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読書日記199 【マウス】

 村田沙耶香さんの作品。村田さんの作品の中では割と綺麗にまとめられている感じがある。奇妙な女性を書かせると右にでる人っていないんじゃないかな?と思えるほど、すごく奇妙な少女を描く著者が書いた「青春群像劇」のような感じがする。

 主人公の田中律は小学生の同級性の塚本瀬里奈が気になる。容姿が端麗で身長の高い瀬里奈は、無口で話ができない。高校生とかになれば絵になる人でも、小学生ではクラスではいじめられてしまう。それでも瀬里奈が気になる律はついに瀬里奈に話しかける。その時に瀬里奈は「灰色の薄暗い部屋」という不思議な世界にいることを知る。そこらへんから村田ワールドが全開になっていく。

 不思議な作家さんだと思う。他の女性作家さんが特有の武器(美貌や他の才能)をもって小説を書いているのに対して、この作家は「これさえ書ければいい」と同じような作品をどんどんと創り出していく。「ちょっと変わった少女が大きくなって社会とそして世界とどう繋がっていくのか?」このテーマは崩れない。ミステリーにはある「シリーズもの」を設定を変えて延々と読まされている気もしてくる(笑)

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 律はいじわるで瀬里奈の「灰色の薄暗い部屋」を消してしまう。そして、絵本の『くるみ割り人形』の主人公マリーが瀬里奈に乗り移ってしまう。ざっと書いてみると、なんじゃそれ?とツッコミどころ満載なんだけど、なぜか村田ワールドに入るとすんなりと読める。マリーのように活発になって豹変してしまう瀬里奈。クラスの人気者になってそれから疎遠になってしまう二人。そして大学生になり、みんなで集まる機会ができて、再開する二人という感じで物語は進んでいく。

 僕は小説を書ける人の大前提というか不可欠な才能って、「映像(記憶)の構成力」だと思っている。映像を切り取ってトランジション(つなぐ)して一つの作品にできる人というか、有名な監督が小説を軽く書いてしまうのはそれだと真剣に思っている。頭の中の映像ソフトを開いて撮影された映像(人間の記憶)を切り貼りして一つの作品にしていく。その表現方法が「文章を書く」という方向に向いただけで、それが映像なら映画やドラマになると思っている。画家や写真家の方か映画やドラマに近い気がするけど、実際は異種業種から監督になる人って作家やミュージシャンが圧倒的に多い。ミュージシャンでも作詞作曲をするシンガーソングライターのような人が多い。つまり、作家の中にある「映像みたいなもの」が文章になっていく感じがする。

 村田さんの書く世界観ってすごくイメージがわきやすい。一般にある世界というかどこにでもある感じがする。だけどそれはパラレルワールドの入り口でさっと「村田ワールド」に放り込まれてしまう。そこからは独創的世界を浮遊していくような感じがする。スカーレット・ヨハンソンの「ロスト・イン・トランスレーション」の映像のような外国人からみた日本のような世界というか僕の想像の世界でない別の似たような世界が拡がっている。ディテールがしっかりしているぶん、余計に頭から離れていかない。本当に不思議な作家だなと思う。

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