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「あの頃のぼくは近頃 2」-ミストレ編-

こんなんじゃネイム
風当カザタリツヨシ」まるで強風のところに住むのが分かっていたかの様な僕の名前だ。父の名は「シゲル」、消防士だったが色々あって辞めてからは普通の民間会社を転々としていた。と言うのも性格は見掛けより内向的で上司が言うことには「従」という名の通り、取り敢えず従ってしまうのだが1ヶ月も過ぎた頃には我慢出来なくなって本当にしてるかは疑問な口喧嘩の末に離職してしまうからだ。完全に名前負けの人生、余計に自分の子供には同じ人生を送って欲しくなくて名付けたとのことだがもうチョピッとヒネりがあっても良かったのにと思う。強路線ツヨセンでいくにしてもまんま過ぎるし「大矢ダイヤ」とか「騎士ナイト」とかもっとスタイリッシュなのもあるのに自分名を好きになれないまま結局名前負け人生を継承実施中、体格だって普通でタクマしくも何ともない。ハッキリ言いたいのは僕は決して名前イメージの人間に見られたくないということ。大体生きる環境が違うのだから名前だけでひとの人生なんて決まりっこないじゃないかあ~!

過去に無線通信士をしてたこともあって電気系には明るく、ラジオやステレオも楽に自作出来た父は書道を習ってもいないのに小・中・大筆を器用に使い、会社で頼まれた掲示物を書くため居間の床いっぱいに模造紙を拡げてよく書いていた。どうしようもなく狭い我が家でそれが始まるとトイレに行くのにも「すいやせ~ん」と何度も横切らなきゃならないのが面倒。母が「洗濯物を干しに行くのに何で謝んなきゃならないの?アンタのパンツ干しに行くんですけど~もうッ」とタイムリーにボヤいていたのが今も耳に残っている。

再カクニンもーど
黒装束クロショウゾクで駅に向かって歩く。時間には余裕があるのにだんだん早足になってくのは何故だろう?視界に駅を繋ぐ陸橋が見えて来るとどこか普通じゃないような違和感を感じる。案の定だった「只今の地震で各駅に停車中です。確認が終わり次第の発車になります。皆様にはご迷惑をお掛けして大変です、えっ?あっ間違えました、申し訳ございませ~ん、プチッ」言い間違えをびて終わりかあ~い「でもなんか親近感湧くなあ~」僕は少しニヤッとした。グラッ、グラグラッ、グラグラグラユラグラ「プツ、い今また地震が発生したので折角の確認が無になりました。再確認モードへ突入です!」ゲーマーかあ?まあ待つしかないっか、駅のホームにもう30分もいるけど・・それから15分程すると「お知らせします。確認を行い異常はありませんでしたが今度は確認手順の方に誤りがあって確認の確認が必要という意見が出ましてそれについてミーティングをしております。皆様はどう思われます?

ケータイアプリ「ドウニモコム」から①確認したんだからOK②安全を考えて確認の確認が必要③どうでもイイから早く発車してぇ~遅刻する!の 3択ボタンでニヤリーアンサーNo.のボタン連打でミーティング時間が短縮して行きます、レッツトライ!また抽選で10名の方にオリジナルキーチェーンが当たるかも?です。尚アプリにはもれなく遅延証明スタンプを発行済みですのでご活用下さいね、アプリ以外の方は改札口でどうぞ!結果は③が19.8万押で99%を占めた。この状況下ではみんな同じ思いであることは分かり切っていたけど。

ハードすいーつホーム
考えてみればこんなトラブルはよくある。電車会社も待ち時間のイライラを軽減する対策を考えたのだ。みんなが持っているモノ、携帯端末を利用ツカって。周りを見ると画面を親指・人差し指・小指(押しにくそうだ)、色んな指やゲンコツ?などでトントンポンポン叩いている、いや叩いてない人はいないくらいだった。要するに誰もがそのナダスカし作戦に大事な自分たちの人生時間を無駄に使いたがりの消費者であり、コントロールされることにも暗黙の了解済だった。

キーチェーンプレゼントは「遅延」との韻踏みだとその会社に就職した同級生が教えてくれた。だから何なんだあ~っと言いたいくらい気持ちはイラつきもする、もうかれこれ60分にもなるしッ。ガタンゴテン、ズテングテーン やっと来た電車は既に満員、どう考えてみてもホームに溢れてる人達が乗れる訳がない「押さないでください、安全のため次の、多分来るはずの、車両を~っ、ご利用くだ・・さいご利用ご利用ワアァ~」プシュッ、とうとう駅員は電車に乗せられて行ってしまった。

