見出し画像

曲頸魂

カメという動物は爬虫類の中でも馴染みの深い動物なのではないのかと思います。ペットとしても触れることも難しくなく、古くから配合飼料も販売されていて魚の延長線のような感覚で飼育に手を出しやすい爬虫類であるといえます。そのため爬虫類という認識とは別の感覚で観たり飼育をしたりしている人も多いのではないかと考えます。実際に私もカメは昔から常にいるものという感覚を持っています。

時にカメは大きく分けて2種類に分けられることをご存知でしょうか?
それは潜頚亜目曲頚亜目です。前者はお馴染みの首を引っ込めて甲羅にしまうタイプで、後者は首を横に折りたたんで甲羅にしまうタイプです。曲頸類は日本に生息していないため、知らない方も多いかもしれません。あるいは存在は知っていてもイレギュラーな存在であったり、ただの変わったカメという程度の認識の方も多いかも知れません。実際にはダブルスタンダードなのですが、本題に入る前にまずはカメのルーツから紐解いていきましょう。

潜頚亜目
曲頸亜目

実際のところカメの祖先であった爬虫類からカメになっていく過程、いわゆる中間体のような種類は発見されていないようです。最古のカメはいくつかありこれからも発見されていくと思いますが、完全な骨格がみつかっているカメ界では有名なProganochelysは約2億1000万年前の三畳紀に生息していたと言われています。この時点で完全な甲羅を獲得していました。ただまだ頭や手足は引っ込めることができず、露出部分は分厚い皮膚やトゲなどでガードしていたと考えられています。Proganochelysでは歯は残っていたようですが、嘴は形成されています。大まかに言ってですが、この頭や手足を身体にしまうことができないグループが原始的なカメであると言われています。

このことからも甲羅に身体を引っ込めるという手段は、その後に獲得したものであることがわかります。その手段を獲得したグループが北半球を中心に反映した潜頚類と南半球を中心に繁栄した曲頚類です。ルーツ的には曲頸類の方が古いグループから分岐していますが、出現はほぼ同じのようです。首のしまい方以外にも曲頸類では骨盤が甲羅と縫合しているという特徴があります。そのためかどうかはわかりませんが、曲頸類のカメは潜頸類に比べ甲羅が扁平な印象があります。水棲傾向が強い(陸棲傾向が強い種類がほぼいない)印象や甲羅も脆い印象もあるので、より泳ぐことに特化しているのかも知れません。

ぼんやりと曲頸類の特徴を紹介しましたが、なぜぼんやりかというと曲頸類はその進化により必ずしも生存競争に勝利してきたわけではないと考えるからです。つまりは生き残りということです。これは「そりゃ横にしまうだけじゃガードしきれねぇだろ!笑」という安直なものではありません。カメは約300種類現生していますが、そのほとんどが潜頸亜目のカメです。そもそもが爬虫類自体が生き残りだろうという意地の悪い勘の良い方もいらっしゃると思います。その通りではあるのですが、爬虫類の多くは現代風にアレンジされているのです。上記で触れた原始的なカメは既に絶滅してしまいました。とは言っても2000年前くらいまでは現生していたようですが、最後は人為的なもので絶滅してしまったようです。そのため厳密にいう原始的なカメは現生していません。現生する潜頸亜目と曲頸亜目はそれぞれ真潜頸類と真曲頸類に分類されます。その中でも現代型潜頸類と呼ばれる(らしい・・・笑)グループに分類されるリクガメ上科とスッポン上科のカメはもっとも洗練されたカメといえます。それに対して現代型曲頸類のカメはいません。このことからの潜頸類と曲頸類の関係をわかりやすくウルトラマンガイアに例えて説明すると、お互いV2は獲得しましたが、スプリームヴァージョンも獲得したガイア(潜頸類)と獲得しなかったアグル(曲頸類)ということになります。ほかにも分布域が南米とアフリカ、オーストラリアと潜頸類に比べ限られていることからも、競合他者のいない地域で生き残ったと考えることができます。これは哺乳類の有袋類にも同じことが言えます。

