【39】 ゆる減量
ここでやっと、薬に飽きた、と初めて思った。処方薬は飲んでも意味がないので全て捨て、金パブを吐くほど飲んでも、もう楽しいという感情は得られなかったので、こちらもパタッと飲むのを辞めた。
身体的な離脱症状があり、お腹はずっと下すし、エフェの「元気の前借り」を返さないといけないことで、倦怠感が常にある。アカシジアで足がムズムズして眠れない。それよりも精神ゲージがゴリゴリ削られ続けることがしんどく、酒も含めて、飲んでも飲まなくても鬱なことには変わりなく、しかし、一旦どん底に落とすことで、なんとか反動で立ち上がることができた。
ここからの一年弱。貴重なクリーンな人生となる。
断薬し、年が明けてから、初めてTと二人で旅行に行った。和歌山の白浜温泉、結論からいうと、クリーンな体で、それなりに楽しめた。
コロナはまだ猛威を振るっていたので、結婚式も子供のことも先のばしにし、いつか近い将来、それらのことについて考えよう、と前向きに思えるくらいに、まともに未来を見据えることができるようになった。
薬物を断つとこんなに冷静で、退屈で、生活に楽しみがなくなるのかと思うと同時に、しかし楽しみがなくとも案外やっていける、と実感したのだった。
刺激はなくとも反動の鬱もない。波風たたない、穏やかで平凡な毎日の繰り返しを苦痛と感じることがないのは予想外だった。薬が手元にあるかどうか、在庫や金銭面を考えて、どうやって嘘をつくかしか考えなかった生活からそれらが消えると、暇な時間をどう過ごせばいいのか分からなかった。(依存症あるあるだと思う)
退屈だが有意義な時間が大量に与えられていることに気付く。だんだん真人間に近付く。切れ際の焦燥感や苛立ちもなく、Tに対しても腹が立つことがほとんどなくなった。時間はたくさんあるので焦る必要もない。気持ちがとっても軽く楽になり、空いた時間で運動をしたり読書をしたり、記録的な健康的生活を送れるようになっていった。
心も身体も健康になり、そろそろ式を挙げよう、という話が出はじめた。人の結婚式には行ったことがないし、自分が式の主役になるのはすごく嫌だったが、コロナを理由に身内だけでの式で許されて本当に助かった。Tと違って式に呼べる友人が全くいないことも、明るみにならずに済む。
2月頃から、下見をはじめ式の準備に取りかかると同時に、ダイエットを始めた。
もともとふっくらしているTも一緒に、着たい服を着るため、Tは菓子パンを、私はアイスを、各々の大好物を頑張ってやめた。私は歩く習慣をつけ、外にランニングしに行ったり、自宅でできる筋トレをしたりした。ダイエットや筋トレ系のYoutuberを見る一方で、挙式後のドカ食いを夢見て大食い系 Youtuberもたくさん見た。
ビールをやめてウィルキンソンの炭酸水を飲み、鶏むね肉を柔らかくする調理法を学び、お菓子は買い置きせず糸こんにゃくや豆腐を常備した。甘いものが欲しいときはココア味のプロテインを飲んだ。
BMIの高いところからダイエットを始めたTは、うまくスタートダッシュを決めて順調に痩せていったが、もともと標準BMIの私の体重はなかなか変化しなかった。
式までに痩せたのはたった2kgという結果だったが、目標としていた着たいドレスはあっさり入るようになっていて、数値の変化が欲しい私としては複雑な気持ちだったが、まあ結果、ダイエットは成功した。Tの変化は外見からも分かりやすく大成功だ。
式が終わってからも、私は緩やかにダイエットを続け、2年経った今でも、リバウンドすることなく徐々に減っている。習慣化、大切。ランニングの楽しさも知り、その後の生活でも何かもやもやする気持ちがうまれたら外に走りに行く、ということが何度かあった。