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フランボワーズ&こびと達(赤)#あなぴり

《前半》 Marmaladeさん

わたしの名前はフランボワーズ、猫の世界に生まれた。当然、猫語は母国語だ。他にも日本語、英語、フランス語、そうそうこびと語も操ることができる。まあ猫としては当然のことだ。ショートヘアでジンジャー(赤毛)の毛並み、瞳は緑、足先だけ真っ白なの。自己紹介はこんなところでいいかしら。

ひと月に一度のご褒美時間、それはお気に入りの本を片手に1人過ごすカフェの窓際、夏でも冬でも必ずクリームソーダをお供に。エメラルドグリーンのソーダはしゅわしゅわと金色の気泡を立てている。その上には真っ白なヴァニラアイスクリーム、真っ赤なさくらんぼがあらぬ方を向いて乗っている。そのさくらんぼを見つめながら、あの日の出来事を思い出していた。わたし、すごく嫌な猫だった。どうしてあんなこと言ったんだろう。

何度となく後悔することが猫にはあると知ったのは、自分が大人になったせいなのか、それはまるで、お気に入りの赤いセーターを着るたびに少しチクチクしてしまう、そんな些細な気持ちではあったけれど。

アイスクリームが溶けかかっている。滑り落ちたさくらんぼがソーダの中にゆっくりと沈んでいく。はっと我にかえって、せっせとアイスクリームを食べると、つきんっとこめかみに痛みを感じた。その瞬間、何が起こったんだろう。フランボワーズの世界が赤く染まっていった。



《後半》

ふと我に返る。辺りの様子が変だ。ここはどこ?太陽の日差しが柔らかく赤く見える。
目の前に赤い三角帽子を被ったこびと達が私を見守っていた。7人のこびとならぬ13人のこびと達が、私を心配してくれていたのか。皆んなそれぞれ個性的な顔。彼らとは以前会ったがある。ここは間違いなく、こびとの世界だ。

『フランボワーズ、我々を覚えているか』
長老の白髭のこびとが彼女を見据える。
「あら、小言を言うために私を連れて来たの?」



フランボワーズは顎を上げ、目だけでこびと達を威嚇する。こびと達に弱気を見せてはならないのだ。そう教えられてきた。

『そうでは無い。残念ながら』

彼女は威嚇ポーズをやめた。
「では、何の御用かしら」
『力を貸して欲しい。困っている』
「私に頼み事をするなんて、余程の事ね。話してみて。でも私にできる事かしら」

長老の話によると、こびとの国にネズミがやって来て好き放題に食料を盗んで行くらしい。ひどい時はこびと達をも拐っていく。こびとを食料にしているのか、奴隷にしているのかわからないが、帰って来た者はいないという。このままでは、こびとは全滅するかもしれない。切実な話だ。

「ネズミはどのくらいいるの?」
『今は10匹ほどだが、あの繁殖力だ。急を要する。頼む。いや、お願いする。どうか助けてください』
こびと達は全員で、フランボワーズにすがるような眼差しを向け頭を下げた。

誇り高いこびと達に頭を下げられれば断れない。それに彼女の方にも弱みがあった。

なんにせよ、こびとの国に来てしまった以上、彼らの力添え無しには、猫の世界に帰れない。やるしか無いのだ。フランボワーズは心を決めた。

こびとの世界に来たのは初めてではない。幼い頃、遠足で訪れた。あの時と何ら変わってはいない。だだっ広く何も無い、ただ赤いだけの世界。彼らの暮らしは地下にある。
地下への入り口を通り抜けると、特別大きなホールがある。猫の子どもなら、ギリギリ入れる。そこで交流会に参加した事を思い出した。でもその先には、こびと以外は行けない。こびと達はとても小さいのだから。

「ネズミは地下に入ってくるの?」
『今は阻止しているが時間の問題だ。我々の住んでいる地下には太陽の恵は届かない。そのため、ここに出て太陽の光を浴びる必要がある。野菜や果物も収穫が済むと、ここで太陽の光を当てねばならない。奴らはそこを狙う』

「わかった、私に任せて。ただ、私がネズミ退治をしている間、絶対に見てはダメ。それだけは守って」
そう、フランボワーズはお淑やかな猫なのだ。イメージは大事。

13人のこびと達は、大きく頷いた。
彼らはネズミを呼び込むため、野菜を並べた。それが終わると、地下に姿を消した。扉は厳重に閉じられた。

ネズミ達が現れたようで、上ではバタバタと大きな音がしばらく続いた。
が、思ったより早く扉がノックされた。
扉が開けられる。
こびと達は見た。
ネズミ達が積まれている。
息を上げたフランボワーズは高らかに勝利を宣言した。
「ネズミ十匹、完了!」
「気を失っているだけだから、縛りあげて。私、連れて帰るわ」

こびと達は驚くやら,喜ぶやら、お礼を言うやら大忙し。
『連れて帰るって、奴らを食べるのか?』
「まさか、猫の世界にはネズミがいなくなったから、良いお土産よ。皆さんありがとう。
それから長老さん、昔私が言った事、本当にごめんなさい」
『いや、昔の話、忘れたよ」
彼は優しく微笑んだ。
拐われたこびと達もすぐに助けだされた。

そうして、フランボワーズは猫の世界に帰る事ができた。例のネズミ達は動物園で新たな生き方をしている。

彼女は、こびと達にもらった赤い三角帽子をかぶっている。なぜか猫の世界で大流行。

もうすぐクリスマス。13人のこびと達を招いてパーティーをしよう。

「あ、小さな食器セット、揃えなきゃ」

フランボワーズは、赤いイチゴシロップを使いクリームソーダを作ってみた。もちろん、ヴァニラアイスもたっぷりと。その上に真っ赤なさくらんぼ。
そのさくらんぼを見つめながら、彼女は優雅に微笑んだ。



『了』


ピリカさんの企画に参加させて頂きます。
ありがとうございます。


Marmalade さんの前半の続きを書かせていただきました。ありがとうございます。
Marmalade さんの世界を崩してしまった気が致しますが、クリスマスに免じて大目に見てくださいませ。



#あなぴり