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セカンドコンタクト

爬虫類を飼育することを趣味にした動機の一つとして、変わった動物を飼育したいというものがあるのではないかと考えます。もちろん何事もそうであるように、爬虫類飼育にも多様性があります。俗にいうペットとしての側面のほかにも、種類をコレクションするホビー的な側面や、飼育技術を確立する研究者的な側面などです。しかし、それらは積み重ねであり根底には興味を持ったこと、そこから好きになったことに何らかの理由が存在します。

実際のところ、好きになることに理由など必要ありません。しかし私の場合は「何で好きなの?」とか「何が良いの?」などの、ウザったい複雑な回答をしなければならない質問を受けることも多く、考える機会がありました。そして導き出した結果、私の動機はそれなのではないかなと考えます。この言葉だけを切り取ると、捻くれた奴だと思われそうで嫌なのですが、なぜそう考えるのかというと、いまでも自分の概念を覆すような動物が大好きだからです。爬虫類を好きになった理由というのは覚えていないのですが、飼育を始める際の種類を決定したのは恐らくそれです。そして出不精(用があれば外出はするので引きこもりではない)な為、動物園に観にいくより自宅で好きな種類を飼えばいいじゃないかという考えから飼育を始めたような気がします。

少し話が逸れましたが、上記で概念を覆すと述べたように爬虫類にもまた根底があります。私も含めて日本人の爬虫類の概念は日本の爬虫類にあるのではないかと考えます。

日本は爬虫類が多く生息しているとは言えません。飼育を前提に考えるとカメではイシガメ科、ヌマガメ科、スッポン科、ヘビではナミヘビ科、トカゲではスキンク科、カナヘビ科、ヤモリ科などが挙げられます。

日本人にとって爬虫類といえば、上記のグループなのではないかと考えます。そのため上記のグループに類似した外国産の種類をみても違和感はないだろうとも考えます。

一方で世界にはそれらに当てはまらない、つまりは日本人のそのような概念を覆す爬虫類が沢山います。私自身がそうなって長いのですが、図鑑やテレビでしかみたことのない爬虫類がお店で売られているのを初めてみた時は衝撃的でした。あの感動は色褪せて塗り替えられた可能性もありますが、いまでも忘れません。爬虫類飼育の世界はそれらを観て触れて学べる素晴らしい趣味なのです。

などという臭いお話はここまでです。
これまでも、そのような日本にはいない種類や容姿の爬虫類を紹介しているこのnoteですが、変わった容姿ばかりが概念を覆すことではありません。今回はもしかしたら1周回っているかも知れないアオジタトカゲのお話です。

アオジタトカゲはスキンク科のトカゲです。スキンク科は日本ではニホントカゲが生息していて馴染み深いトカゲではないかと思います。体表に光沢があって、よくチョロチョロしているアレです。スキンク科はだいたい同じような体型と質感をしているので同定は容易だと思います。アオジタトカゲもまたそれに当てはまります。ではなぜ概念を覆しているのかというと、舌が青いのです。

舌が青いからアオジタトカゲ

などという浅はかなものではありません。それもそうではあるのですが、アオジタトカゲの魅力はその大きさにあります。オオトカゲやテグーほどではありませんが、日本最大のトカゲで、こちらもスキンク科のキシノウエトカゲ (Plestiodon kishinouyei)で最大全長40cmほどなのに対して、アオジタトカゲは60cm~70cmになります。また尻尾が短いため頭胴長は同じ全長の種類よりも大きくなります。このように日本に生息しているトカゲの仲間に巨大なものがいるというだけで、概念は覆されます。もっというとアオジタトカゲは、頭が大きく手足は短く胴体は太いので、馴染み深さと新鮮さが感じられるトカゲであると考えるのです。ちなみにこの話をしても賛同していただける方は未だに皆無です。

ギリギリ片手で持てる大きさで収まってくれるが、その大きさはもはやチョロチョロしない。

そんな訳のわからない持論は抜きにしても、アオジタトカゲ自体は人気種なのですが、種類の違いで混乱している方も多い印象なので、こちらで説明しようと思います。

その前に。

実はいま堅物のハラスメントおじさんがアップデートしていくというお話のドラマを見ています。非常に面白く拝見しているのですが、主人公のおじさん自体は多少自分の意見を押し付けるところもありますが、謝れるし、お礼も言えるし、意見されても怒らないし、どちらかというと周りがいけないんじゃないかなどと思ったりもしています。しかし、ふと思いました。

もしかしたら自分がアップデートできていないだけなのではないか・・・。と。

自分に疑われていてはダメだとも思うのですが、よく考えたところ一つ気がつきました。
以前、私がモルフが理解できないことに苦労した記事を書きました。それ以前もそれ以降もモルフがあまり出てこないことからも、私がモルフが苦手だということがわかるかと思います。

