良いカメの正体
趣味の世界にコミニュティが発生するのは自然なことではないかと考えます。
ネットが発達した現代ではそれが顕著であると思う一方で、このnoteみたいに人との繋がりを意識していないものもあったりします。それでも全くない訳ではない反響を頂けると嬉しいものです。まぁ皆無に等しいですが、将来的に何かの役に立てればと思って書いています。
爬虫類の世界でもコミュニティは存在します。分類学のようにカメ、ヘビ、etc.(久しぶりに使った気がする)と細分化されていっていますが
♪ 欲しい物も憧れも
♪ はじめから違うからぁ〜
といった感じで(時事ネタを取り入れてみました。ちなみに私が生まれる前の曲です。)、誰に勧められた訳でもなく自発的に好きになることが多いこの趣味のため、意気投合できる仲間をみつけることは意外と難しかったりもします。
これは恐らく私が難しい人間である可能性も多いにあるのですが、コミュニティで意見交換をすることは飼育環境や繁殖を考える上で役立ちますし、何より趣味のお話ができるということは楽しいことです。
そんな中で、カメ角界の交流の中でたまに耳にする言葉があります。
それが”良いカメ”というものです。ニュアンスでなんとなくの理解で受け取っているこの言葉、冷静に考えるとなんだそれ?となるのは私だけではないことを祈っています。
客観的にみると”良いカメ”がいれば”悪いカメ”もいるということになります。オーストラリアでは人を襲わないジョンストンワニ (Crocodylus johnsoni) を”良いワニ”、人を襲うイリエワニ (Crocodylus porosus) を”悪いワニ”と言うそうですが、恐らくそういう訳ではありません。なぜなら良いカメが使われるシチュエーションの大半が「良いカメなんだけどねぇ」だからなのです。これはつまり良いカメなんだけど何かしらの欠点があるということを指しています。その欠点とは大体が不人気種であったり、正当な評価をされていないというもので、褒め言葉ではありますが、哀れみも感じてしまうのが良いカメであったりします。
そのようなことで、良いものは良いなのですが、悪いものは悪いということではないため、悪いカメというものはありません(”性格が”はいるかも知れない)。ただ何事も良し悪しを判断するには経験が必要です。ここで経験豊富な方々から口々に良いカメと呼ばれるカメをご紹介します。そもそもがベテランからしか良いカメという単語を聞いたことがないのですが・・・笑。
そもそもの話はしていないので気を取り直して紹介すると、そのカメはグランディスことオオヤマガメ (Heosemys grandis) です。
学名の種小名が愛称ということからも古くから愛されていることがわかります(古くからの愛好家は格好つけて学名で呼ぶ風潮がある)が、近しい方に大山さんがいない限りオオヤマで大丈夫です。
このオオヤマガメはなんとも不遇といいますか、ストロングポイントがウィークポイントになっているというか、正当な評価を受けていないことは上記のことにも当てはまります。
オオヤマガメは東南アジアに分布する最大甲長40cm以上のオオヤマガメ属の最大種!だったのですが、近年Hieremys属だったヒジリガメ(最大甲長50cm以上)がオオヤマガメ属に入ってきてしまったため最大種の座を奪われました。まずここが不遇。せっかくグランディスの名をもらったのに・・・笑。
それゆえヒジリガメと他の本属は外見が異なる印象です。基本的には茶色ベースの落ち着いた体色の印象で、背甲に模様も入らないためお決まりの渋いや地味な印象を持たれていると言っても過言ではありません。ちなみにヒジリガメも主体となる黄色は明るい印象ですが、全体的な印象は黄x緑と一般受けする発色かは疑問です。まぁつまりは地味なカメということで人気が出ないということです。しかし顔周りは赤が発色してきたりして非常に綺麗なのですが、ワンポイントで流されても不思議ではありません。
そんな地味なグループなのですが、最近密かに人気が囁かれているのがトゲヤマガメ (H.spinosa)です。幼体は名前の由来ともなっている、甲羅のまわりのトゲが特徴なのですが、成長と共に摩耗されたりなんかして消失する傾向にあります。そのためオオヤマガメとそう変わりない容姿になるのですが、容姿以外で決定的に違う要素は最大甲長にあります。トゲヤマガメの最大甲長は22cmほどとオオヤマガメの半分ほどです。ガルフより大きいじゃんとは思うのですが、トゲヤマガメの人気の理由もといオオヤマガメの不人気の理由は大きさが一つの要因であるといえます。
