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毎週ショートショートnote

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たらはかにさんの企画です。410文字ほどの世界。お題は毎週日曜日に出されます。
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2022年12月の記事一覧

肝試し美人化 毎週ショートショートnote

「なあ、二人で人間の女に化けないか?」 「なんだよ今更。我々は人間に化けるの苦手だし」 「運試しさ」 「はあ?」 「ほら、あれさ」 彼が指差す先に露天販売が出ていた。 『寄ってらっしゃい、狸のダンナ方』 「なんだ、狐のテキ屋』 『めでたい新年がやってくる前に、今年最後の運試し、どうだね。人間の美女になれる秘薬がありますぜ。年に一度しか世に出ない代物。狸のダンナにだって絶世の美女に化けられますぞ』 「なあ、美人過ぎるって怖くないか?」 「だよな、適当な美人の方が安心か

運試し擬人化 毎週ショートショートnote

僕は幼い頃、お母さんを亡くした。まだ良くわからない年齢だったが、もう写真でしか会えない事は知っていた。 お父さんはお母さんの写真を見るのが辛いと全部片付けてしまって、僕は母さんの顔忘れそうだった。 僕はお母さんの顔を画用紙にクレパスで描いた。試しに描いた絵は、運良くお母さんに似ていた。 お姉ちゃんに絵を見せた。 「お父さんには見せない方が良いよ」 お姉ちゃんは言った。 時々絵を出して、お母さんに色んな話を聞いてもらった。 僕の描いた絵は本当のお母さん。そう思っていた。

執念第一 毎週ショートショート note

じいちゃんが元気だった頃、一緒にドラクエのゲームをした事があったよね。 その時、世界樹についてじいちゃんと調べた。世界は一本の大樹であり、全ての世界の中心で、天地を支えているとの記述があった。 すると、じいちゃんは世界樹の葉を持っていると話した。 「じいちゃん、世界樹は神話だよ、実際には無いんだよ」 僕は言ったが、じいちゃんは頑として言い張った。ウソをついた事など無いじいちゃんが。 ばあちゃんが亡くなり、追うようにじいちゃんも亡くなった。 じいちゃん、世界樹の葉が本当

カラスクリスマス 毎週ショートショートnote

去年のクリスマス、とても幸せだった。 あなたはプレゼントを私にくれたわ。 そして私にとって、人生で一番大切な日になった。思い出だけで生きていける。そう思って生きてきたのよ。 ほら、見て。あの日見たクリスマスイルミとは違うけれど、今年も見事よ。あなたのくれたピカピカのお星様も、ここに飾ってもらおうかな。このお星様も一人じゃ寂しそうだから。 ねえ、あなた。 私の事、好きだと言ってくれる人が現れたのよ。あなたは許してくれるかしら。 もちろん、あなたの事忘れない。素敵な思い出は

罠の中の地味に怒る 毎週ショートショートnote

召使の女は思う。 あの人は悪魔なの。愛しい悪魔の王子。 ちょっと年下の彼。気づいてくれないかな。 どうすれば、私を好きになってくれるかな。 そんな彼女の心のつぶやきは、悪魔の王子には筒抜けだった。 「ちょこざいな」彼はほくそ笑む。 実は彼も彼女を憎からず思っていた。 彼女は考えた。この城のあちらこちらに存在する落とし穴。彼がまだ知らない新しい落とし穴に彼を…。そして私がお助けする。 彼はお見通し。わざと彼女の罠にハマってやる事にする。 彼は落とし穴に落ちてやった。 彼女

穴の中の君に贈る 毎週ショートショートnote

私の心の中の穴に落ちていった男達はどうなるのか。その穴は浅いのか、底無しなのか。 まだ誰も這い上がってきた者はいない。挙句、殆どの者は忘れ去られてしまうのだ。 可哀想な男達。 そう思う事で、少しは気が晴れる。 全て私が愛した男達。 彼らの誰一人として、差し伸べた私の手を取ってくれた者はいないのだ。なぜに。 子どもの頃、落とし穴を作った事はあるだろうか。もしかしたら落ちた事がある?あなた。 昔作った私の落とし穴は、私の心の穴に繋がっている。 気の毒な男達。私を恨まないでね