では、このnoteは何を主体に書かれているかといえば分類学です。基本的にはその種を分類学に則って整理して感想を述べている簡単なお仕事です・・・笑。そのため専門用語や分類学の基本をわかっている前提で話を進めている感があります。しかしそれらの詳しい説明はおこなっていませんでした。そして、もしかしたら私がモルフが苦手なように分類が苦手な人もいるのではないかと思ったのです。その先が知りたきゃ自分で調べろという考えもありますが、ついて来たいヤツだけついて来いというスタイルは現代に合わないのかなと。内容はそのようになっていますが、せめて標識だけでもということで、分類学について説明します。

分類学はわかりやすくいうとグループ分けで、進化の順に下って小さなグループになっていきます。そのため分類が変わるということはよくあります。大きなグループから”界・門・綱・目・科・属・種”と別れていきます。五界説(今はもっとある)から始めると長くなるので省略しますが、爬虫類は動物界・脊椎動物門・爬虫綱となります。このことから普段使われている類とは綱のことだとわかります。類は他にも微妙な括りのグループに使われることもある便利な言葉です。また亜目のように階級の間に”亜”が存在します。種類によってはない場合もありますが、これは亜種まで続きます。”亜”以外にも階級を繋ぐものがいくつかあります。特にマイナーなものとして、亜科と属の間にが存在する場合があります。例として、おなじみな看板のオーブリーフタスッポンはカメ目スッポン科フタスッポン亜科フタスッポン族ミナミフタスッポン属です。これは3属いるフタスッポン亜科でフタスッポン族とハコスッポン族にわけることにより、アジアのハコスッポン属よりアフリカのフタスッポン2属が近縁であることがわかります。ただ現にあったとしても族は全くといっていいほど使いません。
次に分類で使われるものとして学名があります。これは生物が記載された時に付けられる全世界共通の名前です。このため学名の記載があればどの種のことなのかがわかります。種に対しての学名は属名+種小名です。上記のオーブリーの場合はaubryiが種小名になります。学名には色々とルールがあります。記載の際にラテン語風にしなければならないなどといったものです。そして我々がやらなければいけないことに、表記の際にイタリック表記にしなければならないというものがあります。イタリック表記とは文字を斜めにする、wordでいうと文字を太くするボタンの横にある I が斜めになっているアレです。できない場合はイタリック風でも構わないのですが、これがnoteではできないのです。そのためnoteで学名をみる時は心のイタリック表記でお願いします。

それではこれらをもとにアオジタトカゲの分類をおこなっていきます。
アオジタトカゲは爬虫綱有鱗目トカゲ亜目スキンク下目スキンク上科スキンク科アオジタトカゲ属のトカゲの総称です。下目や上科は大きな分類での種の近縁関係をみるときに使えますが、種自体を知りたい場合は覚えなくても大丈夫です。
アオジタトカゲ属には6種類のアオジタトカゲがいます。種としては6種類ですが、多くの亜種がいるので実際にはもっと多いです。亜種とは独立種になっていない地域個体群のことで、学名の場合は属名+種小名+亜種名で表記されます。その種が基亜種の場合は種小名と亜種名は同じになります。亜種が独立種になった場合は亜種名が種小名になります。亜種自体が地域個体群の意味ですが、爬虫類飼育の世界ではワンランク上のような扱いの印象で、少し印象の違う産地の個体群のことを地域個体群と現す印象です。そのため亜種はよく使います。

アオジタトカゲはインドネシアやニューギニアとオーストラリアに分布しています。インドネシアやニューギニアに生息していて、野生個体が多く輸入されるオオアオジタトカゲ (Tiliqua gigas)が最も流通量が多く安価な印象です。オオアオジタトカゲは3亜種います。
・アンボンアオジタトカゲ (T.g.gigas)
・メラウケアオジタトカゲ (T.g.evanescescens)
・ケイアオジタトカゲ (T.g.keiensis)

単にオオアオジタトカゲとして流通する場合もありますが、上記の亜種名で流通していることも多いことが分類の混乱の要因になっているのかなという印象です。
オーストラリアのアオジタトカゲに比べて、多湿な環境に生息しているためかヌメっとした質感の印象です。その他にも頭が小さく細長い印象です。顔もシャープでシワが多い印象ですが、これは私観の範疇かも知れません。

インドネシアにはタニンバル諸島にもう1種類、アオジタトカゲが生息しています。それがキメラアオジタトカゲ (Tiliqua scincoides chimaerea)です。

キメラアオジタトカゲ
アオジタトカゲは成長がはやく、生後1年で一気に成長する反面、その後は肥満しやすい。

キメラアオジタトカゲはオオアオジタトカゲと同じく、野生個体が流通するため同じグループであると思われがちですが、アオジタトカゲの人気種キタアオジタトカゲ (T.s.intermedia)と同じハスオビアオジタトカゲの亜種です。ハスオビアオジタトカゲの基亜種はヒガシアオジタトカゲ (T.s.scincoides)でキタアオジタトカゲとともにオーストラリアに生息しています。キタアオジタトカゲはおそらく国内で1番繁殖が進んでいるアオジタトカゲで、トカゲの中で1番飼育が容易であるともいわれています。亜種同士なので顔が似ていて、一般的には模様などで判断しているようです。

