繁華街の厨房にいる、菊婆の話
私が、私自身のために、菊婆のことを忘れないようにするために、いろんな気持ちを忘れないために、ここに書く。
菊婆(キクばあ)は、14時から23時の間いつも店にいる。
学校が終わった後、何にもない時、1人でいたいけど1人でいるのは無理な時、めっちゃいいことがあった時、いろんな時があったけど、14時から16時の間ならいいよっていってくれて、仕込みの手伝いをしながら何にも話さなかったりたくさん話したり、いろんなことをした。
菊婆はたしか65〜70歳くらいのおばあちゃんだけど、いろんな時間を生きている。これ多分伝わらない気がするんだけど、今を生きてるとかじゃなくて、菊婆は過去にいたり未来にいたりする。ちょっと時空がひずんでいるところにいる時がある。
だから、おばあちゃんって感じはしなくて、15歳くらいの女の子な時が多い。
たまに120歳くらいになる時もあるけど。
そういう不思議な菊婆なんだが、菊婆はよくほめてくれた。
若いってだけでほめてくれたり、身につけているものをほめてくれたり、本当に何から何まで、よくないところも菊婆はほめてくれた。
友達と喧嘩した時も、試験がうまくいったり落ちたりした時も、好きな人ができてから別れるまでの一連のくそどうでもいい流れも、進路の話も、私の身に起こった出来事はほぼ菊婆が知り尽くしているといってもいいくらいなんでも菊婆に話していた。
逆に菊婆も私にいろんな話をしてくれた。菊婆の恋愛遍歴、仕事の話、世界中を旅行した時の話、といっても時空が歪んでいるので話がしっちゃかめっちゃかになっている時がしばしばだったけど、話を聞くのは楽しかった。
でも、最近よくからだが限界だなあと言ってて、はじめは茶化していたけど、本当に倒れちゃったり、痩せちゃったりとかもして、そんなこんないろいろあって、もう長くは店にいれないかもって話してた。
昨日とさっきも、菊婆に会いに行った。今日の菊婆は36歳くらいの時空にいた。少し元気そうでほっとした。
私にとって菊婆は優しくて愛のあるおちゃめなかわいい女の子で、たぶん友達なのかもしれないとも思う。
菊婆が私に優しくしてくれたから、人にどうやって優しくすればいいのかなんとなくだけどわかるようになったし、料理が少し好きになったし、菊婆と話すのは楽しいと思わせてくれた。
私が卒業するまではいてねって茶化して言ったのが、本当に現実になろうとしているとはちょっと信じられない。
今日も、またねで最後お別れした。
また明日も、菊婆に会いに行こうと思う。
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