【ニューヨーク滞在記】②苦悩と奇跡に満ちた、出発への道のり

 ただ、ただ祈ることしかできなかった。MLBとNHLを生で見るという夢にまで見た機会が台風によって消滅する、瀬戸際に立たされていた。

 10月12日。超強力の台風19号が日本列島に上陸した日である。そして、それは私がニューヨークへ飛び立つ日でもあったのだ。午前10時40分羽田空港発JFK空港行、アメリカン航空(JAL運航)8403便のチケットを持っていた。

 滞在記を書けているということは、つまり飛び立ったということだが、出発直前は苦悩と奇跡に満ちた時間だった。

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 さかのぼること、出発の4日前。ちょうど航空券を買った直後で、徐々にテンションが上がってくる時だ。そんな時、ニュースに「台風19号 12日に関東上陸か」との文字が現れた。非常に強い勢力で、交通機関に影響を及ぼす恐れがあるとの説明もある。

 「これ、おれが行く日じゃね?」

 とは言っても、都合の悪いことからは目をそむけたくなるのが人間というもの。なんとかなるだろうという謎の見通しのまま、時間は過ぎていった。しかし、なんとかなるなんてことはなく、台風19号関連の報道は多くなっていた。10日にはラグビーW杯など各地のイベント中止が発表され、鉄道各社が計画運休の可能性も発表。当然、私の不安も増していく。

 「もしかして、行けない可能性ある?もし飛んだとしても、空港までたどり着けないのでは…」

 この時点で、飛行機を早めるという選択を取った人もいるはずだ。しかし、できなかった。

 出発前日の11日は舞浜の某ランドに行く予定があったからだ。知り合いから無料入園券をもらい、長い間楽しみにしてきた。引き換え期限もあり、いまさら変更するのも難しい。つまり、12日10時40分発の飛行機が飛ぶことを祈る以外、選択肢は無かった。

 「なんてついてないのだろう。でも、前日に舞浜へ行ったり、その前の日には東京ドームでCSを観戦したりと、好き放題やってればどこかでガタはくるか…」

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 と、すればだ。まず、空港まで行く方法を考える必要がある。家から羽田空港までは、地下鉄やJRを乗り継ぎ、品川から京急で向かうルートがベター。JRの計画運休発表は11日であり、もし12日の終日運休が決まってしまえば、11日に舞浜から帰宅後、12日の朝に羽田へ向かうことは難しい。だが、京急は10日に「12日の午前中は運航」と発表していた。ならば、11日は品川周辺で泊まれば、朝に羽田に行くことは可能である。

 調べると、羽田まで約20分の五反田に、安いカプセルホテルがあることが分かった。

「決めた! 前日はそこに泊まってしまおう」

 すぐに楽天トラベルで予約し、急遽10日の夜に荷造りをした。11日の朝は舞浜駅のロッカーにアメリカ用の荷物を預け、その日は3年ぶりの某ランドに入園した。

 夢の国でも、頭の片隅から飛行機が離れない。プーさんのハニーハントで癒された後も、羽田空港運航情報にアクセス。バズライトイヤーのアストロブラストで一汗かいた後も、スマホとにらめっこ。昼頃には、アメリカン航空に電話してみたが、込み合ってつながらない。その時、某シーの方向を向いて、こう思ったのである。

 「今はなきストームライダーよ。台風をどこかへ消し去ってくれ」

 羽田は国内線の終日運休が決まり、ANAは国際線も早朝以降は欠航を決めていた。私が出発する20分前、10時20分のニューヨーク行きももちろん欠航。だが、JALはいつになっても欠航を発表しない。正直、この時は早めに欠航を決めてくれとすら思っていた。

 それでも、日が落ち閉園の時間になった。少しの望みに懸け、舞浜からスーツケースとともに五反田へ向かう。駅を降りると、すでに雨が降り始めていた。風俗街のキャッチから逃げるように、宿に入った。

 予約していたのは「ドシー五反田」というカプセルホテル。ネカフェ宿泊の経験はあるので、そんなものだろうと期待していなかったが、見事に裏切られた。昨年オープンしたらしく中はキレイで、広いシャワーとサウナもついて3200円。かなりおすすめできる。(HP→https://do-c.jp/gotanda/

 汗を流した後は、「台風19号 弱まった」「台風19号 遅い」などど、ポジティブに考えられるような検索で心を落ち着かせ、寝床についた。

 さて。朝だ。恐る恐る欠航情報を見てみる。

 「変わっていない」

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 午前7時過ぎにチェックアウトし、もしものために食料を、とローソンに寄ったがすでに棚は空っぽ。かろうじて残っていたメロンパンと、スポーツ紙を買い、京急で羽田へ。このあたりから、もしかすると行けるかもしれないと自信を取り戻すようになる。

 空港に着いた後、真っ先に電光掲示板に目を向ける。まだ欠航にはなってないことを確認し、小さくガッツポーズ。国内線欠航の影響か、人は少ないようだ。ロイター通信の腕章を下げ、うろうろする記者がいた。

 JALのスタッフに運行状況を聞いてみると、「ニューヨーク行きは飛ぶ方向で準備しています」。すぐさまチェックインを行い、航空券を受け取った。出発時刻まではWi-Fiを受け取ったり、つるとんたんで腹ごしらえしたりした。

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 出発1時間前に出国検査を通過して、ゲート前のベンチに座る。テレビが映すNHK の災害情報に、皆の視線が向いている。エリックに、「奇跡的に飛ぶかもしれない」と送ると、その時、スマホに災害の警報音が鳴り響いた。空港では、「台風の影響により揺れますが、フライトには影響はない」とのアナウンスも流れた。こんな中で本当に飛ぶのだろうかと、まだ信じられなかったが、いつも通り搭乗し、ついに離陸した。

 「JALよ、本当にありがとう」

 機内では、時差調整のためにひたすら寝る予定だったが、あまり眠くなかったので映画を2本視聴。事前に、アマゾンプライプで「ペンタゴンペーパーズ」と「ローカル路線バス乗り継ぎの旅in台湾THEMOVIE」をダウンロードしておいて良かった。

 数時間経った頃、座席前のモニターに「ニュース」という項目を見つける。チャンネルを合わせると、NHKの録画放送が始まり、12日朝の暴風雨にさらされる日本各地の映像が流れた。家族や千葉の祖父母の家も心配になったが、飛行機内はメッセージを送ることもできない。とにかく最小の被害と、無事にニューヨークについてくれと思いつつ、飛行機に身を委ねた。

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 約12時間のフライトを終え、ついにアメリカ編。まずはエリックとの再会からスタートしよう。

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