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アルバイトは悪魔(ショートストーリー)

お金が欲しい。もちろん生きていくために。
アパートの今月の家賃は払えそうにない状況。こんな事初めてだ。食べるものも底をついた。
あいつのせいだ。あいつは悪魔に違いない。

そう思っていたら現れた。
「なあ、金くれ」
「貸してくれ、ならわかるけど、くれって何?」
「では、貸せ」

どう言うわけかわからないが、変な男にまとわりつかれている。
お金を貸せと言うだけだが、なぜか私は断ったり、逃げたりができない。
警察に行こうとしても、足が向かない。まるで魔法か催眠術をかけられたように。もちろん、お金が返済されることは無く、たちまち私は一文無しになってしまった。

「もうお金が無くなった」
私は泣きたい気持ちでそう言った。
「そうか、意外に早かったな」
男は嬉しそうに笑う。

「なあ、金が無いと困るだろ?助けてやろうか」
「お前が言うか!」
「まあ、そう言うな。なかなかいい話だと思うがな」
「あんたが貸したお金を返してくれれば済むことだわ」
「話は最後まで聞くもんだ。お前、アルバイトしないか」
「あんたの話になんて乗るものですか。何を考えているか、わかりゃしないわ」
「うすうす感じていると思うが、私は悪魔だ」
「はっきり感じていたわ。あんたは悪魔だ」
「それでだ…」
「冗談じゃない、誰が聞くものですか」
私は両手で耳を塞いだが、容赦なく彼の言葉は鉄砲玉のように私の耳を貫いた。

「なに、簡単なことさ。アルバイト代は払う」
「悪魔の手伝いなんてするものですか。死んだ方がマシよ」
「それは願ったり叶ったりだ。だが、その前に手を貸してくれ。うまくやってくれれば、もらった、いや、借りた金は倍返しにする」
「あんたがお金を返してくれるという保証はない、悪魔が約束を守るわけがない。多分仕事が終わったら私だけが罪を背負うことになる」
「おまえ、悪魔の気持ちが読めるのか?心配ない、約束は守る」

「この尻尾にかけて約束する」
そう言いながら、悪魔は自分の尻尾を手に取り、私の前に指し示した。

悪魔にとって尻尾は力の元。無ければ悪魔の力も使えない。
そんな話を聞いたことがあるような気がした。
なんにせよ、無一文をなんとかせねば。しかし悪魔が約束を守るという保障は無い。
私はエイッ!とばかりに悪魔の尻尾を引っこ抜いた。驚くほど簡単に抜けた。
「あんたの尻尾と私のお金の交換よ。倍返し分は利息だわ」

尻尾を引き抜かれた悪魔は急に借りてきた猫状態。
媚びるような眼を私に向ける。
「おまえは悪魔か?頼む、お願いだ。尻尾を返してくれ。そして私の頼みを聞いてくれ。後生だ」

お人好しの私は、悪魔に少しだけ同情した。話くらいは聞いてやろうと思った。興味もあった。
「アルバイトって何なの?どうせ私に悪い事をさせたかったのでしょ?」


「言い難いんだけど……」
「何?言ってみなさいよ」
「実は今度、僕の友達がバースデイパーティーを開く。パートナー同伴でって招待状を受け取ったんだ」
「もしかして、私にパートナーの代わりをしろって事?」
「正解。話が早い」
「冗談じゃないわ、パーティーの演出に、人間の私を生贄にする気ね?」
「おまえ、怖いよ。悪魔か?」
「だって私、アルバイトが悪魔なんて考えた事なかったし。あんたたちの事、お話でしか知らないのよ」
「私をよく見てみろ。尻尾が無ければ、見た目、人間と変わりないだろ」
「人間に化けてるのかも。ねえ、それよりどうして悪魔の女の子を誘わないの?」

しばらく無言の悪魔。
そして早口で応えた。

「招待状には同伴者は悪魔に限るとは書いてなかった。ただ好きな女の子に限るって但し書きがあったんだ」



1455文字

そろそろハロウィンなので、悪魔君に登場願いました。さて、悪魔君の企みは成功したのかな。
私なら、ドレス、靴、バッグ、アクセサリー、すべてプレゼントしてもらい、パーティに参加したいけどな。 めい


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#アルバイト