神様はトイレを使用中
一人の神様がトイレの個室に入っていかれましたよ。
神様も排泄行為をするのかと、ビックリな話だと思われたでしょうけど、それは早合点と言うものです。
神様は、穢れだらけの人間達を見守っているうちにオリが溜まってしまわれるの。
好き勝手な場所に捨てるわけにもいかないので、人が使うトイレに捨てておられるのですよ。
あなた、無いですか?
トイレをノックしたら、入ってますの合図のノック返し。でも、なかなかトイレから出て来ない中の人。仕方なく別の個室の前に移動した事、ありますよね。
それ、もしかしたら神様が使用中だったのかも。
もちろん私は、神様が溜まったオリをどのようにしてトイレに捨てるのか知りませんよ。どのくらい溜まるのかとか、どこに溜まるのかとか、どんなものだとか、何にもね。まあ、神様にもよりますし。
なんで私がこんな話をしたかと言いますと、私の彼氏は神様なの。
正確には貧乏神の見習い中。とても中途半端な立場なのよね、今は。
貧乏神って、あまり歓迎されない神様だと思われているけれど、必要があるからこその存在なのよ。
あなたはご存知無いでしょうけど、最近の貧乏神は男振りが良いんだわ。
昔の川柳に
『色男 金と力は なかりけり』
なんて言うのがあるけれど、私の彼氏はまさにその逆。
トイレにオリを捨てなければならない神様はいっぱい居るけど、私の彼氏はオリが堪らない。ストレスが無いからだと思うわ。
私だって、オリが溜まるほど人間とは関わって無いし。
彼氏が見習い期間を晴れて終了したら、私達、結婚する約束なの。
あなた、思ったでしょ?
神様とはいえ、わざわざ貧乏神のところに嫁に行かなくてもって。
ウフッ、人間とは違うのだから、問題は何もないし。あのファッションと言うかコスチュームだって、なかなかイケてると思うし。
それに、貧乏と福は表裏一体なの、覚えておいてね。
あ、先程からトイレを使用されてる神様、なかなか出て来られない。どうしたのかしら?
「だいじょうぶですかぁ?」声をかけた。
神様はトイレのドアを開けて出て来られた。そのお顔は清々しい。たくさんのオリを捨てられたのだろう。
その神様は彼女と向き合った。
「あぁ、あなたでしたか、お会いするのは久しぶりですね。近々ご結婚とか、おめでとう」
「式にはぜひおいで下さいませね」
彼女は花のように微笑んだ。
彼女は木花咲耶姫(このはなさくやひめ)の血筋。さすがの美しさ。
「君達が結婚すると聞いた時は驚いたよ、どうやって周りに知られず逢瀬を重ねたのか教えてもらいたいものだ」
「ここですよ、人間のトイレ。
人間には私達が見えないし、世の中には数えきれない程のトイレがあるから、他の神様に出会う事は殆どありませんでしたよ」
「なるほど、で、これから見習い貧乏神が来るのかな?」
「はい、お世話になりましたトイレの神様に、二人でお礼を申し上げるために待合せ中ですのよ」
「なるほど。許婚によろしく。では、また」
神様は静かにお姿を消された。
「二人の若い神に幸いあれ」
神様の、優しく澄んだ声だけが残された。