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エッセイ【ただひたすらに耐える……】

暑いのが苦手というか「暑いのが夏」と軽く言っていられたのって2000年の頭ぐらいで、外に出るだけで熱中症になるような暑さってと正直思う。

昔に派遣の仕事で家のパネルを製作する会社で働いていたことがあったけど、その時に2時間で必ず水分を取ることが義務付けられていた。

何故かというとそこはパネルをはめる接着剤が温度が低くて固まらないように設定されていたからで、その温度は30~32°だった。それでも暑い暑いと水や塩を求めて仕事中でも自由にとれるようにしてあった。

それよりはるかに暑い世界が待っていることもつゆ知らず、25年以上前はそれより低い温度で暑い暑いと派遣でお金を稼いでいた。

時給もよくて20日ほど働くと30万円以上になった。残業も少なかったので毎日パチンコに行っては近くの定食屋でご飯を食べていた。その頃に何故か気に入られて僕の狭い6畳のワンルームに転がりこんできた女性がいて、その子も一緒に食事をするのだけど、2人合わせて1000円いかなかったぐらい安い定食屋だった。

ビールはそれでも高いので、焼酎の炭酸割?みたいなものをみんな飲んでいた。僕は下戸げこ(お酒が飲めないこと)なので、ウーロン茶をもらったが無料だった。

その女性は夜のバーテンダーみたいな仕事をしていて、その定食を食べては「行ってくる」といって仕事をしていた。そこの店長が女好きだったらしいけど、身持ちの固い女性だったのか、噂みたいなのがない人だった。

田舎だったので稼ぎは悪かったらしく、バイト代も少なかったのでアパートを借りてということもできなかったらしかった。自分は派遣先が知り合いの経営する会社で、アパートもその派遣先で用意してもらえたので、その田舎に住んで期間限定みたいな派遣をしていた。

その女性は自分が定食を食べた後にその派遣先の営業マンが接待でお酒をのんだけど、送迎する車がないというので迎えに行ったときにその店にいた。「なんで僕が…」と思いながら迎えにいった。

その頃のタクシーや代行は忙して週末はよくとれない時代でもあったのでアパートの近くにある会社の車を止めてあった駐車場にあずかっているスペアキーでお店に迎えにいった。

「いつも悪いわね~」

と言いながらスナックのママは僕に缶ジュースを2本ほどくれた。「いえ」と軽く返事をした。そして友達の営業マンを載せて帰ろうとするとお菓子を袋ごと持って来た。

「わるいんだけど、この子も送ってあげてくれない?」

それが彼女だった。酔っている感じはなかったけど、警察の取り締まり強化もあって、みんな代行で帰っていた。彼女も自分の車を置いて帰るということだった。「いいですよ」と言って友人を送ったあとに彼女の家に送り届けると……

「車を取りに行かなきゃだから携帯番号教えてよ」

と言われ彼女と知り合う感じになった。彼女は最初は隣の市で赤ちゃんの服を売るお店の店長をやっていた。上司が女性で厳しかったために精神的に病み会社を辞めたかったらしかった。

彼氏がいたけど彼は近くの市役所に勤めていて両親もその地域では大きな会社に勤めていた。周りの人たちは彼女が精神的に追い詰められていることに気が付かなかった。精神的に崩壊した彼女は僕のアパートの前に座っていた。

まるで捨て猫のようだった。

僕はシャワーを浴びて定食屋に行こうとしていた。彼女が座っているのを確認したけど、正直めんどくさいなというのが先にきていた。「俺、ご飯食べに行くけど、どうする?一緒にいく?」と聞くとコクっとうなづいた。

ご飯を食べ少し泣いた跡が残っている化粧もしていない顔を見ながら、まわりの会社の同僚の視線が少し恥ずかった。僕が何も聞かないので彼女も何も喋らなかった。

後でみたら携帯に彼女からの着信履歴があった。

彼女は結局、会社を辞めて東京で上京して美容の専門学校に通って就職してという道をたどることになるんだけど、僕と住んでいる1年弱(10か月ぐらい)で色々と行動していた。彼女は僕のアパートのことを両親には教えなかったし、彼氏とはしっかりと別れていた。

「私の両親はただひたすらに耐えろというのよ」
「女性だから、いい男捕まえたんだからとか……」

「僕の両親もそんなものだよ」と僕が答えると……

「我慢した世界って何かいいことでもあるのかな?私には本当に見えないんだけど……」
と言っていた。暑い夏になると少し思い出す。




#猛暑の過ごし方

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