大きくなるのが良いじゃないかと散々このnoteでも書いてきたのですが、最大甲長40cm、低く見積もっても30cmは越える大きさは飼育を躊躇うこともわかります。そしてオオヤマガメは成長が速い。数少ない誰でも大きく育てられる種類かも知れません・・・笑。
ちなみに私はオオヤマガメには少し憧れがあります。ネットが普及して大型個体の写真も現在では容易にみられるようになりましたが、文献主体の時代は幼体の写真しかみる機会がなかったからです。”大山亀”という大きいヤマガメがどのようなものなのかに希望を抱いていた少年がいる一方で、裏を返せば当時からあまり注目を浴びていなかっただけなのかも知れません。
などとここまでネガティブキャンペーンをお送りしていますが、これは世間一般からみたオオヤマガメのイメージを誇張して塗りたくったに過ぎません。ではなぜ良いカメなのかを考えていきましょう。
ヤマガメとは山に住んでいるカメという意味ですが、実際にはそうでもなかったり、そもそもがヤマガメの括りでは分類的に無理があると考えるので、オオヤマガメ属に限定して説明します。
上記のとおり主に流通するのは3種。このうちヒジリガメは水棲傾向が強く、トゲヤマガメは陸棲傾向が強いという解釈で良いかと思います。ではオオヤマガメはというと厳密にいえば陸棲傾向が強いのかな、というよりは陸が好きなカメかなという印象なのですが、泳ぎが非常に上手く陸上でも水中でもアグレッシブに活動します。アレ、どっかで聞いたことがあるなと思った方はありがとうございます。
ガルフもハコガメの中では身体能力が高くアグレッシブですが、本職(?)のヤマガメでもこれほど水陸両用でアグレッシブな種類はなかなかいないのではないでしょうか。大型個体がアグレッシブに活動する姿はまさにグランディスの名に恥じないものではないかと思います。
故に広めにとった環境で悠々と飼育するのが1番楽しいですが、そのスペース確保が不人気のもとでもあります。しかし本種はある程度の環境には適応してくれる側面があります。つまりは丈夫ということです。トゲヤマガメをはじめとするヤマガメの多くは野生採取個体であることも関係してか、飼育がシビアな種類も多いのです。それに比べ本種は何でも良く食べ、飼育環境にもうるさくなく、東南アジアのカメですが多少の耐寒性もあると言われています。
つまりのところオオヤマガメは飼って楽しく、観ていて楽しく、育てて楽しいカメであることが私の考えです。カメに限らず動物飼育とは楽しいことばかりではありません。手間が掛かったり神経を使ったりする場面は多かれ少なかれあります。その場面が多い動物が自分が1番好きな動物である場合も多いのではないかと考えます。つまりは1番好きな動物とは別に良い動物というものが存在するということです。例えるなら好きなミュージシャンの好きなアルバムと自分の中での名盤は必ずしも一致しないということです。このようなことからオオヤマガメが良いカメと言われる理由がお分かりいただけたでしょうか。飼っていて楽しいカメというのが私の良いカメの解釈です。人間に都合が良いカメかも知れませんが・・・笑。おしまい。
と少し特撮風で終わりそうになってしまいましたが終わりません。
なぜならオオヤマガメは一般的によく聞く良いカメであって、私の良いカメは別にいるからです。オオヤマガメももちろん良いカメではあるのですが、僕チン完全水棲種の方が好き!ということで、紹介したいカメがジャイマスことジャイアントマスクタートル (Staurotypus triporcatus)です。
和名はスジオオニオイガメやミツウネオオニオイガメですが、最近はあまり使われずジャイマスでとおります。ちなみにスジオオが先行している印象ですが、個人的にはミツウネ推しです。名前の由来は甲羅に入っている3本のキールからです。
ジャイマスは最大甲長37.9cmとドロガメ科の最大種です。頭の大きなフォルムとその大きさは、カミツキガメが特定外来種に入り、ワニガメが特定動物に入り、オオアタマガメがサイテスⅠに入りと似たようなフォルムの種類が飼えなくなっていく中での最後の希望とも言えます。
オオニオイガメ属にはもう1種、サルヴィンオオニオイガメ (S.salvinii) がいます。こちらは和名が通名でサルヴィンやサルヴィーニなどと呼ばれています。これにハラガケガメ (Claudius angustatus) のハラガケガメ属とともにオオニオイガメ亜科を形成していて、この3種は同じグループとして語られることが多いです。
