指切り

 よくある歌だ。
 約束事をするときのお決まり、といっても構わない。
 小指と小指を絡まれて、

「指切りげんまん。嘘ついたら針千本、飲ます」

 指切った、と絡めていた小指を離す。
 誰だって一度はやったことがある。
 指切り。
 私はその指切りを、とても大切なものだと感じている。

 昔は、命がけの恋の誓いとも言われていたものだし。
 指切りの刑なんてのもあったくらい。

 だから、指切りをした約束は必ず守らないと、と思うわけで。
 守らない人には、ちゃんとそれ相応の罰が下らないと、とも思うわけなのだ。

 海なし県と言われる県内で、平均より少し高めの偏差値の高校に通う私は、毎日がとても充実していた。
 仲良しの友人がいて、信頼できる教師もいる。
 部活は少し厳しいけど、これも世に出るために必要なものだ、と思えば耐えられる。
 先輩は優しいし、後輩も私たち上に立つ者を純粋に尊敬してくれる。
 両親は仲良しで、私にたくさん愛情を注いでくれる。

 とても充実している。
 幸せだ。

「先輩、先輩っ」

 後輩が私に声をかける。

「私、担任に呼ばれていたの忘れていて……。今から行かなきゃ行けなくて、私の代わりにここの掃除お願いできますか? もしやってくれたら、明日、先輩の代わりに掃除しますから」

 はい指切り、と後輩は私に小指を差し出す。
 うん、と私は頷きその小指に自分の小指を絡ませる。

「指切りげんまん。嘘ついたら針千本、飲ます」

 指切った、と絡めていた小指を離す。
 後輩は「ありがと~」と笑い、部室を出て行った。

 後輩の代わりに、部室の掃除をし。
 それを終えて、ゴミ袋をゴミ置き場に持っていく途中。
 後輩が中庭で一人の男子生徒と楽しそうに話しているのが見えた。

――担任の先生と話があるんじゃなかったの?

 もしかして、あれは嘘?
 でも、きっと。
 明日の掃除はやってくれるよね、と思い。
 私は後輩が部活を抜け出し、男子生徒と話していたことは見なかったことにした。

 次の日。
 部活が始まる前に、後輩の教室に向かった。
 教室にいる後輩を呼び、昨日の件を話すために、である。

 教室の前に行き、近くにいる生徒に呼んでもらい。
 私は少し困った顔をして「あのさ」と後輩に言う。

「昨日のことなんだけど」
「あ! 昨日は助かりましたよ~」
「……あれ、たまたま見たけど。彼氏さん? かな。中庭で、楽しそうだったじゃん」
「……見てたんですか」

 ちっ、と後輩は舌打ちをし、私を睨むように見る。

「顧問に言います?」
「うん。でも、昨日した約束を守ってくれるなら、言わないよ」
「約束? なんのことですか」
「したじゃん。今日の掃除、代わりにするって」
「あー、そういえば。でも、するわけないじゃないですか。かったるい」
「え……」
「昨日は、先輩が困ってる私に対する厚意で掃除を代わってくれた。それだけのことで良いじゃないですか」
「…………」
「あ、でも、顧問には言わないでくださいよ。私、顧問には超気に入られてるし。彼氏には部活をやってる私がいいって言われてるから」

 じゃあ、と後輩は教室に戻っていった。

 部活の時間になっても、後輩は来なかった。
 私は自分の小指を見ながら、昨日の指切りを思い出す。

「嘘ついたら針千本飲ます」

 そういったでしょ。
 私は約束を守る人。
 指切りしたのだから、ちゃんとしないとね。

 私は筆箱から、デザインカッターを取り出し。
 鞄の中から一つ、ポーチを取り出し。
 きっと中庭にいる後輩の元に向かった。

 案の定、後輩は中庭にいた。
 私は後輩にバレないよう、そっと彼女の後ろにつき。
 一思いに彼女の腰を突き刺した。
 後輩は膝から崩れ落ちる。
 それで動けなくなるか、と思ったけど。
 逃げようとするから、前に周り、彼女の腹を刺した。

 驚く彼女の目。
 それは、恐怖を感じている目でもあった。

「や……、ごめん、なさ……」

 震えながら彼女は言う。
 けど、もう遅い。

「指切りげんまん。嘘ついたら針千本、飲ます」
「!」
「そう、約束したよね? 指を切ったよね?」
「き、切った。でも――」
「嘘ついたから、約束通り、針を千本飲ますね」