深掘りしすぎると長くなることと、そもそもがそちらは専門ではないので、カメの進化について詳しく知りたい方は平山廉氏の著書、カメのきたみち (NHKブックス)に詳しく書かれています。恐らく日本のカメ学者が書いた唯一の本だと思います。化石学の観点から書かれていて非常に面白い本です。カメ好きやカメ飼育者は一度は読んでおいて損はない文献だと思います。

ということでいつも通りの非常に長い前置きになってしまいましたが、ここからが本題です。
ここまでで現代型潜頸類のカメは洗練された新しいグループのカメであることが分かったと思います。逆に現代型潜頸類に含まれていないカミツキガメ上科、ウミガメ上科、そして曲頸亜目は”Semi Primitive Turtle”であると言えます。準原始的なカメという意味なのですがカッコ悪かったので英語にしてみました。そう聞くとどことなく古の香りがしていた方は良いセンスの持ち主であると私は思います。そんな中、亜目全部が古の香りの曲頸。S.P.Tでは唯一飼育可能な曲頸。ということで今回は曲頸類のお話です。

曲頸亜目もまたヘビクビガメ科とヨコクビガメ科の2つの科に分けられます。
ヘビクビガメ科のカメは名前の通り首が長い種類が多く、これはこれで進化してきたんだなということが伺えます。またそれはヨコクビガメ科に比べ属や種類が多いことからも言えるのではないかと考えます。14属と種類が多いので詳しいことは省きますが、”ナガクビガメ”、”マゲクビガメ”、”カブトガメ”、”カエルガメ”、そしてマタマタはヘビクビガメ科です。マタマタはヘビクビガメ科というかカメの中でもかなり特殊だと思っているのでまた別の機会に書こうかなと考えています。オーストラリア、ニューギニア、南米に分布していて特にオーストラリアはヘビクビガメ科以外のカメはスッポンモドキ(Carettochelys insculpta)しかいません。またオーストラリアには現生種に近縁種のいないクビカシゲガメ(Pseudemydura umbrina)が生息しています。これは他のカメが姿を変えたり絶滅していく中で、ほとんど姿を変えていないことを示しています。まさに古の香りですが、オーストラリア原産でワシントン条約附属書 Ⅰ なのでお目にかかれる可能性は極めて低いです。

一方のヨコクビガメ科もまた2つの亜科に別れます。必ず2つに分けなければならないわけではありません。それぞれ独立した科であると記してある文献も複数あるためそれなりに遠い存在であることがわかります。ヘビクビガメ科と違い首の長さは標準サイズです。また全体的に丸顔というかシュッとした顔付きの種類がいない印象です。

アフリカヨコクビガメ亜科 (Pelomedusinae)

名前の通りアフリカに分布しているヨコクビガメでヌマヨコクビガメ属とハコヨコクビガメ属で構成されています。ヌマヨコクビガメ属は分布域が広く曲頸類では唯一中東にも分布を広げています。ハコヨコクビガメ属は18種からなり腹甲に蝶番をもっているため、顔側だけですが甲羅を完全に閉じるというロイヤリティが発動しています。このように分布域が広いことや蝶番を獲得していることから、比較的新しいグループなのではないかと考えています。

ヌマヨコクビガメ属 (Pelomedusa subrufa)
最も一般的なヨコクビガメだと思います。昔はアフリカヌマヨコクビガメ (Pelomedusa subrufa)のみの1属1種で少しの亜種や多くの地域別の個体がいるという認識でしたが、知らない間に独立種ないし亜種として多くの種類に分類されるようになっていました。故に違いがわからない・・・。さすがに比べればわかるのですが、産地などの情報がなければ私には同定は不可能です。すいません勉強します。そのような種なので産地別の細かなマイナーチェンジなどを楽しむのには最適かなと思います。

ヌマヨコクビガメの幼体


ハコヨコクビガメ属 (Pelusios)

もう一方のハコヨコクビガメは種類も多く多少ですがバリエーションに富んでいます。最大甲長45cmのノコヘリハコヨコクビガメ (Pelusios  sinuatus)は別格として最大甲長15cm前後、または20cm前後の種類も多いため飼育のしやすいグループなのではないかと思います。また曲頸類の中では比較的甲高の種類が多い印象です。これは蝶番を獲得していることが関係しているかもしれませんが、ないかもしれません。

