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法学部の授業内容~刑法を例に~

 法学部では法律について学習します。では、具体的にどのような内容を学習するのでしょうか。刑法を例に紹介します。

 みなさん、刑法と言われればどのようなものを想像しますか。刑事ドラマですか、それとも「OO罪でOO容疑者逮捕」のようなニュースですか。
 これらのものを想像した人は、証拠収集や犯人の故意の有無等に着目しているかもしれません。少なくとも刑法を学習する前の私はそうでした。しかしながら、実際はそのようなことについて重点が置かれることはそこまでありません。
 では、いかなる内容を学習するのでしょうか。抽象論を長々と語っていても伝わりずらいと思いますので、実際に学習する事例の一例を紹介します。ぜひ何罪が成立するのか(殺人罪/殺人未遂罪/犯罪不成立など)自分なりの理由を付けて考えてみてください。
 なお、かっこの中に書かれているのは刑法を学ぶ上での講学上の単元名です。

①自分しかいない自宅において、近所のよしみで預かったの幼児に「死んでもいいや」と思って食事を与えなかったり世話を放棄したりした結果、その幼児は死亡した(不作為犯)
②恨みのある上司に山登りをすすめたら、山登り中に滑落して死亡した(因果関係)
③Aを殺そうと思って銃を撃ったら狙い損じてAには当たらずBに命中し、Bが死亡した(方法の錯誤)
④Cに毒ガスを吸わせて殺し、その後、死体は崖から落として処分しようと計画し、実行に移したが、実際は毒ガスを吸わせた段階では死亡しておらず、想定外である崖から落とした時にCは死亡していた。(遅すぎた構成要件の実現)
⑤だれが見ても砂糖だとわかるが、犯人は毒物だと勘違いし、それを政敵の紅茶に混ぜて飲ませた(不能犯)
⑥Dは、友人がEを暴行している状況に途中から参加して一緒にEを暴行した。そして、最終的にEは死亡していた。なお、Dの途中参加後にEが死亡したか否かは分からなかった(承継的共同正犯、同時傷害の特例)
⑦日本の領空外を飛行している日本の航空機内で人を死亡させた(刑法の場所的適用範囲)

[参考]
刑法199条【殺人罪】
「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。」 
刑法203条【殺人未遂罪】
「第百九十九条[省略]の罪の未遂は、罰する」 
刑法204条【傷害罪】
「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」 
刑法205条【傷害致死罪】
「身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。」 
刑法208条【暴行罪】
「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」

 いかがでしょうか。難しかったですか、それとも案外簡単でしたか。想像していた刑法の学習内容と一致していましたか、それとも少し違いましたか。答えについては、通説・判例と学説の対立あり一つに定まっているとは限らないことや私が人に自信をもって断言できないことから(こちらの方が強そうな気がしますが笑)、ここでは述べませんが刑法の雰囲気を少しばかり味わっていただけたと思います。
 このように、刑法はこういった単純だが難解な事例において自分なりの論理を付していかなる犯罪に該当するのかを決める学問です。(もっとも、各種資格試験では通説・判例に従う必要があるとは聞きます)

 そして、最後に刑法含む法律が条文番号や量刑を暗記する学問だと思っていた方は要注意です。刑法を大学で学んでいて「殺人罪は199条」と暗記したり、「殺人罪は死刑又は無期若しくは五年以上の懲役」だと覚えたりする必要はなく、何ならそれについて学習することもありません。なぜなら、そんなことは六法を参照すればすぐに分かりますから。
 つまり、刑法含む法律学とは、直接条文に書かれていない状況をいかに条文に即して処理するか(たとえば先ほどの事例が199条の「人を殺した」等に当たるか否か)という学問であり、決して条文を暗記する学問ではないということなのです。



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