 膝をついて私を見上げる後輩の口を思い切り開け、ポーチから裁縫針を十本ずつ飲ませる。

「ひと~つ、ふた~つ、み~っつ」

 十本束の針を、後輩に一つずつ飲ませていけば。
 後輩は恐怖で涙を流しながら、私を見上げていて。
 その姿に、私はとても興奮した。

 千本目にあたる十本束の針を飲ませる頃には、後輩はもう既に死んでいて。
 それも私にとって、ただただ興奮するもの以外の何物でもなかった。

「何してるんだ、一体!」

 私にそう声をかけたのは、昨日、後輩と一緒にいた男子生徒。
 私は男子生徒の前に行き、小指を差し出す。

「この事言わないでね」
「でも」
「言ったら、あなたを殺すから」
「! わ、わかった。言わないよ、約束するって」

 私が差し出した小指に、彼は小指を絡ませる。

 そして、私たちは歌った。
 指切りの歌を。
 そして、指を切った。

 次の日は土曜日で、学校はなく。
 月曜日になり、学校に行くと。
 警察が立っていた。
 特に何も気にせず、通り過ぎようとすると。
 警察に呼び止められた。

「一人、女子生徒がころされてね……。君、何か知らないかい?」
「特に何も」
「……そうか。ところで君は――」

 警察は、私の名前を呼ぶ。
 その名前の人物が、犯人だという話も聞いたんだ、と。
 私はすぐに彼が言ったと気づいた。

――約束したのに。

 また約束を破られたことがショックだった。

「すみません、急いでるので」

 そう言って、私は警察から少し走って去り。
 あの男子生徒を探した。
 きっと、後輩の元にいるだろう。
 となると、中庭だ。

 そう思って、中庭に行くと、泣き崩れている男子生徒の姿があった。
 そっと優しく声をかけ、私は彼を連れてゴミ置き場の方に行った。

「約束したじゃん。言わないって」

 私が言うと、彼は嘲笑する。

「そんな約束守るわけないだろ。殺人鬼との約束なんてさ」
「!」
「早く捕まって、死刑になれ!」
「……約束、したのに。あれは嘘だったんだ」

 嘘ついたら、針を千本飲ますって約束だった。

 私は男子生徒をゴミ袋の山の方に突き飛ばす。
 そして、近くにあった石を持ち、それで男子生徒を殴った。
 何度も何度も。
 彼の頭を殴った。
 殴れば殴るほど、私は昂る。

 彼が動けなくなった辺りで、鞄からポーチを出し、そこにある十本束の針を、彼に飲ませる。
 一束ずつ飲ませていき、最後飲ませた時だった。

「君、ちょっと良いかな」

 警察に声をかけられ、私は笑った。

「――ということです。話はそれだけです」

 目の前にいる刑事に、私は淡々と説明をした。
 刑事は困った顔をする。

「つまり、君は指切りをした約束を破られたから殺した、ということか?」
「そういうことです」
「……調べたところ、君、両親がいないようだけど?」
「います。ただ、両親も私との指切りでした約束を守ってくれなかった」
「……ちなみに、どんな約束だったんだい?」

 刑事に訊かれ、私ははっきりと答える。

「私に暴力を振るわず、暴言も吐かず、どこにでもいるようなそんな普通の両親でいる、という約束です」
「…………」
「ちゃんと指切りしたんですよ。約束したんです。嘘をついたら、両手両足拘束して、目隠しをして、口にガムテープをして、ずっと押し入れに入れる、て」
「なぜ……それを……?」
「それが彼らが私にした『罰』だったから」

 だから、私は約束事は守るようにしていた。
 それなのに、破られたから。
 約束通り、両手両足拘束して、目隠しをして、口にガムテープをして、ずっと押し入れに入れておいた。

「けど、一昨日見たら、死んじゃってたんです。なんでですか?」
「…………」
「ちゃんと鼻は呼吸できるようにしていたのに」
「食事は?」
「ないです」
「……どれくらい、その状態にしたんだ?」
「半年以上前ですね」
「…………」

 刑事は私の名前を言い、そっと静かに言う。
 それは、両親を殺害した件だった。

 裁判で、私は死刑になった。
 そして、今日、私は死刑を執行される。

「最後に一言だけ良いですか?」

 私の辞世の句として聞いてほしい。

「指切りは、とても大切な約束事をするときのものなんです。私は、その約束を守ってほしかっただけ。そして、彼らはみんな嘘をついたから、私はちゃんと約束通りのことをしたまでなのよ」

 執行台。
 私は笑って言う。

「約束を守っている瞬間は、とても気持ちが良かったよ。あんなに興奮したのは、人生であれ以外ない」

 学校には色々な都市伝説がある。
 トイレの花子さんや、赤い紙青い紙、動く人体模型に、光るベートーベンの瞳。
 そんな有名なものとは別。
 最近、新しく追加された都市伝説がある。

 指切りをしたら、その約束はきっちり守らないといけない。
 そうしないと、少女の霊に十本束の針を、百束飲まされるから。
 嘘だと思うなら、指切りをして、約束事を破れば良い。
 破ったその瞬間、あなたは少女の霊に針を千本飲まされるから。

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という怪談を、さっき思い付きました。
どうも21歳・独身です。
これから、思い付いた創作怪談でも書いていこうかな、なんて思ってます。

尊敬する山田監督に倣い、私もあらすじをここで言ってみようかな、と思います。
よくわからなかったよ、という方向けに。

とある少女が、学校の後輩と指切りで約束するんです。
でも、その約束は守られることなくて、少女は怒り、後輩に針を千本飲まして殺します。
その現場を見てしまった男子生徒にも同じように指切りで約束をします。
しかし、男子生徒は約束を破り、警察に通報しました。
その事を知った少女が怒り、後輩同様、男子生徒に針を千本飲まし、殺します。
その現場を警察に見られ、逮捕されのです。
その時、警察は一応、と少女の家に連絡しますが、家族が出ません。
少女に話を聞くと、以前、指切りで約束したのに破られたから、と少女は両親を殺したことを話しました。
あまりにも残酷なことをした少女は死刑になり、死んでしまいますが。
少女の行った行為は都市伝説として語り継がれていった、という話でした。

思い付いて、すぐ書いたので、わかりづらいところが多かったかな、と思います。
そこは反省です。
今度は、もうちょっと考えてから書きます。

アディオス。