キタアオジタトカゲ
お察しの方もいると思うが写真がコレしかない。

ここからはオーストラリに生息しているアオジタトカゲの紹介というか、私の感想です。繁殖個体のみ流通しますが、繁殖が進んでいるとはいえず高価です。故に写真はありません。そこは私の今後に期待してください・・・笑。

ホソオビアオジタトカゲ (Tiliqua multifasciata)
ハスオビがいて混乱しますが、いわゆるチュウオウアオジタトカゲのことです。一見茶色で地味な印象ですが、模様は明るく決して渋いトカゲではありません。そのため一目みればすぐにわかります。アオジタトカゲの中で1番高価だと思います。

ニシアオジタトカゲ (Tiliqua occipitalis)
こちらもあまりみる機会はありません。眼の後ろの模様やバンド模様とアオジタトカゲの基本に忠実な配列ですが、どのアオジタトカゲにも似つかわしくないというか、それらをはっきりさせたような容姿のため判別は容易かなと思います。

マダラアオジタトカゲ (Tiliqua nigrolutea)
”ミナミ”に該当するアオジタトカゲで、恐らく1番派手です。質感や色彩がソフトビニール人形のようで高級感があります。一昔前は幻であった印象ですが、近年は繁殖が安定したためかそれなりにみかけるようになりました。また”ローランド””ハイランド”といったロカリティで分けられるようにもなりました。

アデレードアオジタトカゲ (Tiliqua adelaidenisis)
アオジタトカゲ属の最小種で、最大全長は20cmほどだそうです。何がかはご想像にお任せしますが、恐らくニホントカゲと変わりません。昨年にワシントン条約の附属書 Ⅰ になったため、今後目にする機会はないかも知れません。
ワシントン条約の附属書とは、通称”サイテス (CITES)”と呼ばれる国際取引に関する条約です。Ⅲ、Ⅱ、Ⅰ、とあり、簡単に説明すると、Ⅲ はその地域から輸出禁止、Ⅱ は輸出に制限がかけられるといった感じです。そして Ⅰ は国際的な商業取引の禁止で、要は国から出してはいけないということです。そのため Ⅰ になる前に輸出された個体については流通はできるのですが、登録番号のついた証明書がつきます。逆にこれがなければ譲渡もできません。ざっくり説明したので、ニュアンスが違うかも知れませんが大体はこんな感じです。
基本的には商業的な乱獲による個体数の減少を防ぐ条約のため、自国の動物をガチガチに守っているオーストラリアで附属書 Ⅰ になるということは、相当深刻なのではないかと考えます。

マツカサトカゲ (Tiliqua rugosa)
恐らくオーストラリアで1番有名な爬虫類だと思います。アオジタトカゲ属ですが、アオジタトカゲの容姿ではありません。舌は青なのですが、よりずんぐりしてゴツゴツした印象です。独自な容姿のため、爬虫類に興味がなくても記憶に残っている人も多いかと思います。ニシマツカサトカゲ (T.r.rugosa)、ヒガシマツカサトカゲ (T.r.asper) などの亜種が昔から知られていますが、流通は少なく高価です。どうやら同じつがいで一生を過ごすようなので、繁殖が難しいのだと思います。

モモジタトカゲ (Hemisphaeriodon gerrardii)
本種のみのモモジタトカゲ属ですが、アオジタトカゲとは切っても切れない関係なのでご紹介します。とはいっても名前がアオジタトカゲに由来しているといった以外は別のトカゲではあるのですが。要はガルルモンとグルルモンのようなものです。名前の通り本種の成熟した個体は舌が桃色になります。若い個体はグレーがかった紫というかグレーなので、青舌であることはありません。最大全長は45cmですが、尻尾が長く細身のためアオジタトカゲほどボリュームは感じられません。頭が大きく手足が短いといった共通点もありますが、それは他のスキンクにも言えると考えます。立体活動をしたり、後脚を使わずに移動したりと独自の行動をとるのでみていて楽しいトカゲです。

モモジタトカゲ

今回は、可愛いアオジタちゃんだけど、よく考えたらデカいスキンクってだけで変わってるよね?と私が長年思っていることと、最初に説明しておかなければならないことを改めて記事にしました。そのためファーストコンタクトの方に読んでいただきたい内容になっています。

そしてもう一つアオジタトカゲを書きたかった理由が、キメラアオジタトカゲについてです。今回使った写真はほとんどがキメラアオジタです(それしかなかったのは内緒です)。こんなにピンクで綺麗なのに(全てがそのような訳ではない)、人気のキタアオジタと比べて同じ亜種であるキメラアオジタの人気は高いとはいえません。アオジタトカゲの分類をみても微妙な立ち位置だなとは思うのですが、亜種や産地の関係を整理してみると見方が変わるのではないかなと考えました。アオジタトカゲはなんでも食べて飼育しやすいトカゲです。繁殖個体の方が健康面でも安心なので、それも含めてオーストラリア産が人気なのだと思います。最近はキメラアオジタの繁殖個体も流通するようになったので、候補の一つにあげていただければ幸いです。ちょっとだけ怒りやすいですが、顔は他のアオジタトカゲより優しい気がします。




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