見出し画像

詩45「カナブンと私」

足元に
カナブンが
転がっている

妻が出て行った朝から
ずっと
仰向けのまま

夏の終わり
蝉が騒がしかった

あの日から
弔いもせず
放ってある

死骸を
なぜか
捨てようとは
思わない

カナブンに
とっては
大いに
迷惑だろう

もう
いい加減
捨てて欲しいのか

近くの
地中に
埋めて欲しいのか

あるいは
このまま
冬を越したいのか

毎朝
靴を履きながら
カナブンに
話しかけるが
返答はない

夏の終わりに
雪国の実家へ
戻ったきり
妻は
帰って来ない

このまま
冬眠を
決め込むつもり
なのだろうか

それにしても
どうやって
カナブンは
家の中に
潜り込み
死んだのだろうか

いや、待てよ
死骸ではなく
冬眠なのかもしれない

カナブンが
妻と重なる

いや、違う
カナブンは
私だ

あの日から
ずっと
仰向けのまま
転がって
飛ぶこともできずに
その日を
待ち続けている


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?