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「クリスマス きっと君は〜」?

クリスマスの時期になると必ず耳にする日本が産んだ名曲『クリスマスイブ』
山下達郎さんの作詞・作曲の名曲の一つです。
ほかにもあるだろうけど。ミーハーな奴!などと怒られるかもしれないが、毎年この時期になると欠かさず耳にする曲なのだから、これは名曲と言わずして、他になんんというのであろうか?

昔は、『コマーシャルの曲なんだから、現実にはあんなことないよなー』とも思いながら、冷めた気持ちで見てたけど、その気持ちがある日突然変化する出来事がありました。
今回そのエピソードを語らせていただきます。


それは〇0年前、故郷の小さな街で中学校の教育実習をしていた時のことでした。
毎日の模擬授業はたいしてうまくいかず、何をしてもいいか分からず、失敗の連続です。
失敗していることは自分にもはっきりわかるのですが、何をどう改善していけばいいのか全く分からないのです。
挙句の果てに生徒さんに
「つまんないよね」
という賞賛?の生の声をいただきどうしよもなく腐っていたときだった日です。

ある女子生徒が、近寄ってきて私に声をかけてくれました。
「先生、うちのお姉ちゃんが、先生のことを知ってるって言っていたよ」
と話しかけてくれたのです。
授業も準備もうまくいかず腐っていた私は、生徒にかけられたその一言に大変救われたのです。実は話しかけられたことが嬉しかったのかもしれません。

しかし、その顔を見ても思い出せる顔がありません。
申し訳のない思いが一杯で
「ごめんね。えーとお姉さんて誰?お姉さんのお名前は?」
「同級生の◯◯◯◯◯って知ってる?妹だよ。」
というではありませんか。

突然、昔の事を思い出しました。
少しぽっちゃりだったけど同じ部活動でもあった彼女。
なんとなく好きで気持ちが惹かれていたこともあり、その子に小さな妹がいたことを思い出しました。
その女性の妹が声をかけてきてくれたのです。
なんという偶然でしょう。私より幼い子供さんですが、まさに女神の一言に思えました。
そういえば、保育園生ぐらいの小さな妹とよく一緒にいたことを確かに見たことがあります。
会いたい気持ちが、芽生え
「今度同窓会があったら、顔を合わそうねと言ってくれる?」
などとキザなことを言ってしまいました。

どうせ、社交辞令と思われているだろうし相手にされないままに終わるだろうろうと考え、もう接点はないだろうなと思い、また落ち込む気持ちが高まっていきました。
声をかけてらったことは嬉しいのだけど、
「何かが起こるわけでもないし。こんな田舎町の自分の出身学校の教育実習も悪くはないのかも」
などと、一瞬だけ考えたのは、あまりにも愚か者の考えです。

ところが、神様はイタズラがお好きなのか、その次の週声をかけてくれた女子生徒が「おねーちゃんから預かったよ」と一つの包みを渡してくれました。
ドキドキしながら、見つからないように実習生の待機場所で、こっそり開けてみました。
中から出てきたのはなんとカセットテープです。
そのテープのケースを開けるとSonyの白いテープが入っています。
テープの中に何が録音されているのかわからないので、ドキドキしながら、家に帰ってラジカセで、早速聞いてみました。

聞こえてきたのは、山下達郎さんの「ジョ〜ディ〜」の明るい歌声。
自分の考えていた、勝手な妄想とは全然違ったのだけど、応援者の存在を感じられて、なぜか元気が出てきて、嬉しくなりました。
続きのテープの中には、きっとサプライズがあるに違いないと思い、テープを裏返し、B面の最後まで一気に聞いてしまいました。「クリスマス・イブ」が聞こえてきましたが、サプライズはありません。
少し気落ちしてインデックスカードを眺めていました。
すると中から、小さなカードが出てくるではありませんか!
これは!と胸の高鳴りを感じながら、目を通してみました。
彼女は保育園の先生になって頑張っている事、子供からしか学べないことってあるよね・・・
そんな言葉が並んでいました。私が密かに期待していた文章とは違うけれど、なぜか彼女はとても立派な女性に思え、自分の小ささと卑しさが見えてしまいました。

そんな感慨に浸っているといつの間にか「クリスマス・イブ」が終わっており、カセットから流れる、テープのヒスノイズだけが、聞こえていました。
私は、この曲がなぜか今の気持ちの自分にピタリのような気がして、もう一度無性に聴きたくなり、巻き戻して最初から聞き始めてしまいました。
「きっと君は来ない〜」
「一人だけのクリスマス・イブ〜」
という言葉だけが、なぜか深く心に突き刺さります。
そのうち耳を真剣に傾けるようになってきたのか、曲のモチーフにクラシックが使われているということに気づきました。そういう曲だったのか〜という思いが湧いてきました。
もう一度最初から聴きたくなり、巻き戻しです。
聴きながら、彼女からのカードの手紙を読み返しました。
少し物悲しいイントロから、達郎さんの歌声が聞こえてくると、彼女の手紙と共に癒され勇気づけられている実感が湧いてきました。
本当にいい曲だなーとしみじみ思うようになりました。

次の日からの私は、また頑張ってもいいかなと思えるようになりました。
教師は孤独な職業だと思っていたのですが、応援してくれる人も必ずいるんだなと感じることができた、2週間の実習でした。

このテープは最近までずっと妻には内緒で持っていたのですが、レコードを購入をきっかけに、古いテープは処分するという厳しい御沙汰を受け、お空へ帰って行ってしまいました。
しかし、私の心に刻まれた思いはいつまでたっても消えません。この歌を聞くたび甘酸っぱい思いが蘇ってくるのです。その後彼女に会うこともありませんでした。
自分では一生懸命取り組んでいると思っても、うまくいかず苦しんでいた、ちっぽけな自分を思い出し、あの時の苦しさと切なさが歳をとるごとに、高まってきて、目頭があつくなるのです。そして、音楽に救われたという実感が湧いてくる歌なのです。

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