ナンベイヨコクビガメ亜科 (Podocneminae)

ようやくここまで辿り着きましたね。散々、曲頸曲頸いっておいて、私が書きたかったというかちゃんと書けるのはこのグループだけだったりします。3属ありますが8種類しかおらず、分布も局所的なので原始的なグループなのかなと考えています。ちなみにここで説明している進化している原始的であるという見解は私の憶測ですのでご注意ください。最小種でも甲長30cm近くになる大型のグループになります。泳ぎも上手く四肢の力が強いので非常にパワフルなカメたちです。

ナンベイヨコクビガメ属 (Podocnemis)

1番大きいグループですが、それでも6種類しかいません。丸顔で可愛い顔をしていますが、模様や体色が派手ではないことからか「地味なカメ」「渋いカメ」などと言われ人気があるとは言えません。どれだけ着飾っても結局は顔だろという考えが私だけではないことを祈っています。というか1種を除いて流通が稀ということも大きな要因だと思います。あと大きくなる・・・。ということで大きい順に紹介します。

オオヨコクビガメ (Podocnemis expansa)
最大甲長が80cmとも90cmとも言われている現生最大の曲頸類。というかスッポン類とウミガメ類を除けば最大の水性ガメです。ちなみに史上最大のカメの1つのStupendemysもナンベイヨコクビガメ亜科の曲頸類で、最大甲長240cm、首の長さ1m、全長4mはあったと言われています。曲頸すげぇ。
爬虫類飼育の世界では、より高価で希少性の高いコウヒロナガクビガメ (Macrochelodina expansa)がいるため、じゃない方の”エキスパンサ”などと呼んでいるのは私だけかも知れません。ちなみに本家エキスパンサもヘビクビガメ科の最大種(甲長48cm)です。ただエキスパンサという名前自体は”広がった”という意味のため大きいこととは関係ありません。
本種も過去には忘れた頃に入荷するような感じでしたが近年はみかけなくなってしまいました。鼻筋が通ったような模様と後頭部の目玉が特徴的です。故にこれを気持ち悪いという方もいますが、大きくなったらそんなこと気にならないと思います。飼育にあたってはおそらく想像を遥かに超える大きさになると思いますが、それに対する労力に見合うロマンが本種にはあると考えています。

モンキヨコクビガメ (Podocnemis unifilis)
最大甲長46.5cm。唯一定期的に流通する種類です。季節になると大量の幼体が入荷し価格も安価です。この幼体時に顔に黄色い模様が入る”紋黄”が和名の由来です。この模様は成長に伴い消失します。一見、他種同様可愛らしいですが目付きが悪いです。大量に流通してしかも安価のため入門種であると考えられがちですが、飼育にはクセがある印象です。個人的には属内でも難しい方なのではないかと考えています。そのためか幼体の流通量に対して成体はあまりみかけません。

モンキヨコクビガメの幼体
成長とともに模様は消失するが、意外と残ったりもする。


サバンナヨコクビガメ (Podocnemis vogli)

最大甲長36cm。この記事及び初期の記事のサムネ?画像は本種です。
本属のお手本のような可愛らしい顔と緑色の瞳が特徴的ですが、頭頂部と甲羅が茶色で上からみるとほぼ茶色一色なので地味な印象です。確かに派手ではないかも知れませんが、この家具調の落ち着いた色彩が自然の美しさなのではないかと自分に言い聞かせています。そういえば店にも茶色いカメが多い・・・。

サバンナヨコクビガメ

国内には恐らく2,3回しか輸入歴がないのですが、ある程度の数が来たので稀にみかけることがあります。飼育は耐寒性はないので極端な低温は厳禁ですが、丈夫な種類だと思います。

眼がドリーミー


ズアカヨコクビガメ (Podocnemis erythrocephala)

最大甲長32cm。名前のように黒地に鼻先から後頭部にかけての模様に赤が入ります。オスでは成長後もこの赤が残り、ちょっと危ないアリみたいな印象になります。この派手さ故に人気があります。やはり色か。

