風の香水
雨が降ると我が家のベランダに、最近何かが訪れる。
雨の日にだけ現れ、自分は風だと言う。
風は見えないはずだが、得体がしれないので反論はしないでおく。
話し相手になれと言うが、大抵は一人で喋る。時たま合槌を求められる程度だ。
ここはマンションの20階、アイツは人で無い事は確かだ。
そんなある雨の日、彼は空を見ながらこう言った。
「ここも明日で梅雨明けだ。アンタには世話になった。これを受け取ってくれ」
小さなビンを渡してくれた。
「これは『風の香水』だ。この香りには秘密がある。自分で確かめろ」
そう言って彼は風に乗って姿を消した。
この香水の秘密…。
何を隠そう、私がこの香水を作った。この香水を眠る前に使うと、風に乗り、空を飛ぶ夢を見る事ができる。
空を飛ぶ夢を見たいと言っていた、私の愛しい妻のために研究を重ね、出来たのがこれだ。
なぜアイツがこれを持っている。
通り過ぎたのは南の風。妻の姿も見えた気がする。
私は妻の夢の中にいるのだろうか。
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空を自由に飛びたい、夢でも良いから。
そう思い続けていますが、叶いません。