見出し画像

人類皆兄弟は、本当だった話。

テレビで人類皆兄弟を形にした番組を見た。どうしても会いたい芸能人を決めて、友達にできるだけその人に近そうな友達を紹介してもらい続けるとたどり着く事ができるのかという話だった。。

私には、20年くらい昔よく通っていたBARがある。
仕事を変え住むところを3駅先の町に変え、いつしかその店には行かなくなった。その間いろんなことがあったけれどその店の店主とは、年に2度ほどメールをする中だった。近況を報告するでもなくただ月が綺麗な日に
『今日は、月が綺麗だよ』
『そっかぁ帰りに見てみるわ』
と言うメールだけ。それだけしかない20年である。

そんなある日、たまたま飲んでいた別のBARの人から
『その人なら自分で店だしたわよ』
という話を聞いた。それが今から3年前の話。

なんとなく近くにいることがわかってしまうとメールもしづらくなった。気になって行ってみたいけど3駅先ということが私のいかない理由としては十分すぎるほどだった。会ってみたいけどあの頃とすっかり変わってしまった自分の容姿もいかない理由の一つだった。

そんなことも少し忘れかけたある日の朝、なんとなく今日が決行の日のような気がした。

3日前、母が白内障の手術をした。手術は成功したが私が心配だったのは、術後の生活だった。父は、母に協力的だろうかと……そして私は、父の期限をとるべくたくさんのメールのやりとりを父とした。父は、いわゆる昭和気質の典型だ。その父に気持ちよく母の世話をさせるべく褒め、同情し、喜ばせ、自慢を聞き、そして旅行という人参をぶら下げてた。父は、母の世話をよくした。ちょっといざこざになりそうになっても私は、とにかく引いた。
そのことが落ち着いてちょっと徳を詰んだ気分になっていたのかもしれないし、1つのプロジェクトが成功の兆しに乗った祝杯気分だったのかもしれない。


そしてその日の翌日は、休み。まるで意図したようだった。
それでも心配な私は、そこから運を確かめる。

家を出て会社まで1度も赤信号にひっ掛からなかった。いい兆しだ。
その後翌日病院の予約をした。予約時間が11時より前しか取れなかったら行かない。そう思って電話したらあっけなく予約は12時の枠しか空いてなかった。
仕事が残業になったらいかない。と思っていたら仕事は、定時の30分前に終わり時間を持て余した。
それでもまだ気持ちに迷いがあった。とりあえず3駅前に進んでみよう。そう思い立って電車に乗った。

私は彼に、会いたくないわけじゃない。
失敗したくないだけなのだ。そして怖いのだ。
彼から覚えられてないこと。魅力的に思われないこと。会わなければよかったと後悔すること。それが怖くて仕方ないのだ。
会わなければ良い思い出で終わったことを後悔に変化させたくなかった。

久しぶりに降り立った駅は、昔より少し寂れてはいるものの懐かしい匂いがした。街を歩くと少しお腹が減ってきた。道を歩いていると昔バイトしていた店と同じ名前の店を見つけた。懐かしいと思い暖簾をくぐってみた。私が働いていたのは、20年近く前のことだ。そこには、私が知っている人は、もちろん一人もいなかった。
そうだ!ここで昔の話をしてみよう。嫌な気分になってしまったらあの人のBARに行くのは、やめよう。そう思って話をすることにした。
『この店って別の場所じゃなかったですか?』
『別の場所でした!布団屋さんの隣ですよ。』
『そうですか!私かなり昔その店でバイトしてたんですよ』
そう聞くと彼は、昔からの経緯を教えてくれた。

聞けばその頃の店長は、あれからかなり店舗数も増やしていて成功を収めていうようだった。そんな話を聞いたあと、名前を聞かれて言い淀んでしまった。私のことなんて覚えてるはずがない。店の人から、『次回社長が来た時にお話ししますから』と言われ『覚えてないと思いますけどと言いながら仕方なく苗字を告げた。』なんだかあの頃の店長に会えなかったことが運気を下げたような気がした。
今日は、もう行くのをやめよう。
そう思った時に厨房の方から声がした。
『今社長と電話でつながってます。』
そして彼は、私に電話を差し出した。
『お前元気か?どしたんか?久しぶりやな!』
私は、その声で突然20年前に戻ってしまった。嬉しくて涙が出そうになった。『名刺置いていけよ』そう言われて涙が出そうになった。
今日は、朝からいいことしかない。

もう今日は、行くしかないと思った。決行するなら今日だ。

お店に向かう。扉を開けるとすぐにカウンターがあり彼の姿が見えた。『こんばんわ』そう言って席に座る。『ラフロイグをソーダで』そう伝える。出来上がっていく様子を見ながらじっと待つ。差し出されたグラスに口をつける。そして10分ほど普通の会話を楽しむ。天気だったり時事ネタだったりお酒の話だったり

『この店は、長いんですか?』
『まだ4年目です。』
『素敵なお店ですね。私も昔この街で学生時代バイトをしてたんです。今日は、その店に行った帰りなんです。』
すると目の前にフルーツが出てきた。
『こちらどうぞ。苦手なものはなかったですか?』
『大丈夫です。カットが素敵ですね』
『ところでお客様、椎茸は食べれるようになったんですか?』

ハッとした。
『いつから気付いてたの?』
『いや入ってきた時からわかったよ。この演技いつまでするのかって思ってた』

それからは、昔の話に花が咲いた。15年ぶりに会う人が覚えてくれていることに驚いたし嬉しかった。これは、恋かもしれないと錯覚するほどに嬉しかった。

人は、回りめくってどこかで繋がってる。一度会いたいと思い願い周りの人にそのことを伝え続けたらどこかで繋がっていて誰かが繋げてくれる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?