ムツコブヨコクビガメ (Podocnemis sextuberculata)
最大甲長31.7cm。属中の最小種といわれていますが、ズアカと変わらない気がします。和名の由来は幼体時の腹甲にある左右3つづつ並んだ突起を指しますが、成長とともに消失します。顔は上顎が大きく膨れっ面のような印象で、摂餌も吸い込むようにして食べます。泳ぐよりも水底を歩く印象もあるため他のナンベイヨコクビとは少し生態が異なるのかも知れません。流通はポツポツあるといった感じですが多かったことはない印象です。

ムツコブヨコクビガメ
横顔はテイパー、正面はヒポポタマスみたいで可愛い。


マグダレナヨコクビガメ (Podocnemis lewyana)

最大甲長約60cmと言われていますが、国内未入荷の種類です。ナンベイヨコクビガメ最後の砦ということで、今後に期待しましょう。

マダガスカルヨコクビガメ属 (Erymnochelys)

マダガスカルヨコクビガメ (Erymnochelys madagascariensis)
本種のみの1属1種。最大甲長46.3cm。通称マダヨコ。
本種のみ南米ではなくマダガスカルに分布する固有種です。マダガスカルはソロモンのように南米とアフリカが混ざったようなものなので、南米で良いでしょう・・・笑。
ナンベイヨコクビガメ属同様に丸顔ですが、爆裂に目付きが悪く可愛さよりもカッコ良い印象です。甲羅は幼体の頃は丸型ですが、成長とともに長くなっていきます。
実は私は素人時代に10年ほど本種を飼育しておりました。その間にどんどん値上がっており、お金に目が眩んで手放してしまったという非常に人間臭い過去があります。そしてその間の写真がない・・・笑。飼育は容易で、カメの中でもダントツで丈夫です。

オオアタマヨコクビガメ属 (Peltocephalus)

オオアタマヨコクビガメ (Peltocephalus dumerilianus)
こちらも本種のみの1属1種。最大甲長44cm。
本種は”デュメリリアーナ”の呼称の方が有名かも知れません。かつては幻のカメであり憧れていた方達がそう呼んでいるのが定着した印象です。故に私ごときが語るのには恐れ多い種でもあります。
現地で厳重に保護されているため今でも目にする機会は少ないですが、分布がコロンビア、ブラジル、ギアナ、ベネズエラと意外と広い?印象です。
マダヨコに雰囲気が似ますが、マダヨコが丸顔に対して本種は面長な印象で目付きも悪くありません。一昔前はマダヨコの完全上位互換という立ち位置の印象でしたが、現在はギターでいうハカランダとエボニーのような印象です。結局は好みということですが、本種が好きな方はマダヨコも好きだと思います・・・笑。

というわけで今回はカメのルーツをたどりつつ、私の好きな曲頸類というかナンベイヨコクビガメを紹介しました。上記のとおりナンベイヨコクビガメはモンキ以外は目にする機会はあまりないのですが、もしお目にかかった場合は特別な目でみてあげてください・・・笑。ネタとしてはエースカードの一つを切ってしまった気がしますが、曲頸類自体があまり人気がある種類ではないので興味を持たれた方がいると嬉しいです。ヘビクビガメ科は種類も多く比較的小型の種もいてバリエーションに富んでいます。また多くは単純に変なカメの印象が強く、それ故に根強い人気もあったりします。ヨコクビガメ科は一見王道な風貌ですが、丸顔でボリューミーな印象なので可愛いカメが好きな方にお勧めです。ちなみに大きくなっても顔は可愛いですが、色々と可愛くないことも増えたりはします・・・笑。

参考文献

平山 廉 2007年 『カメのきた道 甲羅に秘められた2億年の生命進化』 NHKブックス 
高橋 泉 1997年 『カメのすべて』 成美堂出版
冨水 明 2004年 『ミズガメ大百科』 マリン企画
海老沼剛 2011年 『爬虫・両生類パーフェクトガイド 水棲ガメ』 誠文堂新光社
中井穂瑞領 2021年 『ディスカバリー カメ大図鑑』 誠文堂新光社
ジェフリー・E・ラヴィッチ/ウィット・ギボンズ 2023年 『カメ大全』 エムピージェー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?