ホームにはまだ沢山の人が残されている。僕は「すいやせ~ん」と謝りながら人波を掻き分けてやっとのことでエスカレーターまで辿り着くと2Fへ上がり、改札口を出てすぐに会社へお休みLINEを送信した。「ご存知の通りの電車遅延で駅も大混乱!来る電車も満員でいつになれば乗れるのか分かりませんし、安全と健康を考えていっそ今日は有給でお願いします ^_^ 」出鼻をクジかれて行く気もやる気も失せてしまい、もう帰りたかった。

何気なく見上げるとちょうど目に映った特急電車の空席色ランプ、気がついた時にはもう切符が手の中にある「でも変だゾこの切符、表も裏も真っ黒だ!」会社で仕事をするルーティーンを強制終了させた空っぽの頭は無意識に切符を購入していた。これは、券売機エラーなのかな?窓口へ行こうと横切る僕のバックグラウンドで満席色に変わったランプは最後の一枚を明示していた。改札は今日に限って対応の順番待ちで10人以上は並んでいそうだ。待つことが何よりも苦手だから次に考えそうなことは決まってる「使えるか試してみよう!」「えっ」改札口をスルーした僕はいつもは降りて行く筈のホームを何の躊躇タメラいもなく登って行った。まるで何かに導かれて行くかの様に・・・

ミスでいくトレイン
誰もいない電車内の真ん中に座る僕を乗せてどこへ向かっているのだろう?本当は動いてるのか止まっているのかさえハッキリ分からないくらい振動を感じない。ただ内装はいつもの電車だし人がいないことを除けばそこに疑いの余地は何もない、本当はただの部屋なのに固定観念が電車だと思わせているだけなのだろうか・・・

どのくらい経ったのだろう、永遠のような一瞬が終わるとドアがククゥーッと鳴いて開いた、かと思った途端それは真珠色の2枚の翼に姿を変えて小躍りしながら急に消えてしまった。もしワームホールというものが存在するのなら「瞬で開いて秒で閉じるその間にシュッと吸い込まれて行った」それに近いニュアンスかな?僕はホームに降りた、いや降りたつもりだったのだが振り返ると今乗ってた電車は影も形もなく消えていてホームと思った場所は別の電車の中だった。でもどこか変だ、広くて落ち着かない・・・「えっ座席が無い?吊り革も?」車両と車両の仕切りドアも無くて遥か前の車両の中まで見渡せる、でもこの先は7~8両で終わるはずなのに先が見えない?そんなことはないと目を凝らしても結果は同じ、無限電車かぁ?それはずっと、ずっと、どこかの果てへ続いているようだった。

「次はアシスク~、アシスクです。お降りの方は先頭車両へお急ぎください出口は一つしかありませんので」えっ、何故か僕は走り出している「無理でしょうぉ~」間に合う訳なかった1車両の長さは約20mとして7両なら140mある、小6時の50m走が20秒フラットの僕にはどうひいき目に見ても50秒くらいは掛かる「間に合わない!」と思いながら歩くみたいに走っていると「ハイハイハイハイドドドドドーゾドーゾドーゾドーゾハイハイハイハイ~」ハイスク文化祭で聞き覚えのある声を背中に感じたかと思った瞬間にビュア~っと身体が高速化してあっと言う間に先頭車両まで運ばれてしまった。「O君?」振り返ると誰もいない、そこにはただ優しい風が吹いているだけだった。

ちょうど開いたばかりのドアから多分ホームだろう場所に降りた、今度は間違いなくホームだった。「えっ、でもどこから降りるんだろう・・」確かにホームはホームだったが降り口も入り口も無く、辺りを見渡すと何故か雲海に囲まれている。ということは空の上?と思ったら中高所恐怖症の僕の膝は急にビブラートが強めに掛かり始める。きっとドローンか何かで俯瞰で眺めると「細長い高野豆腐の端に洗濯バサミが立っていてメレンゲの中にポッカり浮かんでる」そんな映像がジャストだろう。

どのくらい時間が経ったのか全く分からない、というのもある程度の明るさはあるが太陽は無い、肌をカスめる風も無く、鳥のさえずりもしない。あり得ないが「真空の中にいる」そんな感じ?人間には五感があるのにここまで何も感じるものが無いと当然生きてる感も無い。そこに感じたのは孤独だけだった。自分以外の何かがあって初めて自分が存在することを知り、誰でもいいから誰かに会いたいと無性に思う・・だんだん意識がボーッとして来た時だった。高野豆腐が、いやホームが、そう洗濯バサミの僕がメレンゲの中を今度はゆっくりと動き始める、それはシタタかに確かに力を繋いで大いなる生命動力へと変換して行くSLのそれにも似ていた。

またも最後までお読みくださり、ありがとうございます。スキだなんて...ぁありがとうございます!

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