日本BLドラマ「ポルノグラファー」第6話を本気で見た
ここ最近強く感じるのは、SNSが浸透したお陰で制作サイドに視聴者の意見がより伝わりやすくなったことである。ありがとうインターネット。
エンタメはアクションとリアクションで成り立ってると思うので、視聴者のリアクションをちゃんと受け取ってもらえたっていうのも嬉しいな……。
さて、愛しさと切なさで死にそうな5話の最後では久住くんに先生の合鍵と共に心強さが備わったところで、最終話について書きます。
副題は愛欲と理性の果てに。さすが最終話、すごい副題。
前回「チェーン切ってでも会ってきますから!」と勢い任せに城戸に啖呵を切った久住くんですが、会って何て言おう……と悩む。
そんなところに一通のメール。なんと、その差出人は先生。やだ、先生ったらメールできんじゃん……てか電話番号のみならずアドレス交換してた……と心の中でひっそりとつっこんでしまったよね。そのメールには、切実な先生の本心がつづられていました。
久住くんとの出会いとなった事故の瞬間に、先生はとあることを強烈に期待していた。それは手が動かなくなって、筆をとれなくなること。しかし、実際にケガを負ったのは利き手ではなかったことを残念に思っていた。お金が無さそうで人のよさそうな久住くんに、利き手が使えなくなった小説家のふりをしてみることを思いついた。そんなことをした理由は寂しさを紛らわせたかったからであった。
先生はずっと創作の限界と孤独に戦っていた。作家として、人生を削りながら小説を書いてきた。三文エロ小説であろうとも。しかし先生の中はいつしか空っぽになってしまい、削り取るものがないように感じる。
この創作と闘う描写がすごく好きで、私なんて大した創作もしてないんですけどうっかり共感する部分もありました。せ、先生……。
そしてメールの後半には、久住くんへの謝罪と別れの言葉。今回のことを深く反省し、同時にこれまでの人生一切を清算しようと思い立ちました……僕はこの世界になにも未練はありません……???え???
「たくさん嘘をついてきた僕ですが、これだけは真実です。君と過ごしたひと月半、僕はとても楽しかった。とても。本当にとても。ありがとう。君に光り輝く未来を」そりゃあ久住くん走るよね。だって完全に遺言のテンションだもん。
爆走して先生の家に着いた久住くん、めっちゃドア叩いて先生を呼びます。こんな時に助かる城戸から奪った合鍵。チェーンはかかっておりませんでした。家の中に入ってみると、あれだけたくさんあった家具とか本とかがきれいに何にもなくなってる。超焦る久住くん。家を探し回りますが、先生はいない。絶望。これは完全に絶望よ。
もう先生が天に召されたとか思っている久住くんは床に蹲って泣きます。冒頭からかわいそうすぎる……と思ったら、ふと窓際に何か見つける。ボストンバッグが一つ。この時の久住くんすごい汗だくで健気さストップ高。
すると、扉が開く音と共に人影が。久住くん超ビックリ。
「なにしてんの」と先生に声をかけられて、力なく「先生……」と言う久住くん。この子ってば家に来てからずっと先生しか言ってなくないですか……健気……。
先生「間違えて送っちゃったんだよ、推敲中に。あんなメール送ったら、君、こんな風にすっ飛んでくるじゃないか」
いや~~~ここ、どう思います?私の中では、本当に間違えた4割、久住くんに来てほしくて送った6割って感じ。照れ隠しで間違えて送っちゃったとか言ってたら……先生……。
振り回されて呆れた久住くん「使い慣れなさすぎです」
ちょっと拗ねる先生「そうだよ、メール送る相手なんかいないよ」
あんなに大事にしていたレコードや本を全て処分したらすっきりしたという先生は、貯金も尽きたし実家に帰ることにしたという。
農家をやっている実家を手伝う、なんて柄にもないことを言う先生に「やめちゃうんですか、作家。農業なんて先生にできるんですか?なめてません?」正直で素直すぎる久住くんの言葉に、笑いながら「どうだろ?姪っ子のおもりくらいできるんじゃないの」と他人事みたいなトーンで言う。
「先生は、いいんですか。それで本当に」「いいんだ。むしろ憑き物が落ちたような気分で、とても安らかなんだ」
