【読書記録】2021年3月(前半)

ごきげんよう。ゆきです。

3月前半の読書記録です。海外作家を中心に選ぶつもりでしたが、結構バラエティに富んだラインナップになった気がします。

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逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。アイドル上野真幸を“解釈“することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し——。デビュー作『かか』は第56回文藝賞及び第33回三島賞を受賞(三島賞は史上最年少受賞)。21歳、圧巻の第二作。

第164回芥川賞受賞作ということで、今どこの書店に行っても最も目立つ所に贅沢な平積みを見せている本書。候補云々の前に本書を「欲しい本リスト」に入れていた私は、あれよあれよと有名作品の一員を果たしていったそのスピード感に着いていけず、気がつけばミーハーなタイミングでの読了となってしまった。しかも「読み終わったから送るわ」と母からの宅配便で受け取ったので、久しぶりの紙媒体。

圧倒的な描写力。アイドルの推しを推すことが人生となっている少女のリアル。推しがファンを殴って炎上、という現実世界でも起こりうる事件から始まる、少女の怒濤のもがきと苦しみが五感豊かに綴られている。

物語の雰囲気は『コンビニ人間』に似ている。あちらがマニュアルが無いと動けないタイプの主人公なら、こちらはマニュアル通りに動けず自分の推し事でしか生きられない主人公。社会では、前者であればなんとか受け入れられるだろうが、後者はきっと除外されてしまう。どちらの生き方が良いのかはきっと読者次第だし、私はいくら考えても結論が出せない。

芥川賞受賞作。その中には比較的短編ながらも狭く深く主人公を描き、その人生を想起させる手腕を筆者が遺憾無く発揮している作品が多く、どれを手に取っても新しい感情に出会えるのが面白い。

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旧友の招きでスタイルズ荘を訪れたヘイスティングズは、到着早々事件に巻き込まれた。屋敷の女主人が毒殺されたのだ。難事件調査に乗り出したのは、ヘイスティングズの親友で、ベルギーから亡命して間もない、エルキュール・ポアロだった。不朽の名探偵の出発点となった著者の記念すべきデビュー作が新訳で登場!

noteで色んな人の読書感想文を読むのが趣味の私。中でも印象的だったのがアガサ・クリスティの魅力についてひたすら語り倒す、とある女性の記事だった。家族ぐるみでクリスティのファンだという筆者の熱のこもったプレゼンに心を鷲掴みにされ、「とりあえずハヤカワの全集の第1巻から」と選んだのが本書である。

そう、私はミステリ好きと言っておきながら、実は海外の名作はシャーロックホームズしか読んでいない。理由は単純で、カタカナの登場人物が憶えられないから。カタカナが嫌、という理由で受験科目を日本史に即決したくらいなので、その苦手っぷりはダテじゃない(なんの自慢にもならない)。

苦手を意識しないよう恐る恐る読み始めたが、読了してみれば古さを感じさせない鮮やかかつ完璧なミステリーの名作に感動しかない。些細な描写も伏線として命を吹き込まれており、無駄のない美しいエンドに痺れた。ポアロの紳士っぷりも噂通り。これが処女作というのだから、クリスティの名手っぷりは想像に難くない。かの有名な『そして誰もいなくなった』や『オリエント急行殺人事件』はどれほどの傑作なのか。もうカタカナなんか気にせずに読むことが決定した。

1つ気になったのは翻訳。高校生が長文英語の授業で辞書片手に仕上げた日本語訳、感。ポアロが余裕の微笑みを見せていたかと思えば次の行では怒っていたり、絶望の様相を呈していたかと思えば自慢げに胸を張ったり、とにかくただの直訳感が否めず慣れるのに苦労した。もっと上手く登場人物を生かせた気がする。翻訳事情に詳しくないので偉そうには言えないが、気になる方はハヤカワ以外の『スタイルズ荘の怪事件』をチェックしてみてもいいかもしれない。

