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読書日記191 【死にたい夜に限って】

 爪切男さんのエッセイでデビュー作。著者の過去に付き合った女性のことがメインになって構成されている。冒頭から書かれる「アスカ」という女性との6年間が軸になり高校生の時から「アスカ」と知り合うまでの知り合った女性のことがランダムに綴られている。生まれてすぐに両親が離婚をして、厳格な父親と祖母祖父とに育てられる。高校生のときに同級生に「笑顔が虫の裏に似ている」と言われ人の前で上手く笑えなくなる。

 大学の時にヤリマンの新興宗教の信者を彼女にもち、その女性との生活のために地元でない長崎で就職を決めて、信仰を迫られ、その彼女と別れて就職をあきらめて実家の香川県に戻る。地元でフリーターになる著者を父は罵倒して、家出同然で実家をでて東京に向かう。そこで「アスカ」という、人生で一番愛した女性に出会う。

 話は冒頭から「アスカ」との結婚も意識した付き合って6年目の2011年の東日本大震災の直後に突然の別れを切り出されるところから始まる。そこから今まで付き合ってきた女性たちの回想シーンや狼狽して同棲するアパートに帰れない著者が野宿をしたりする部分からこのエッセイの不思議な世界観がはじまる。

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 エッセイで自分のことを(ネタもあるかもだけど)これほど赤裸々にかくのは、正直、勇気がいる。美化などがなくて、しっかり自分の性癖や女性の面白い所をしっかり書けるのがすごい。高校生のときの同級生は名前までしっかりと書いてある。「怒られるんじゃない?」と思いながら、面白く読まさせてもらう。

 これはドラマでもネタになっているんだけど、「アスカ」と知り合ったときに「アスカ」は唾液を売るしごとをしている。あとで税務署がくんじゃね?と思えるほど高額に稼いでいたというのも驚きがある。著者はそれを辞めさせて、同棲をはじめて躁鬱病に苦しむ「アスカ」を懸命に支えていく。バイトを掛け持ちしながら無職のアスカを支えるなかで、著者がどう思い「アスカ」がどう悩みということが書かれている。

 エッセイなので過去にあった面白い人や、付き合った女性のことが突然に回想シーンとして出現する。文章は散文的で説明は少し平坦な感じがする。ただ、人に伝える感覚というか、読んでいると、この暗く救いのない世界にのめり込んでいる。不思議なほど夢中になって本のページをめくっている。

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 「なごり雪」や「二十二才の別れ」など昔のフォークソングのような、若い男女が東京で懸命に恋をして別れ女性が田舎に帰り、男性が落ち込むという青春群像劇が後半からすごくリアルに書かれている。二人にしかわからない将来のない結末をもった恋愛の最終章を著者は懸命に言い聞かせるように書いてある。最後の「アスカ」との駅での別れのシーンはすごく感動した。散文だった文章がある意味で方向性を持って物語を完結させていく。バラバラなコマ切れの回想シーンが一つにまとまっていく。壮大な恋愛小説を読んだ感があって不思議に余韻をのこしている。

 音楽をすきな人らしく、短いフレーズをすごく大事にしているのが読んでいるとわかる。エッセイって短い文章のまとまりなので、題名や話のなかにインパクトのある言葉を入れるのが大事なので、そういう意味でもすごく言葉のインパクトはすごく選定されていると思った。

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