このシーンすごく綺麗でした。夕暮れの良い風が吹いてんのがまた良い感じで。
結局、家に夜までいた久住くん。そっと鍵を先生に返して、別れの言葉を告げる。すると、久住くんは何かを思いつく。
「悪かったと思うなら……最後に、俺のためになんか書いてくれませんか。どんなに時間がかかってもいいんです。何でもいいんだけど……あっ、俺が、俺の好きそうな、俺の抜けそうな小説とか!」
突飛な話に思わず吹き出して笑う先生。なんかもう、先生も久住くんも似たもの同士って感じする。
「マジで?君が抜ける話だって?……面白いこと考えるなあ。例えば君、年上の人妻ものとか好きだろ」「そうっすね」
久住くんの少々マニアックな性癖をちょっと楽しそうに話す先生。あの楽しかったひと月半を振り返りながら。すると、みるみるうちに先生の顔は歪んでいき、片手で覆ってはらはらと涙を流す。
「本を書けって、君、ひどいやつだな……」
久住くんは先生に「大丈夫、書けます」と優しくて力強い声で言うのです。
先生は久住くんの胸倉を掴んで「無理だよ」と堰を切ったように声を荒げ「本当に、本当に長いこと一行だって書いてないんだ」
こうして久住くんに自分の弱い部分を剥き出しにするのって、先生にとって思いもしなかったことだったと思う。こんな姿は出来れば一生、誰にも見せたくない。でも、心のどこかで誰かに分かってほしいと思っていたんじゃないか。そして先生は最終的に「書きたい」と本音を吐露することができた。やっと。一年以上もずっと誰にも言えなかった言葉をやっと言えたわけですよ。久住くんはまた同じように「大丈夫ですよ、大丈夫」と言いながら先生を抱き締めて、なだめるように大丈夫と繰り返す。
本当に毎度空気を読めなくて申し訳ないんですけど、この、久住くんから離れる前に一瞬下唇を噛む先生が超かわいい。ここにきてすごい庇護欲かき立ててくる先生。
そして、先生の頬に流れた涙を拭う久住くん。二人とも綺麗な横顔。先生はそっと久住くんの顔に手を伸ばす。
「もっと、君のこと、教えてくれないか。知りたいんだ」
そして引き寄せられるようにキスをする二人。ビックリするくらい綺麗。しかしこれは先生らしい見事な告白でした。ストレートに好きだって言われるよりも、もっと知りたいって言われた方がグッとくる。さすが先生。
フローリングに寝そべる裸のふたり。風でカーテンが揺れる。えっ、窓が開いて……えっ、この人たち窓を開けたまま……??
「ねえ、何回したか覚えてる?」「6発……」「お疲れ」「腰だる……」
いやいや先生こそお疲れって感じですが、それはもう愛おしそうに久住くんにキスをする。「僕は嘘つきだけど、約束は守るよ」
夜が明けて、目を覚ます久住くん。先生は鍵を残して家を出ていました。
半年後。先生の実家に一通の手紙が届いている。
ここの先生と城戸との電話での会話がまたいい感じでした。優しい。
本屋にいる久住くん。手に取った本は就活に関する本。スーツを着て、すっかり就活スタイル。なんかのドラマでも思ったけど、髪型を変えることでちゃんと時間の経過が分かるのすごいですよね。
本を片手にレジへ向かう途中に何かを見つける。ちょっとにやけ気味でレジで本を受け取る久住くんに、スーツ姿の同級生「なに、まだこういうの読んでんの?」「いいんだよ」
そして、何かを思いついたかのように説明会をサボって帰る。
久住くんの家ではレコードプレイヤーが回転していて、すっかり影響を受けているのがまたいじらしい久住くん。あと地味に棚の下にあったタミヤのプラモが気になる。
「(彼の著書の中では珍しく、一人称で書かれたその本は、目立つ平台などではなく本屋の片隅にひっそりと積まれていた)」
題名が愛欲のエクリチュールだったんですけど、エクリチュールは書く行為を差すフランス語で、哲学でいう書き言葉の快楽の知的媒介とかなんとか。大学の時の一般教養でやったロラン・バルトの零度のエクリチュールを思い出しました。エクリチュールはラングとステイルの中間で~みたいなやつ。鬼うろ覚えです。
先生が手紙を開いて読んでいて、手紙の最後にあった久住春彦の名前。その内容がまた健気の塊でしたので、ぜひブルーレイかFODで一時停止して見て下さい。字がとってもきれい。
