大事なこと
ピアノの上にのっている年季の入ったクラリネットの楽譜を見て、きゅっと胸が締め付けられた。
しばらくクラリネット吹いていないな…
私は演奏家になる為に、クラリネットを本気で頑張ってきた。
でも、ソロのコンクール、受験に散々落ち続け、自信というか、この道は自分の道ではないと悟った。
今年の受験を機に、一旦演奏家としての道に見切りをつけようと決心した。
そして、自分の可能性を広げようと興味のある事に手を出して、何とかものにしようともがいていた。新しいことを学び始めたものだから、毎日小さな挫折の連続で、でも、とにかく頑張ろうと、何とか乗り越えようと自分の背中を押し続けていた。
クラリネットは見て見ぬふりをしていた。
でも、ピアノの上の楽譜を見て、ハッとした。
切なくなった。
今まで築き上げてきた財産を失おうとしている。自ら。
そういえば、早く経済的に自立して、クラリネットを学べる環境を整えようと思って、一旦見切りをつける事を決めたんだ。
なのに、忘れようとしていた。
劣等感があった。自分の境遇を人と比べて、自己霊便に浸って、自分は駄目だと決め付けてしまっていた。
どうして人と比べちゃうのかな。
他人になろうとしていたのかな。
藝大生に、コンクールで評価される人に。
私以外にそれを目指している人は沢山いる。競争率が高くて、辛かった。沢山挫折して。挫折ばっかり。
ピアノの上の楽譜。どうして胸が締め付けられたのかな。大事なものを見失っていた事に気付いた、という感覚かな。
今まで一番大切にしていたこと。
クラリネット吹き続けていきたい。誰からも見向きされなくても。
クラリネットを吹くことが、自分にとっての一番の財産だったんだな。
それがアイデンティティでもあった。
自分の内なる幸せのために吹き続けていこう。
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