裏地の刺繍
最近、購入したジャケット。
これは裏の商品。
裏の商品だからこそ美しい。高額に見せる為の演出でもある。
この裏地の刺繍は見事。右前身ごろに神秘的な女性が微笑んでいる。
だが刺繍糸には強い毒が仕込んである。
これを着る度に、毒が皮膚に少しずつ浸透していく。
その事を知っての購入。使いたい奴がいる。姉だ。
姉は、幼い頃から私の大切な物、大切な人を奪ってきた。
私の最も愛する人まで。子までもうけた。
絶対に許さない。
私はジャケットを、タンスの奥深くに仕舞った。
何の前触れも無く、姉が訪れた。
お腹も少し目立つ。
結婚式の日取りが決まったと報告された。
「ね、このジャケット飽きたの。あなたのと交換しない?ひと月くらいでも良いわ」と姉。
「いやよ、いつも古い物を押しつけて、私のおニューを持っていくんだから」
姉はお構いなしにタンスを開ける。
「ほら、やっぱりね」
姉は、戦利品を着て帰っていった。
最近私は身体が変だ。
姉のジャケットを着るようになってから。
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