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デンマーク暮らしの日記(1月24日、帰国前夜)

そういえば、朝にシナモンバンを食べて以来何も口にしていないな、と気が付いたのは日が沈んだ後だった。思えば今日は朝からバタバタとコペンハーゲン近郊を含め、動き回っていた。

忙しかった。だけれども、本当に良い日だったと思う。それは終わりに向かっていながら、新しい出会いがあったから。そして、思い出の場所を歩いてこの1年を振り返ることができたからだ。

今朝方、そのシナモンバンを食べにベーカリーに行った。やはり今日も窓辺の席に座り、次の予定まで少し1人の時間を過ごそうとぼーっとしていた。

しばらくして、1人の女性が、"隣いいですか?"と話しかけてきた。"もちろんですよ"と返し、彼女も窓辺の席に座った。

注文を終えた彼女が席に戻ってしばらくすると、"あの、もしかして日本人ですか?"とわたしに訊いてきた。"なぜわたしが日本人だとわかったのですか?"と訊くと、"日本人の友達が多いのよ。"と返された。

その後、わたしはデンマークに1年ほど住んでいたこと、フォルケホイスコーレの学生だったこと、明日帰ることを話した。

よくよく話をしていくと、なんと同じフォルケホイスコーレの出身の方だということが分かったのだ。何という偶然だろうか。彼女はもう20年くらい前に卒業したとのことだったけれど、あの学校で経験したことが人生において特別だったのは、わたしにとっても彼女にとっても同じだった。

そのあと、わたしの帰ってからのことや今少し悩み、考えていることを話した。

きっと大丈夫よ、と先輩に励ましてもらい、最後に連絡先を交換して別れた。

こんな出会いが帰国前日に起こるなんて。とても幸せな気持ちで店を出た。

予定を済ませて、昼からは思い出の場所を巡った。

思い出深い場所、好きな場所はごまんとあるのだけれど、最後に行くのならと決めていた、NørreportからNørrebroにかけてのエリアをゆっくり散歩した。

このエリアには湖、キルケゴールやアンデルセンなど著名なデンマーク人が眠る墓地がある。

わたしはこの2つの場所が本当に好きで、もう何度来たのかわからない。墓地が好きというと、驚かれるかもしれないけれど、本当に美しい場所で、よく地元の人たちが散歩をしているし、デートで来る人もいる。それくらい美しいんだ。

そんな場所をただただ歩きながら、"今、デンマークにいるんだ、この地を自分の足で踏んでいるんだ"という事実を噛みしめた。

墓地を抜けたところにあるお店に入って、家族へのお土産を買った。このお店の方も素敵な方だった。"再来月に夢だった日本に行くの!本当に楽しみ。"と話してくれた。

こうやって日本を好きでいてくれてわたしは嬉しいし、だからこそ、誇れる場所にしたいのだと思った。

少し盛り上がりすぎたのもあって、お店を出る頃には日が傾き始めていた。午前中は雲で覆われていた空が、うっすらとした雲のみを残して晴れ間を見せてくれた。"きっと今日の空は、わたしの好きな色になる"と思った。

ゆっくり元来た道を歩き始めた。次来るのはいつだろうか。そんなことを考えていたら、何度も泣きそうになって、買いすぎたはずのポケットティッシュが無くなってしまった。

こんなにもこの場所に恋をするとは思ってもみなかった。来た時は、いわば"外の国"だった。それが、1年を過ごして、自分が自分らしく在れる場所になった。だから、この国を離れることが本当に寂しいのだ。

涙が溜まって溢れそうになり、それを引っ込めたりを繰り返すうち、湖に差しかかった。

もうあまりにも綺麗な空で、寒いのを忘れて、しばらくこの風景を眺めていた。道ゆく人たちも、次々に足を止めて写真を撮ったり、ただじっと眺めていたり、この空の美しさを味わっていたようだった。"やっぱり、久しぶりの晴れ間は嬉しいよね"そう声をかけたくなった。

しばらくして、街は深い青に飲み込まれていった。そうだ、終わりがあるから美しいんだ、物事は。そう自分を納得させようとした。

明日デンマークを発つ。未だに信じられないけれど、"大丈夫、これは終わりじゃないし、ひとりじゃないよ。君が幸せであることを祈っている人は、ここにたくさんいるのだから。"と友達がくれた言葉を抱きしめながら、帰ろうと思う。

またね、デンマーク。

Tak for nu og vi ses.

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