【38】 処方薬箋
立派な処方薬マニアとなったQは、自殺未遂常連ながらも彼氏の途切れない、一人前のメンヘラとなっていた。当時付き合っていたボカロPの彼氏と同棲していた家やカラオケで何度か遊んだが、内容はもちろんラリパーティーだった。
私とは比べものにならない程の大量の処方薬を貯めこんでいたQから薬をもらった。抗不安薬としてリーゼ、ホリゾン、ワイパ、睡眠薬のレンドルミンにマイスリー(大好き)やアモバン、抗うつ薬はエビリファイ、ジプレキサ、セロクエル、リスペ、レクサプロ、パキシルなどなど、
私自身が処方されたものや貰った薬を無差別に飲みまくった。デパスはスニッフしたし、シクレスト舌下は飴みたいに口寂しくなると舐めた。コンサータはモンスターが合う!とQにすすめられて試したりした。
ここまでたくさん精神薬を試したけれど、楽しめるのは正直 "健志症状" だけで、気持ちよさはマイスリーくらいでしか味わえなかった。興味はそれでも膨らむ一方で、健忘や解離的な奇行でTに不信がられながら、手元にあるだけの薬をポリポリ摂取し続けた。しかしやはりメリットはあまりなかった。どんな処方薬も、エフェコデの明晰な覚醒の快感に勝てなかった。
今でも、精神薬は「まぁもらえるなら欲しいかな」くらいのスタンスで、あまり楽しめるタチではないと気付く程度には、一通り経験した。アッパーはエフェが最強で、ダウナーはコデが最強だった。私は咳止めと相性が良すぎたのだった。
(マイスリーODは、今まで存在しなかった欲求が生まれ、加えてフッ軽になるので、ある種の操状態のようになった。急に鍵盤を弾いたり絵を描きだしたりする一方で記憶が朧げな解離っぷりが面白く、比較的フワフワした気持ちよさも感じやすくて好きだった。
あと薬のシートが可愛い。★つき緑シートのにピンクの錠剤)
呂律がまわらなくなることが増え、事務のパートも2ヶ月足らずで辞めてしまった。次の仕事を探さないといけない、でも働きたくない。家にこもりきり、最後限の家事すらできず、泣くか飲むか寝るかを繰り返す生活。
処方袋を増やしまるタイプの医者を疑いの目で見たTは、通院も一旦やめるよう助言した。Qがメンへラと分かると、直感が働いたのか「Qとの付き合いはやめたほうが良いんじゃない?」と提案した。全くもってその通りだ。手のつけようのない墜落っぷりを見ても、Tは両家の親に私のことを隠し続け一人で解決してくれた。よく共倒れにならなかったものだと思う。
人生最大の痛み期に入り、Tと付き合ってちょうど1年がたった11月に、私たちは籍を入れた。嬉しさと虚しさが同時にあって、ぐちゃぐちゃな感情で婚姻届を提出し、役所の窓口担当に記念撮影の2ショットを撮られた。夜に焼き肉を食べに行って、ささやかな入籍を二人で祝った。