ロマンス小説の七日間 感想文
ロマンス小説の七日間 感想
三浦しをん著 角川文庫
ネタバレとか気にせず書くのであしからず。
♢♦︎♢
ストーリー
海外ロマンス小説の翻訳家であるあかり。
作品内ではあかりの翻訳した小説と、あかりの日常が交互に描かれる。
ボーイフレンドの神名とのすれ違いなどでささくれ立ったあかりの心は、本来の小説とは違ったストーリーを作り出していってしまう。
♢♦︎♢
三浦しをんの小説が好きだ。普遍的で尊い日常が、そこにあるから。
この「ロマンス小説の七日間」も、かなりその要素が色濃く、好きだった。
物語はあかりの訳したロマンス小説の導入から始まる。
知っている小説家の作品だとろくにあらすじを読まず買ってしまうので、少しびっくりしてここであらすじと中盤の頁を確認してしまった。理解。
あかりはロマンス小説にツッコミを入れつつ、物語を書き進めていく。ベタベタのベタな話って、そういう読み方するのが面白いよね、とわたしも思いながら読む。
そして現れるのが神名というあかりのボーイフレンドだ。あかりは神名の家に転がり込む形で同棲をしている。
神名の登場とともにふわっと部屋の空気が変わる。こういうキャラクター、いいなって思う。ゆるやかな空気を常に変わらず纏えるひと。
五年付き合った神名とあかりのやりとりは軽快さと少しの停滞感を孕んでいる。長く一緒にいるからこその、わかり合っている感じ、と、あえて踏み込まない感じ。
小説を読む際に好きな場面を控えておく習性がある。特に好きだった頁が、42頁と197頁で、両方ともこの2人のシーンだった。
真夏の冷えた空気の中で、2人で寄り添いながらただ、眠る場面。
それから、冬になったら旅に出てしまうという神名と、なんでもないふりをしてそのことについて会話を交わすあかりの場面。
いつまでも夏だったらいいのに。あかりは思う。しあわせな今を永遠にしたい感情は、どこまでも普遍的で痛切だ。
あかりの書いたロマンス小説は、
いつかまた、会えるんだ。
という言葉で締めくくられていた。もちろん原作とは全く違う展開になってしまったあかりの作品の中で。だから、これがあかりの願い。
めちゃくちゃ泣ける、というわけではない。
でも、読んでいる時に自分の実感が引き出されて時折胸の奥が痛くなる、そんなお話だった。
大切な人と一緒にいるときってすごくしあわせだけれど、ずっと穏やかなわけではないな。とか。色々な記憶が蘇る。
大切な人が近くにいるということは、ある種の恐怖を孕んでいるとわたしは思っている。
いなくならないでほしい。今の幸せがずっと続きますように。そんな風な祈りを、心の片隅に抱えながら過ごしてしまう。
余計なことを考えずに今の幸せだけを受け入れられる人間ももちろんいるのだろうけれど、わたしにはそれができない。
でも、『ロマンス小説の七日間』を読んでいる時、それでもいいのかもしれないと思えた。そんなもんなのかもしれない。
物理的距離はこわいけれど、信じてみる。変わらないものなんてないけれど、きっとそれでいい。その上で、変わらないものがあったら、それを大事にしていけばいい。
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