先生は手紙を封筒に収め、煙草を吸って外を見遣り、ふっと笑う。
「あの日を一生忘れない」
先生が孤独から救われたあの日。そして、また二人の物語が始っていく……というところで、おわり。
ハッピーエンドというにはやや曖昧かもしれないけど、いい終わり方でした。最後までありがとうフジテレビ。
今回、ポルノグラファーがBL作品の中で画期的ですごいと思ったのは男性同士の恋愛として描かれてはいるけど、この男性同士であることがメインの障壁になっていないことだなと思います。その点がすごくフラットなのが新鮮で面白いな〜って。
だからといって、男女で同じような内容だったらそこまで面白くならない気がする。作中の久住くんのセリフで「エロいの嫌いな男なんていないでしょう」っていうのとか、エロに対してあっさり明け透けに話せるのは男同士ならではっていうか。あとエロに対する反応の分かりやすさも男性だから自然で、どこか小ざっぱりしたような雰囲気が出ていていいです。
エロくていやらしいけどさっぱりしてる不思議な魅力がある気がします。
普遍的で純粋な恋愛のドラマのひとつとして完成されている感じで、大変勉強になりました。それをまた今回かなり忠実な形で実写化していて、民放YDKのフジテレビ、今回は大成功キメたなって思う。丁寧な作りこみの賜物。すでに恐ろしくまとまりもなければ語彙力もないんですけど、原作も今回のドラマも画期的で素晴らしいっていう話でした。出会いに感謝。
今の世の中で、同性愛への偏見や批判はあるべきではない。でも創作の中ではそのカセがあるから面白くなることが往々にしてある。
日本という国がこれまで同性愛に対して寛容ではなかったからこそ、日本でのBL文化が形成されているという面もあるんじゃないかなあなんて思ったりしました。
現実の世の中と創作の世界を混在させるのは、できればしない方がいいことだと思います。コンテンツを楽しむ上で結構しっかり別物として分けて考えた方がいいのかなと思いました。この現実に創作の影響がどこまで及ぶかっていうのは、受け手のリテラシーにかかっているところもあるし……。
BLが万人ウケしないジャンルだからと言って、こういう良い作品が日の目を見ずに埋もれるのは非常に勿体ないことです。だって良い作品なんだもん。良いものは良いじゃん。
私なんかただでさえ視野が狭いので、ジャンルにとらわれて素通りするのはマジで損。いわゆる「隠れた名作」は、本当に誰にも見つけられずにずっと隠れたままでいたら、そのまま静かに終わるだけ。果たしてそれでいいのか。
まず、何のために精魂込めて創作をするかって話に立ち返ってみると、作品は多くの人に見てもらわないことには始まらないということが分かります。リアクションがあるから次のアクションに移ることができるじゃないですか。
相応の評価と対価があれば、創作のサイクルは活性化する。
隠れたものを表に引っ張り出すのは賛否両論あるだろうけど、ちゃんと作品の良い点を評価して「これが名作か」と世の中で認識すること。それによって刺激を受けた作り手から、また新たに良い作品が生まれたりするんじゃないかな〜〜〜なんつって!!偉そうに仰々しく評価とか言ってみたけど、この作品マジパネエ最高!刺さりまくり!って伝えることが十分効果的で、今回のDVD化も繋がったと思う。自分の感性に正直になってリアクションをすることが大事かなって。
なんか自分が何かしらの作品を生み出す立場に立ってみて、改めて思います……作中で先生も分かりやすい久住くんの反応が嬉しそうだったのと同様に……(笑)何かを作り出すことは、最終的に孤独な作業になる。見えない読者や視聴者に向けて創作するのは途方もないことじゃないですか。
このnoteにしても、未来の自分のために書いてるつもりでも、気付けば不特定多数の誰かに私が好きなコンテンツの良さがが伝わってたらいいなとかいう布教の精神で書いちゃってるところありますもんね。根がオタク。す~~ぐ布教を考えがち。
以上最終話の第6話と長めの余談でした。
お付き合いいただきありがとうございました!
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