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詩(投稿作品)その①

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ネット詩誌MY DEARなどへ投稿した詩をまとめました。 「1 息子の息子と息子」が一番古い作品(2021.8.19)となっており、投稿順に並んでいます。1~100+1で「その①…
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2024年7月の記事一覧

詩83「一日の意味」

一日は 二十四時間なのに 長い日もあれば 短い日もある 今日は あっ と言う間だった 一日は 長さではなく 速さなのかもしれない 今日は 足取りが 重かった 一日は 速さではなく 重さなのかもしれない 嫌いな人と 過ごす一日は とてつもなく 長くて 遅くて 重い 好きな人と 過ごす一日は とても 短くて 速くて 軽やか 一日は 長さでも 速さでも 重さでもなく 好きか 嫌いか なのかもしれない そんなことを 考えながら ひとり過ごす一日が 僕は好きだ 腹が

詩82「へいこらサン」

へいこらサンは 上下関係でしか ものごとを見ないから 僕たちには威張るのに 偉い人にはへいこらする へいこらしたのを 僕たちに見られて 余計に威張り散らすのは 口止めのつもりなのかもしれないが 僕たちは 見ざる聞かざる言わざるの猿真似で誤魔化し 決してへいこらしない へいこらサンは 僕たちから へいこらサンと呼ばれているなんて 夢にも思っていない だから 何も知らずに威張り続け 偉い人に取り入って 望みどおり 肩書きが立派になったのに 誰もへいこらしないから みんな言うことを

詩81「夏詩」

青い葉脈が 光を和らげる 真夏の陽射し 真昼の熱歩道 年々つらくなる 外回り 木陰を見つけ 寄りかかる 立ち止まると 汗が噴き出る 全力の鳴き声が 全身に沁み響く 大空に たゆたう夏雲 命懸けで鳴く蝉 命懸けで働く俺 命が輝き 命が霞む 目を閉じて 水筒の麦茶を飲む 水を飲むなと叱られた 夏合宿は遠い昔の記憶 蹴って走った仲間も 同じ空を眺めているのだろうか

詩80「思い出」

汗を拭きながら 坂道を歩く僕を のんびりと追い越していく 赤い小さな車 久しぶりに あなたを 思い出した 後ろ姿を 見送った 夏から まもなく三年 忘れたい思い出が 懐かしい思い出に 変わってしまった ことを知った

詩79「慈雨」

久しぶりに 泣いた 泣けたのが うれしくて また泣いた あまりに みじめな 自分の姿に 泣けて しまったのだが うれし泣きするなんて 情けなくて もらい泣きする 涙もろかったことを 忘れるほど 砂漠の毎日だった

詩78「中毒前夜」

朝のビールは 一度知ると やめられない 寝惚けたまま 飲んだら ビールで もったいないから飲み干した 炭酸ジュースを 飲むつもりだったのに 翌朝から 寝惚けたふりして ビールを手にすると 勢い良く飲み干す ようになったが 誰も 気づかない 車を運転する 仕事ではないので 法に触れることはない きっと 社則にも 素面でないと 働いてはいけない なんていう文章は ないはずだ 毎朝 入り口で アルコール消毒して 検温するが アルコール検知器はない 誰か 気づいて く

詩77「女と男」

スーパーで買い物をしていると 同年代の女性が 近寄って来て 僕の顔をじっと見る そして 何も言わずに 歩き去って行く 誰かと 見間違いをしたようだ 思い当たることはなかったが とりあえず笑ったので 何だか損した気分になる 誰かに見間違われることが 昔から多い 大野君でしょ? 名前を呼ばれて いえ、違います 丁寧に否定したのに 嘘、大野君だよね? 否定を否定された 妻によれば 特徴のない 角度によってどうにでも見える顔で 話し掛けやすい雰囲気を醸し出している 僕に問

