飛行機雲
私は今、占い師の前に座っている。
ここへ来るのは初めて。占い師と言う人の元を訪れるのも初めてだ。
薄暗い所を想像していたが、気持ちの良い風と明るさが占いを受けるらしく無かった。
ここの占い師を紹介してくれたのは妹。彼女はこの占い師を信頼しているようだが、まだ私にはなんの評価もできない。
占い師は、その職業に見合わない化粧っ気の無い女性だった。
占い師という人たちは神秘的に見えるような独特な化粧をしていると思っていた。
裏切られたような気がしたが、それは私の勝手な先入観に過ぎない。
挨拶を済ますと、彼女は私に幾つかの個人情報を尋ねた。
彼女はそれをノートに記入し、ジャバラの年表のような物と照らし合わせ始めた。
次に、私の顔の全体、部品のそれぞれを丁寧に見ていった。
手相は簡単にしか見なかった。
「一番聞きたいのは何ですか?」
シンプルに聞かれた。
「あなたは誰?」
そう聞いたのは私。
占い師は顔を上げる。
「あなたとお会いするのは今日が初めてですが」
「そう、あなたに会うのは今日が初めてです」
占い師は納得がいかないようだ。
「私が優一の妻です」
私の言葉にたじろぐ占い師。
「今日、ご自分にワザワイがあるってわからなかったの?大した占い師ね」
私は、できる限り、嫌な女を演じたかった。
占い師は無言を貫くようだ。
それは、想定内。
少しだけ、時間が流れた。
私はカバンから一枚の紙を取り出して占い師の前に置いた。
占い師は紙を手に取り、ハッとしたように私を見つめた。
それは、結婚届。
「私、離婚するつもりなの。あなたが私に、とって変われば良いわ。コレ、私からのお祝いよ。その前に、私の離婚届の証人になってよね」
そう言いながら、私は彼女の胸に結婚届の紙を押しつけた。
占い師は慌てる。
「私には夫も子どももあります」
「そんな事知らないわよ。あなたの離婚届には私が証人になってあげるわ」
そう言い捨て、私は席を立った。
私には子供がいない。夫が子供をもうける事に反対したからだ。今となってはそれが幸いした。
外に出ると、みた事も無い大きな飛行機雲が出ていた。気持ちが良いほど力強い線。
私の応援をしてくれているようだ。
あの線の向こうに行こう。
私はスマホを取り出し、今日の運勢を確かめる。
あの線を越える日和は吉と出た。
*******