緊張
[敵が自分より弱そう]→闘争
[敵が自分より強そう]→✕逃走
[敵が自分より強そう]→硬直

ところが肉食獣相手ならばしばしば命を救ってきた硬直は、現代人の敵、試験や面接にはまったく役に立ちません。

そして厄介なことに一度身体が緊張状態に入ると、普通はその状況が終わらない限り緊張状態は解けません。「落ち着け自分!」と心の中でいくら唱えようと無意味です。禅の達人でもない限り、自然に緊張状態が解けるということはありません

つまり、本質的に我々の選択肢はひとつ。闘争です。

結局のところ試験や面接に多少失敗したところで死にはしません。強大な敵に思えるかもしれませんが、本質的には大した問題ではありません。自分より弱い敵だと思って闘争モードに入りましょう

闘争モードに入るには緊張状態をポジティブに解釈することになります。

「うまくやれる」「勝てる」「たいしたことない」
「やる気が出てきた」「テンションが上がってきた」
「面白そうだ」「楽しめそうだ」

このように自分に言い聞かせることは、「落ち着け自分!」よりもずっと効果的です。緊張状態を別の状態に変えることより、緊張状態の解釈を変えることはずっと簡単です

某忍者漫画などで「武者震いだよ」と言っているのは、実は極めて実用的な意味があるわけです。逃げられない敵に対する緊張状態をポジティブに解釈して、闘争モードに入っているんですね。

心の中で言うよりも声に出した方が大きな効果があるので、声に出せるうちに実際に「勝てる!」とか「武者震いだよ」などと言った方がいいでしょう。入試では周囲のライバルも威圧できて一石二鳥。緊張状態がピークになる前にポジティブに解釈しておくことで、闘争モードに入りやすくできます。


ただ、一度硬直モードに入ってしまうと、闘争モードに切り替えるのはなかなか難しいこともあります。そういうときに強制的に闘争モードに入るスイッチがあります。それが怒りです。

怒りは冷静な判断力を失わせる、非常に強力な感情なので、普段はコントロールしなければなりません。しかし硬直モードに入ってしまったときは、この強力さが役に立つ。強制的に硬直モードを闘争モードに上書きしてくれるわけです。いざというときのカードとして用意しておきましょう。

試験や面接の類は考えてみればそもそも理不尽なものです。

受験料数万円といったらかなりの高級レストランでフルコースが食べられる金額なので、そのぐらいで扱われてもいいよね。ソファ付きのラウンジでコーヒーのサービスぐらい出てきてもおかしくない。それがなんでやたらと寒い部屋の硬いイスで待っていなければならないのか。

雇う・雇われるは本来対等な関係なので、雇う側は良さそうな人だと思ったら採用すればよいし、雇われる側は良さそうな会社だと思ったならOKすればよい。どちらかがそう思わなかったらさようならです。わざわざ「このペンを1万円で私に売ってください」などという無理難題を聞くような会社は、何がしたいんでしょうね。一休さんがほしいのなら寺にでも行って探した方がいい。

緊張してやばい、と思ったときはそんなことを思い返すと、少しずつ緊張がイライラに変わります。結局、身体反応としてはほとんど同じですよね。精神的に攻撃的になることで、硬直モードが闘争モードに上書きされる。こんな理不尽な状況で緊張して苦しんでいることそのものが馬鹿らしくなってくる。それによって頭と体が動くようになります。


一度闘争モードに入ると、緊張はむしろ頭の回転を速くしてくれます。普段なら解けないような問題が解けたり、普段なら思いつかないような受け答えができたりします。いわゆる「フロー」状態にも入りやすくなります。ただしその分、普段とは時間の感覚が変わったり、時間の感覚そのものが無くなったりすることもあるので、特に試験中は注意ですね。


試験でも面接でも何にしても、まずは楽しんでやろうぐらいのポジティブな気持ちで行きましょう。そうすれば緊張が敵から味方に変わります。あとは幸運を!


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