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音楽の旅#5 ポスト・パンク~ニューウェーブの旅 中編

 今回は、ザ・ジャム、そしてスタイル・カウンシルを取り上げたいと思います。
ジャムは1977年にポール・ウェラーを中心に結成され、1982年に解散しています。パンク・ムーブメントが最高に盛り上がっていた年にデビューし、そしてニューウェーブがこれからピークに達しそうな時期に解散しているのです。
 スタイル・カウンシルはジャム解散後の1983年にポール・ウェラーとミック・タルボットにより結成されました。
つまり、ポール・ウェラーはパンクからニューウェーブを繋ぐ重要な時期に立ち会っていた事になります。
 ニューウェーブのバンドをそれぞれ聴いていみると、まるで統一性がなく、ちょっと戸惑うと思います。例えば、ポップ・グループとニュー・オーダーは全く音楽性が違います。ウルトラ・ボックスも又違います。ジャムも後期はニューウェーブの時期に当たりますので、他の同時代のバンドと比べてもやはり相当違います。 
 THE JAM
 ここで、ジャムのベスト盤(写真左)を聴いてみましょう。このベスト盤は、シングル発売された曲が年代順に並んでいるので、楽曲の移り変わりが分かりや易いです。    
 それでは1曲目のデビューシングル、「IN THE CITY」から。
 パンク本来の荒々しさと性急さに溢れた直球勝負の今聴いてもグッとくる曲です。いきなりですが、次に21曲目の最後のシングル、「Beat Surreder 」を聴いてみましょう。ピアノとポール・ウェラーのボーカルから始まる最高に心が踊る曲(全英1位)で、次のスタイル・カウンシルを予感させます。1曲目と比べると格段に洗練はされていますが、まぎれもなく、これぞジャム、と言う曲です。 
 ポール・ウェラーは地元サリー州のウオーキングと言う町で、主にパーティーバンドとして、ビートルズやモータウンをカバーしていました。同時期、セックス・ピストルズが活動を始めています。ポール・ウェラーはピストルズを聴き、衝撃を受け、次第にモータウンの曲を高速で演奏し始めたと言います。
 このエピソードは非常に興味深いです。つまり、彼は言わずと知れたモッズ(ネオモッズ)なのですが、パンクの影響を受けたことにより、自分なりのパンクをやろうと決意したのです。
 なので、ジャムはパンクバンドでありながら、最初からピストルズやクラッシュ、ダムドとは違っていました。
 見た目(ファッション)も違いました。細身のスーツに細いネクタイで、同時代のパンクのファッションでななく、モッズのスタイルです。このスタイルで、高速でギターのカッティングをかき鳴らし、がなりたてるボーカルで、でも女王を罵倒するわけでも、アナーキストを表現するわけでもなく、普通の若者に寄り添う歌を等身大で全力で演奏する。
 ジャムの曲はどの曲も、心に染み入る曲が多い。他のパンクバンドに比べ、圧倒的に曲が聴きやすいのです。キャッチーさがあるのではなく、楽曲全体がよく練られている感じがします。多分、ポール・ウェラーが聴き続けてきた、モータウンやスタックスなどのソウルからの影響が、曲に染み出ているのかもしれません。    
 これは、ジャムいや、ポール・ウェラーなりのパンクでした。
 前回の旅で、少し触れたようにパンクの出現は、それまで音楽(バンド)をやっていた若者、あるいはアートをやっていた者、雑誌編集者、ファッションデザイナーなどに、メガトン級の衝撃を与えました。恐らく、パンク全般と言うよりピストルズから、と言う方が正確かもしれません。
 クラッシュのメンバーも、ジョイ・ディビジョンのメンバーもピストルズのライブに衝撃を受け、バンドを結成したと言われています。
 それら、衝撃をまもともに受けた人達の中には、その影響をストレートに表現するのではなく、何とか自分なりの表現ができないか、自分だったらどう表現するか模索する人達が増えていきました。
 パンクに影響を受けたネオモッズ、スカとパンクを融合した2トーン、パンクをよりダークにしたゴシック・ロックなど、ニューウェーブ期のバンドはパンクに非常に影響されながら、独自の表現方法で突き進んでいきました。一つだけ、共通項をあげるとすれば、どのバンドの音も荒くゴツゴツした感触で、あるいは打ちっぱなしのコンクリートの空間のように、無駄な装飾がない、と言う事でしょうか。
THE STYLE COUNCIL
 さて、ジャムをそのキャリアの頂点で解散させたポール・ウェラーはスタイル・カウンシルとして、デビューシングル「SPEAK LIKE CHILD」(全英4位)でニューウェーブ時期のスタートを切ります。では、スタイル・カウンシルのベスト盤(写真右)からこの曲を聴いてみましょう。ジャムと比較すると全く異なる曲です。それまで、基本3ピースバンドとして演奏してきたジャムですが、ここでは、ミック・タルボットのオルガンやホーンセクションが導入されていて、華やかな感じになっています。ただ、過剰な装飾感はありません。 
 やはり、ポール・ウェラーの作る曲は心に染み渡ります。スタイル・カウンシルでは、ジャズやボサノバ、ハウスにもチャレンジしています。表面的なおしゃれ感とダンスミュージックまでに手を伸ばした事で、当時、評論家筋からは酷評されたりはしましたが、彼が根っからのモッズだと言う事を前提にすれば、不思議な事ではありませんでした。なにしろモッズは、おしゃれで、新しい音楽に敏感なのですから。      
 音楽性が変化しても、ポール・ウェラーの眼差しは変わっていませんでした。 
 私が個人的な好きな曲「WALLS COME  TUMBLING DOWN」は、ジャムを彷彿とさせる疾走感がある曲で、今の時代へのメッセージソングにもなると思います。
 それでは、この曲の一節を引用して今回の旅は終わりたいと思います。 

「この仕事に乗り出してみるかい
それとも ちりに埋もれて暮らすかい
そう 壁は崩すことができるものさ」  
 THE STYLE COUNCIL  
  
  

   
      

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