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三軒茶屋にある小さなビストロ。来る人の望みを叶える魔法のような店。料理は本格派、サービスは規格外。どんな事情の客も大歓迎。――ここ『ビストロ三軒亭』には、お決まりのメニューが存在しない。好みや希望をギャルソンに伝えると、名探偵ポアロ好きな若きオーナーシェフ・伊勢優也が、その人だけのオリジナルコースを作ってくれる、オーダーメイドのレストランなのだ。ひと月ほど前までセミプロの舞台役者だった神坂隆一は、姉の紹介でこの店のギャルソンとして働くことに。個性豊かな先輩ギャルソンたちに気後れしつつも、初めて挑んだ接客。だが、担当した女性客が、いろいろな謎を秘めた奇妙な人物であることを、隆一はまだ知らずにいた……。美味しい料理と謎に満ちた、癒しのグルメミステリー。

近藤史恵さんの〈ビストロ・パ・マル〉シリーズを読み終え、似たようなお料理ミステリーがないか探していたところに見つけた激似シリーズ。こちらも既刊は3冊のようなので、月1くらいで読めるかなと思い選書した。三軒茶屋に建つビストロ"三軒亭"を舞台に、客や店員の小さな事件やドラマをギャルソン目線で語っていく連作短編集である。シェフの見た目まで〈ビストロ・パ・マル〉に激似なのが気になる。

好みは人それぞれなので、以下は私の意見として軽く読んでいただきたい。激似シリーズを読んだのでどうしても比較したくなってしまった。初めに言っておくと、どちらも良い本には違いない。両方泣いたし。

〈ビストロ・パ・マル〉と〈三軒亭〉、どちらが好みかは本当に人それぞれだと思うが、私だったら前者を選ぶ。ポイントは2つ。

まず登場人物の違い。前者はメインが4人で、かつシェフやギャルソン、ソムリエといった肩書きがバラバラなメンバーのため、性格に大きな特徴を持たせなくてもキャラが立つのかシンプルで読みやすい。対して本書は似たようなメンバー構成ではあるものの、ギャルソンだけで3人いる。書き分けるために性格に焦点を当てたかったのは理解できるが、それぞれに異常とも取れる接客のクセがある。正直、ビストロというよりホストクラブとしか思えなかった。女性客ばかりなのもその印象に拍車をかける。

加えて、料理の描写力も近藤氏に軍配が上がる印象。せっかくビストロが舞台ということを売りにしているのだから、文字だけで料理を美味しそうに魅せる力量は筆者にとって欠かせないと思う。本書はその辺りがとても簡素。また、先輩ギャルソンがラクレットを知らないという衝撃の設定もあり「こんなビストロ行きたくない……」という感情が芽生えてしまった。様々な料理を提供できる本格ビストロのはずなのに、登場人物のセリフ1つでお店の魅力半減である。「この著者は本当にビストロを舞台に物語を書きたかったのかな」とさえ思う。本書のような物語を書くなら舞台はここじゃなくてもよかった感が否めない。

ただ、〈ビストロ・パ・マル〉と比較すると短編ではありながら1話1話のボリュームが大きめなのでじっくり楽しめる構成ではある。客1人1人にしっかり寄り添えるので、人間ドラマを楽しみたい人にはオススメ。個人的には主人公含め、登場人物がもう少し精神的に大人だったらもっと楽しめたなと思う。とはいえ続編読むけど。

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海外作家ものに統一はやはり無理でした。読むのに時間がかかってしまって。読み始めると面白くて開拓したくなるのに、読了後にどっと疲れてしまうんですよね。どれだけ日本のミステリー小説にずぶずぶで生きてきたんだろうと自分に呆れます。読むスピード、倍は違うんじゃないかなぁ。

と言いつつも、3月後半もなんとか海外作家さんの本に手を出しています。風景描写だけで日本とは全然異なるので想像するだけで楽しいですし、満足度120%って感じです!(と自分に言い聞かせて喝入れ)

またお付き合いいただけると嬉しいです。

ゆきでした。

See you next note.

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