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【連載】花と風葬 5

 「…今日午後一時頃、福井……市……三人の…が発見……ました。…が確認され………さん…………二十八歳……さん……。…の第一発見者である………………と述べています…。警察は…とです」
うるさい。黙れ。家のテレビを思いっきり強く叩いてしまったせいで音が悪い。俺は福井県庁にいた。
「それで、あなたは亡くなったお嬢さんの夫なんですよね」
「はい」
そうです。僕の妻はもう何をしても戻りません。いっそ僕も死にたいです。

 俺は三年前を思い出していた。最近は夢でたまに見るくらいで、しっかりと思い出すことはなかった。思い出したくもなかった。俺の中で風化させていくつもりだったのに。あの女のせいだ。

 福井一家殺人事件。一時期ワイドショーなんかでも取り上げられた、福井県のとある家族が何者かに惨殺された事件。2ヶ月たった今でも未だに犯人は見つからず逃走中。遺体の第一発見者は、殺害された一家の娘の夫。
 すなわち、僕。
 妻の実家に夫婦揃って帰省し、たまたま僕は近所のスーパーに出かけていた。今日は鍋にするかと思いながら、冷え切った手を首にあてて温めながら、雪の降る冬の高い雲を見ながら、好きな音楽を口ずさみながら。
 静かだった。あまりにも静かで君が悪かった。呼んでも返事がないので、家中探した。庭に、埋まっていた。全員。雪が全員の顔に薄くかけられて、胴体は土に埋もれていた。首には縄で縛られたような跡が見つかった。棺桶に見えた。掘り返すと、六本の足が、それだけで見つかった。口から吐いた言葉が、全てが、叫びが、俺を包んだ。気持ち悪かった。死顔だけ妙に澄ましてる。その瞬間、僕は死神に取り憑かれたように、台所に行き、包丁を取り出し、自分の喉に向けた。その瞬間、悲鳴が聞こえた。僕だった。僕が、僕自身が、死ぬのを否定していた。怖がっていた。包丁は床に転がっていた。死にたいはずなのに。僕は死にたい!死にたい!君のいない人生なんて、意味がないも同然じゃないか!もう一度それの柄を持ったとき、後ろから誰かに手首を掴まれた。
 
 俺はなぜ殺しをしているのだろうか。
「あなたのココに穴が空いているから」
穴の正体はなんだ。
「さぁ?僕には分かりかねます」

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