炭酸水 たいらとショートショート
「先にお飲み物お伺いしましょうか?」
「ボトルごと炭酸水が欲しいの」
「炭酸水だけで、よろしいのですか」
「本当はお水が欲しいの、でもそれだけ頼むわけにはいかないでしょ」
「はい、少々お待ちください」
彼は厨房に入ると、水と炭酸水、おしぼり、コップをセットした。
マスターは、注文はそれだけかと尋ねた。
「はい、今のところ」
マスターは炭酸水だけが好きだと言っていた人を、遠い昔知っていた。
興味を持って、彼女を見やった。
マスターは急ぎ足で彼女の席に行き「失礼ですが、藤戸様ではありませんか」そう尋ねた。
彼女は振り向くと、「あっ、お兄ちゃん?」驚いて立ち上がった。
お兄ちゃんと言っても兄ではない。子どもの頃、隣に住んでいたお兄ちゃん。
もう15年も前に引っ越しするまで、お兄ちゃんと呼んでいたのだ。
「やはり綾ちゃんか、炭酸って聞いてまさかと思ったが」
「あの頃から好きな物、変わってないのよ、お兄ちゃん」
彼女の笑顔は幼い時の無邪気なものとは違う。
マスターは、幼い頃のガキンチョが、美しい蝶に羽化した姿にときめいた。
「ねえ、綾ちゃん。今から僕が言う質問に、僕だと言って欲しいな」
「いいよ、お兄ちゃんって言えばいいのね。質問をどうぞ」
彼は少しばかり緊張した。
「ご注文はいかがなさいますか?」
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たいらさん、参加させていただきますね。
私の好きな飲み物は炭酸水とトマトジュースです😊
可愛げが無いと言われていますが、めげません😄