詩76「問い」

いったい なんのために 生きているのか  コンビニで  唐揚げ弁当を買い  おつりを  募金箱へ捨てる ぜんたい なんのために 働いているのか  募金の  使い道は  知らない いったい なんのために 半世紀も生きてきたのか  コンビニの  駐車場で  酔って  大きく笑う  老人がふたり ぜんたい なんのために 遅くまで働いていたのか  久しく  笑ったこと  なんてないと  気づかされる いったい いつまで 生きるのか  店内に  戻って  缶チューハイ

詩75「自己紹介」

最近  歩き方を 忘れました 飛ぶことは そもそも できません 先日 人の褒め方を 教わりました 人を貶すことは 知らぬ間に 覚えていました 泳ぎ方は 知っていますが 泳いだことはありません 呼吸を 時々忘れます 恋と愛の違いが 分からないのは 人を好きになったことが ないからかもしれません 二足歩行よりも 四足歩行が楽な時があります 何をし 何を覚え 何を忘れて 何のために 生きるのかは 知らないのに 今日も しぶとく 生きている 僕は 僕だけど 僕ではな

詩74「前置き」

話す前から 笑わないで欲しいと 言うのはワガママだ 話す前から 泣かないで欲しいと 言うのはヒキョウだ 前置きされると 身構えて 笑いたくなるし 泣きたくなる ほら やっぱり笑った 泣かないでって 言ったのに まるで 僕が悪者のようだけど 笑わなかったら つまんない人 泣かなかったら 冷たい人と言われる いずれにしても 前置きはズルい 笑って欲しい 泣いて欲しいと 言ってくれればいいのに みんな素直になれないから 後出しじゃんけん みたいな 前置きをする

詩73「風と父と」

風に 背中を押され 歩く朝 父を 感じる 幼稚園 小学校 転校した小学校 いつも 門の前で 立ち竦んだ 手をつなぎ みんなが 追い越していくのを 二人で見送り さぁ 行っておいで 手を離した父が 私の背中を 優しく押す きっかけは 手を握る力か あるいは 手の平の汗か まるで 風に 背中を押されたように 前へ進めるのだ 父は 私を良く見て 心から理解してくれた 中学校 高校 大学 そして入社 転々とした会社 私はひとり 立ち竦み 父の声と手を 背中に感じ

詩72「聴き屋」

その人は 僕の話を 聴きながら 涙を流す 泣きたいのは 僕なのに 不可思議な 商売だと思う 話を聴く だけで お金を稼ぐ 医師でも なければ カウンセラーでも なく 占い師や 坊さんでもない ただの 聴き屋 僕の話を聴いて 泣き 笑い 怒るけど 癒しの言葉も 救いの言葉も 発することはない なのに 通い続ける 僕も 不可思議だが 予約も難しいくらいに 繁盛している 専門医に 話してみた 妻に 話してみた 壁に 話してみた けれど 気づけば 聴き屋 に戻る

詩71「通夜」

いい奴だった なんて 間違っても言われたくないと つくづく思う みんながみんな 口をそろえて いい奴だった なんて言うけど 俺は いい奴だった なんて 思ったことはない 死んだら みんな いい奴になるんだよ なんて言う奴もいるけど そんなに都合のいいこと あるわけないじゃん 迷惑をかけられまくって 文句を言いに来たけど もう喧嘩にもならないから 諦めているだけの話で いい奴だった なんて 思えるわけがない 俺が死んだ時に いい奴だった なんて言う奴がいたら 生き返って

詩70「夕暮れ」

薄暗くなったので 壁時計を 見たら 二時間過ぎている 僕らは 同じソファで 一言も話すことなく 座り続けていた 君は スマホゲーム 僕は 文庫本 どちらも 戦国武将が 主人公だ 遠い昔 恋人だった頃は 沈黙を 恐れていた 夫婦になって 久しい今は 沈黙が 心地良い 触れなくとも 話さなくとも 居るだけでいい 僕らの関係は 強くなった というより 深まった 互いが 求め合う のではなく 認め合い 許し合う 僕らは 同時に 立ち上がる そろそろ 晩飯の支度だ