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昭和61年衆参同日選挙終盤

 選挙も後半になり、疲れもピークであと数日で投票日というゴールが見えているので、気力でやり切るのであるが、終盤になってくると寝不足で物忘れも多くなり、ミスを連発する。中盤の頃から野中先生の町会議員の時から選挙に携わってもらっていた方々に「そろそろ園部から本部にいかなあかんか?」と気合いを入れる言葉を言ってこられる。私たち事務所の秘書たちは、その連絡がくると「大丈夫です。私たちがやり切りますから」と答えるのが精一杯だった。また、こういうことも先生の近い人たちから「親父は、口では言わんけど、今の雰囲気みたらこうしてくれ。って思ってるやろ。親父の気持ち理解せえや。」とも
言われた。私には、この言葉が秘書生活をしていて後々役立った。これを言ってもらった人に今も感謝している。
 また、終盤になると各町村部は、ヒートアップして選挙車の取り合いになり、少しでも選挙車を自分の地域に入れようと地方議員の間で計画通りの街宣運行には、ならない。町と町の選挙車の引き継ぎの場所と時間を取り決めているのだが、なんせ11市33町村あるので取り決めている時間を押して選挙車がその引き継ぎ場所まで来るのに大幅に遅れる時がある。するとみんながヒートアップしているので引き継ぎ場所でイライラして待たせることになる。候補者付きの方から連絡が入り、「次の次の引き継ぎ場所まで30分以上遅れるのが
目に見えているので、先生から誰か謝りに行っておけという指示が出てますので、よろしく!」と
言ってきた。先輩秘書は、その場所がどのような状況になっているのかわかっているので誰も行こうとしない。そんな状況を知らない私が、「山田君、あそこの引き継ぎ遅れそうやから、とりあえず君行って30分ぐらい遅れると言って来てくれるか。」と言われて
私は、「わかりました。行ってきます。」と言って「早く待っている人たちに知らせないと。」と思って現地に着いて車を降りて引き継ぎの場所に
行き「すみません。野中事務所の......」と言うと
いきなり「お前ら何考えてるねん、ワシらこれだけ待っとるんや!いつも遅れるやろ!誰の選挙しとんじゃい!コラ!」って血相を変えていきなり怒鳴られ、何人もに囲まれて殴られるのも覚悟した。時間にして3分から5分程度だったと思うが、
その時間が私にとっては、1時間以上に思えた。
するとそこの町の後援会の幹部が「こいつに言うてもしゃーないやろ。あそこの町は、毎回やから
終わってから話つけよけ!」と言って私に対する怒りは収まった。そうこうしているうちに、選挙車が引き継ぎ場所に来て、野中先生が「君らすまん。すまん。悪いこっちゃった。申し訳ない。」と言われると、先ほどまで私を殴る勢いで怒っていた人たちが、みんな「野中先生、いやいや
よう来てくれはりました。時間もったいないし
すぐ出発しましょう。」とニコニコして選挙車に乗り込み選挙車とともに、その集団は去って行かれた。私は、唖然として選挙車を見送った。その場所で私ひとりになった。この光景は、今も鮮明に覚えている。
 話は、戻るが、京都の北部地域に選挙車が入り、街頭演説をするときには、人の集まりも良く手ごたえを感じる。また、個人演説会の人の入りも会場が満杯になるぐらい集まるが、京都市内に戻ってくると選挙車でまわって街頭演説をしても人は集まらないし、反応もなくなり、手ごたえを感じられない。また、個人演説会をしても熱気もなく、人の入りも少ない。都市部と町村部がある選挙区は、こういう反応の差があり、テンションを保つのも難しい。また、都市部は、投票率も悪く空を切っているような選挙戦を強いられ候補者である野中先生の表情は都市部に入るといきなり厳しくなる。さらに、この選挙でははじめからガタガタしたので余計に野中先生の表情は、厳しかった。
 梅雨で雨も多く、京都のこの時期は、非常に蒸し暑くコンディションも最悪な状況で、運動員たちも疲れがピークだったのか、レンタカーを30台ぐらい確保していたのだが、ウッカリしてぶつけたり、狭い道も多いので擦ったりして事故も多くこの選挙では、終わってみれば、レンタカーの修理代だけで数百万の請求がきた。
 私は、選挙戦初日で怒られたこともあり、終盤になるにつれ、ぼんやりと「選挙が終わると首になるだろうな。」と考えていた。でも、何とか終盤まで持ち堪えることが出来た。今からこの頃を振り返ると秘書としては、全くたいしたことをしていないし、票に結びつく動きもしていなかった。ただ、運動員よりも少し責任のある位置にいて、雑用を精一杯やっていた。「あれだけよく雑用を何でも振られていたな。」と思う。訳もわからず良く頑張ったな。と我ながら思う。そうして長かった選挙戦も終盤を終えて
投票日を迎えることになる。

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