ハラガケガメは属も違うことから容姿も異なり、小型で猛禽類のような可愛らしい顔をしています。ジャイマスとサルヴィンは一見似たような容姿ですが、ジャイマスはネズミ顔、サルヴィンはモグラ顔といった感じで容易に区別がつきます。要はみればわかるということです。この2種は容姿もさることながら、飼育してみると色々と勝手が違ったりもします。
本種とご近所さんの関係性をざっくりと説明しましたが、ここからはどれだけ良いカメかの説明です。独自の見解ですので1つの意見としての解釈でお願いします。
ジャイマスはドロガメ科の最大種ということで大きくなるというイメージが先行されがちな印象です。勘の良い方もいらっしゃると思いますが、大きくなることが魅力的であると考えている人はマイノリティです。それゆえ上記のようなワニガメ好き、カミツキ好き、あるいはスッポン好きなどのモンスターズキーパーに需要のあるカメと思われがちな感があります。確かに本種の甲長30cm近くある個体は迫力がありますが、多くの大型個体は野生採取個体である印象が強いです。そう本種はオオヤマさんと違い、勝手に大きくなるカメではないというのが私の考えです。もちろん大きくなる素質があるカメなので成長が速く育てがいがあります。甲長15cmくらいまではすぐに到達するのですが、20cmになるまでに時間がかかる印象です。そこから20cmの壁、25cmの壁、30cmの壁が立ちはだかります。産地による個体差もあるようですが、写真の繁殖個体のホワイトマーブルと呼ばれるタイプは特に大きくなりづらいと言われています。
また水から上げられると口を開けて威嚇をすることから凶暴で扱いづらいという印象もあるかも知れません。確かに顎の力は強いと思いますが、私の扱った中でのジャイマスの性格の印象はビビリで内弁慶というものです。具体的には導入当初はみているところではエサを食べないくらいなのですが、環境に慣れれば飼い主をみただけで寄ってきます。ハンドリングに関しても導入当初は首を引っ込め防御体制を取ります。慣れてきた時は逃げようとすることはありますが、噛みついてくるようなことはありません。これは他の2種とは明確に違う印象です。
これらのことから、ジャイマスは非常に優等生なカメであるということが私の考えです。飼育に関しても水深を深くして飼うと良く泳ぎます。いつ寝ているんだというくらい1日中泳ぎ回っている印象なので観ていて楽しいです。部屋全体を加温していればヒーターなども必要なく、逆に噛みたがりのためヒーターやフィルターを入れると破壊される可能性があります。部屋全体を加温ということにリスクを感じる方もいるかと思いますが、水温が高くても空気が冷たいのは良くないため熱帯の動物を飼育する場合には致し方ないのではないかと考えます。
私の考える良いカメはジャイアントマスクタートル!ということで、性格も良いし、よく泳ぐし、完全水棲種なので管理もしやすく、丈夫と非常に良いカメということが私の評価です。水換えは重要になってきますが、そこが面倒臭いかどうかは人によると思います。個人的には陸場を設けて色々とレイアウトする方が面倒臭いですが・・・笑。大きくするのが難しいと述べましたが、ある程度の大きさまではグングン成長して育てがいはあります。なのでベビーから育てるとより飼育を楽しめるかなと思います。
今回は良いカメという普通に使われているようで、よく考えると訳のわからないものに対して独自の見解を述べてみました。ちなみに良いヘビも存在しますが種類を忘れてしまったのは内緒です。
冒頭の方でベテランからしか良いカメという単語を聞いたことがないと述べていますが、確かに色々飼ってみなければわからないのが良いカメなのではないかと思います。一方でいくら他人が良いカメだと説いても、自分が気に入らなければ飼育も楽しくありません。皆が良いというものには理由がある訳ですが、まずは好きな種類を色々飼ってみるということなのではないかと思います。好きな種類が必ずしも良いカメであるとは限らないということが私の意見ですが、好きな種類がいてこその良いカメでもあります。その中からみつけた良いカメが本当の良いカメだということです。また色々な種類を飼育をしていく中で、一般的に良いカメと言われている種類に関しても理解が深まるのではないかと考えます。
♪ 求め続けて
♪ 探し続けて行こう
という感じで、この記事を読まれた方も是非、みんなにお勧めしたいレベル100な良いカメをみつけていただければと思います。