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中年で小太りなハゲた先生へ

中学2年生のときの国語の先生は40代くらいの、
中年で小太りなハゲたおっさんだった。



冒頭から暴言のような特徴を並べたが、私はこの先生が大好きだった。
というのも先生の口癖が暴言だったからだ。

 こんヒャーが!!!
 (この蝿め)


というセリフが先生の口癖だった。
20年以上前の教育現場なので別に問題はない。

忘れ物をしたら必ず大きな声で言われた。
しかもめちゃくちゃ笑顔で。
大きな声だけど満面の笑みで言われるので怒鳴られたという感覚はない。
でも「こんヒャーが!!」「は!?お前も忘れたんか!ヒャーか!」と笑顔で言われるインパクトはそこそこ大きい。

さらに男子限定ではあるが、ちょっとヤンチャなマネをした者に対しては「ヒャーが!!」と言いながら乳首をつまみ、捻り上げるというスキンシップをしていた。
乳首粉砕拳と呼ばれていた。
乳首を粉砕される男子は「ちょ、まっ、やめ、先生!!」とめちゃくちゃ笑っていた。
重ねて言うが20年以上前の教育現場なので別に問題はない。多分。

生徒に大人気な先生ではなかったが、先生が嫌いという声も聞かなかった。
そんな人が中学2年生のときの国語の先生だった。



先生は年間を通して、授業の始めに5分間作文という時間を設けていた。
先生が決めたお題に対して5分間で作文を書く。
書けてもいいし書けなくてもいい。
字数制限なし。成績には全く関係ない。
というのもこの作文、名前の欄に氏名ではなくペンネームを書くからだ。
先生には多分(というか絶対)筆跡で誰が書いたかなんてバレバレだろうけど、ペンネームしか書いてないので名目上は誰が書いたかなんて分からない。
もちろん書いた作文を返却されることもない。
誰のものか分からないから。

そして次の授業の冒頭で、先生が面白いと思った作文数点をみんなの前で読むのだ。
みんなの前で自分の作文を読まれてもペンネームだからバレない。
だから誰も読まれることを嫌がらない。
これがなかなか楽しくて、たった5分で書いたとは思えない名作もあった。
誰が書いたかは分からないけど、間違いなくクラスメイトが書いたもの。それがまた面白かった。

先生は読むと必ずその作文について講評した。
内容だったり構成だったり表現だったり、とにかくたくさん誉めちぎってくれた。



そんな訳で、私は読まれたくて仕方なかった。
匿名(ペンネーム)で書いた文章をみんなの前で読んでもらえる上にベタ褒めしてもらえるのだ。
しかもそれが分かっているのは書いた本人だけ。
後から友達に弄られることも妬まれることも馬鹿にされることもない上に、承認欲求は満たされるという最高のシステムだった。

何としても読まれたい。

お題を先生が発表した瞬間からの5分間は毎回勝負だった。
たった5分の作文にここまでガチになっていた生徒はそう多くないと思う。
今思うと、そもそも書けない生徒の方が多かったのではなかろうか。
3回に1回くらいの割合で私の作文は先生に読まれるようになった。

調子に乗った私はとにかくウケを狙った。
少しでも先生の琴線に引っかかるものを、と毎回なけなしの脳みそをふり絞って書いた。


ある日の国語の授業。
いつもの5分間作文がタイムアップし、用紙を回収される寸前にペンネームを書いていないことに気付いた。
私はペンネームを毎回変えており、その日に思いついた単語を適当に書いていた。
時間がない中、急いで書いたペンネームは

GS美神

だった。
ゴーストスイーパー美神。
90年代のアニメにもなったオカルトコメディ系バトル漫画のタイトルである。
なんか知らんけど頭に降ってきた、としか言えないがこの単語を走り書きして提出した。

その当時すでに"懐かしいアニメ"に分類されていたGS美神であるが、兄が原作漫画を全巻揃えていたため私はたまにこっそり盗み読みしていた。
精霊石マジで欲しかった。式神っていいよね。
私にとって今でもカラオケで絶対に歌う不朽の名作である。

そして次の国語の授業。

先生は私の作文を読んでくれた。よっしゃ。心の中でガッツポーズ。さぁ先生、俺を褒めてくれ。
最後に私のペンネームを読んで講評に移ろうかという時だった。

 "ペンネーム GS美神"。…GS美神!?
 はぁ〜あったなぁ〜そんなアニメ…
 あれはなかなか面白かったよな

と言ってなんとGS美神談議が始まってしまった。
しかも止まる気配がない。マジかよ先生。
作文を選定するときペンネーム見てなかったの?

私の作文の講評はそっちのけでGS美神の話に大輪の花が乱れ咲いてしまった。
ねぇ先生講評は?私の作文の良い所は?
私もGS美神は大好きだけどさ!!!!!

結局この日の国語の授業をGS美神で20分潰した。
私の小さな武勇伝である。いぇーい。




先生は中年で小太りなハゲたおっさんだった。
女子中学生が嫌いな男性の要素をぶち込んで煮こごりにしたような先生だった。

でも私は好きだった。
ニコニコ笑いながら「ヒャーが!!」と出席簿の角で生徒のおでこにコツンと制裁を与える先生が面白かった。

先生の訃報が届いたのは3年前。

遅くに産まれた娘さんは多分まだ20代だと思う。
退職後にしたかったことも沢山あっただろう。
もう少し娘さんと、もしかしたらお孫さんとも一緒にいたかっただろう。



ねぇ先生。

先生の授業、私まだ覚えてるよ。
私、今でも作文少しだけ好きだよ。



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