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小説、エッセイ、俳句etc
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#ショートショート

フランボワーズ&こびと達(赤)#あなぴり

《前半》 Marmaladeさん わたしの名前はフランボワーズ、猫の世界に生まれた。当然、猫語は母国語だ。他にも日本語、英語、フランス語、そうそうこびと語も操ることができる。まあ猫としては当然のことだ。ショートヘアでジンジャー(赤毛)の毛並み、瞳は緑、足先だけ真っ白なの。自己紹介はこんなところでいいかしら。 ひと月に一度のご褒美時間、それはお気に入りの本を片手に1人過ごすカフェの窓際、夏でも冬でも必ずクリームソーダをお供に。エメラルドグリーンのソーダはしゅわしゅわと金色の

【ピリカ文庫】 ラブレター

あなたは覚えているのだろうか。 私達の出会い。私達の結婚。私達の笑顔。そして私達の別れ。 走馬燈のように、私の周りを全ての出来事が光に姿を変えて回り始めている。 それは何の意味も持たないが、ただ私は見ている。 見ていたい。 あなたの顔を思い出したいのに、思い出せない。あれ程あなたを見つめていたのに。 あなたの声はどこかにいってしまって、私に向けられる事が無くなった時も、あなたの言葉をじっと待っていた。 でも、こんな時にあなたを、こんなふうに思い出すのは避けるべきだ。あなた

炭酸水 たいらとショートショート

「先にお飲み物お伺いしましょうか?」 「ボトルごと炭酸水が欲しいの」 「炭酸水だけで、よろしいのですか」 「本当はお水が欲しいの、でもそれだけ頼むわけにはいかないでしょ」 「はい、少々お待ちください」 彼は厨房に入ると、水と炭酸水、おしぼり、コップをセットした。 マスターは、注文はそれだけかと尋ねた。 「はい、今のところ」 マスターは炭酸水だけが好きだと言っていた人を、遠い昔知っていた。 興味を持って、彼女を見やった。 マスターは急ぎ足で彼女の席に行き「失礼ですが

真夜中の公衆トイレ #たいらとショートショート

トイレに行きたい。 真夜中の公衆トイレの前で立ち止まる。 薫は利用を躊躇した。我慢の限界が近いのはわかっている。店で済ませたかったが、変なおじさんが入ったきり出てこなかったのだ。 家まで歩けば30分、でも今日は酔っているからどうだろう。 何だか夜の公衆トイレは気味が悪い。が、考えている時間が惜しい。 薫は「えいっ」とばかりに、薄暗い公衆女子トイレに入って行った。 四つばかりある個室の三つの扉には『使用禁止』の紙が貼ってある。 残る一つの扉をノックする。返事は無い。

おじいちゃん部│#完成された物語

最近、公民館の予約表に『おじいちゃん部』がよく登場する。 「何かしら、おじいちゃん部って。老人会の男性版?」  私は、サークルの会議使用を申し込みに受付に来た。 「とんでもない、おじいちゃん達は一流会社『G社』の元エライさん達よ。会社が表に出せない何かを暴露される事を恐れ、会社が監視しているのよ。表向きは…新しい生き方とかのスクーリング」 受付のおばさんが耳打ちする。 「なんだかね、皆さん可哀想なの。ため息ばかりが聞こえるの」 おばさんの心配そうな顔。 監視するって、2

金持ちジュリエット

その美しい娘、ジュリエットの家は大変な資産家だ。 しかし、彼女はこんな生活にウンザリしていた。先祖の残した資産でヌクヌクと生きていくだけなんて、何の面白みも無いではないか。退屈なだけだ。 彼女は自分の力だけで、人生を切り開きたかった。 彼女は決心した。家を出る事を。 つまり、家出。 軽く身支度を整え、地下室の秘密の通路から外へ出て行くのだ。家族以外知らない通路。 しかし、どうした事だろう。しばらく歩くといつもの通路が二股に別れていた。片方の道は土壁が壊れた事で現れた

神様の違法行為 #ショートショートnote杯

ここがどこだか分からないまま歩き続けている。いつから、なぜ、歩き出したのか記憶が無い。人が住んでいる様子も無い、ただ草原だけが続くこの道。 振り返ると、歩いて来たはずの道は無くなっている。 ただ、前に進む道があるだけだ。 その頃、空の上では裁判が開かれていた。 まさに神様の弾劾裁判だ。 違法に人間を神にしようと企んだ神様が裁かれている。 「しかし、悪い人間が増えすぎて我々だけでは手に余る。地球が消滅するのを黙って見てはいられない。神の手は猫の手でも借りたい程不足している